第194話:現場より宇宙獣と猫巫女の姿をお送りします
「さすがにこの距離だと映りが悪いな。もっと鮮明に撮りたいんだがな」
「ああ、だがこれ以上近づくと、操縦不能に陥って墜落の危険があるらしい」
「本当かどうか分からんが、電子機器が使えなくって噂もあるし、近付かない方が身のためか」
ヘリのパイロットと短いやり取りをした後、Zビジョンの腕章を付けた男性が悔しそうにモニターに注視する。
最新鋭の超望遠カメラが捉え写す姿は、やや不鮮明ながらも、巫女のような衣装に猫のお面を被った少女と、首が捻れて、ちぎれそうな頭で吠える大猿の姿。
猫巫女が刀らしきものを天に掲げると、地面を犬が走り、座り込んでいた母と子を背に乗せ去って行く。
刹那、大猿が大きく踏み込み拳を上げ向かって行く。
その太い腕に添わせ鉄刀が滑り、吸い込まれるように大猿の
映像から音はしないが、大猿が大きな体を抱え込み屈む姿から痛みが伝わってくる。
猫巫女は足を軸に回転、鉄刀を振り下ろし峰の部分が肩に落とされる。
肩に衝撃を受け崩れ落ちそうな大猿を蹴り上げ、無理矢理立たせると、宙に赤い円を描き鉄刀がそれを通った瞬間炎が燃え上がる。燃え上がる炎の刀が舞い、赤い軌跡が引かれる度に大猿の体が大きくのけ反るがそれも許さぬ追撃で、体が炎に巻かれ煙と共に火の粉を舞い上げる。
炎を食い破り大猿の顔が現れ、長く伸びた首で猫巫女に牙を立てようとするが、逆手に持った刀を顎下から上空へと突き上げ頭を串刺しにすると、刀に光が集まる。
集まった光は弾け上空へと稲妻が昇る。
力なく崩れ落ちる大猿を蹴って強引に刀を抜くと、赤い円を四つ描きつつ刀を合わせ円を通し槍となったそれで二つ目の円を貫き真上に掲げる。
掲げただけと思われた槍は、カメラの死角から飛び込んできたもう一匹の大猿の胸元を貫く。そのまま三つ目の円を左手貫き槍を握ると稲妻が再び真上に昇る。
光の柱が昇り、目に残る光の残像が消える間も無く、四つ目の円を猫巫女が蹴ると穂先の上空が眩い光を放ち、雷が穂先に雷撃が落ちると衝撃と爆音を響かせる。
先の地面に転がっていた大猿も巻き込み落ちた雷に二匹の大猿は消し炭となり、力なく横たわる。
ここまで一瞬、あまりに鮮やかな動き、そして非現実的な光景にカメラが映し出した画面の向こうの誰もが手を止め、目を留める。
だが、これだけならただ憶測が飛び交うだけ、
〈ご覧ください、今お伝えしている映像は特撮でも、映画でもありません。今現実で起きていることです〉
テレビ、ネットのニュースに流れる声。
〈わたくし、Zビジョンの
みなさんの中にも助けられた、そんな経験した方がいらっしやるのではないのでしょうか?──〉
尚美のナレーションで始まるテレビの中継。これは全てのチャンネルで同時放送されている。
本来であれば他局同士、それぞれのチャンネルがで中継するのだが、そうもいかない理由がある。
高い高度を維持しながら超望遠レンズで中継できるヘリは二機。燃料の関係から交互に撮影せざるを得ないのだ。
そこで各局順番で同時放送しリレー形式で繋げていく。そしてもう一つ、映像は国によって
各局がまとまって放送するのには様々な裏の力が動いているわけである。
〈──彼女、『猫巫女』の正体につきましては、後ほど国の方から発表があるようです。それまで今は彼女の活躍を見守ろうではありませんか〉
正体については明かさないとは言わない。これにより無駄に余計な憶測を生み出せない。
だがそれでも、ネット界では様々な憶測が飛び交う。これらも全て国の機関が動きを監視し、誘導を行う。
なかには……
>猫巫女可愛くない? 絶対可愛いって!
宮西のように個人的誘導を行うものもいるが……。
もう一台のヘリがやってくると、Zビジョンの番は終わり、続くテレビ局が放送を繋げる。
〈皆さまこんにちは。Zビジョンの尚美さんに続きまして、アジテレビ
蜘蛛型の宇宙獣が
詩たちは助けた全員を覚えていないが、事件現場という特徴から助けた中に報道関係者は多い。それらのメンバーで構成された放送陣営からは、自然と猫巫女への好意的な報道にも気持ちがこもる。
〈あ、今自衛隊と、消防隊の混合チームの車両がこちらに向かってきました〉
猫巫女とは離れた場所から四台ほどの大型車両に乗った消防隊と共に、武装した自衛隊員が高機動車に乗って町へ入ってくる。
〈政府からの発表によりますと、宇宙獣からの脅威から市民の安全を守るべく編成されたチームだそうです。
もしも宇宙獣に遭遇した場合、慌てずに避難誘導、救助を主に目的とした彼らを頼ってください〉
消火機能を備えキャタピラ走行により悪路を進む車両や、アーム付いた瓦礫撤去を目的とした車両、怪我人の簡単な手当てができる車両等がある。
これら全て電子機器を使用しておらず、エンジンの駆動による機械の補助機能しかなく、操縦者の技量が問われる。
戦闘力は無いに等しい。そんな車両でも堂々と入ってくる彼らの姿に、未知の生物、宇宙獣の存在に立ち向かってくれそうだという期待を感じさせてくれる。
今までに経験のない脅威の存在の露呈。多くの人々は恐怖しながらもその存在をまだ、遠くで感じている。
ただこの報道で知ることとなった宇宙獣に立ち向かう猫巫女なる存在と、自衛隊と消防の合同チームに不安を感じながらも希望を抱こうとする流れもある。
そして漠然と不安を抱える人々の中に声を上げる人たち、これは間違いなくいる。
「ねえママ! お姉ちゃんだよ! お船で助けてくれたお姉ちゃんだよ!」
遠く離れた町で絆創膏だらけのシャチのぬいぐるみを抱えた女の子は、お母さんの手を引っ張り興奮気味に街頭のテレビを見て叫ぶ。
その声に、自分も、私も見たと声を出す人々が現れる。
ネットを介して広がる情報、見た、知ってる、そんな声が上がり出す。勿論デマも多いが大いに賑わいを見せる。
検閲され、少々消され誘導する情報が紛れ込んでも気付かないくらいに。
まだまだ小さいが、猫巫女の存在に希望を抱く声は確実にある。
***
放送するメリットはもう一つある。それは戦える者への呼び掛け。町の名前、敵の姿を流し四人へ知らせるのだ。
「お嬢様、ここも危ないかもしれません。避難した方がいいですよ」
テレビを見ながら食材をリュックに詰めるアラは、テレビの画面をじっと見つめるエーヴァに声を掛ける。
小さくため息をつきながら「タイミングわりぃな。まあ潮時か……」と呟くと、エメラルドグリーンの瞳をアラに向ける。
「アラ」
「は、はいっ?」
いつもの柔らかい声とは違い、鋭さを含んだそれを受け、アラは思わず上擦った返事をしてしまう。
「わたくしは、用事ができましたわ。今から出掛けますの。ですからアラにはお留守番をお願い致しますわね。
それと、ここは町から離れているから、家にいた方が安全ですわ。
……というより、わたくしが行かせませんもの」
それだけ言うとエーヴァがミローディアの入ったバックを肩に担ぐ。
「お、お嬢様?」
「アラ、帰ったらピザが食べたいですわ。それもチーズたっぷりの凄くジャンキーなヤツを作ってくださる?」
「え? えっ?」
困惑するアラに優しく微笑むエーヴァ。
「帰ったらお話しなければならないことがありますの……っと、この物言いは死亡フラグっぽいですわね」
コホンと可愛く咳払いをして、鞄からミローディアを取り出すと、大鎌の姿を披露する。
「わたくし、アイツらを砕いてきますの。全部地獄に落として差し上げたら、すごーくジャンキーなピザを一緒に食べますわよ!」
全く理解の追い付かないアラだが、「食べますわよ!」で拳を上げたエーヴァが可愛いのと、ポーズを取った後でいそいそとミローディアを折り畳んで、鞄に収納するエーヴァもまとめて可愛いのだけはハッキリと理解できた。
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