第193話:策を講じるのが人間だけだと思うなよ
山奥にあった廃墟に拠点を構える体長三メートルほどの猿たち。その中でも一際大きな猿の金色の毛並みは暗闇でも仄かに輝きを放ち、美しさよりも威圧を放つ。
詩たちが
広い土地に建つ、上に横にと大きな家も三~五メートル近くある彼らには手狭だが、二階部の床を取り払うという匠顔負けのリフォームを施し快適に過ごせるように工夫している。
テーブルを材料にしたと思われる大きな椅子にふんぞり返り、動物の足に豪快にかぶりついて肉を引きちぎる黄金狒々の前に、一匹の赤毛の猿が現れると片膝を付き
黄金狒々が短く唸り足をで床を踏むと、赤毛の猿は頭を上げ四つの目を向ける。
猿としての言語なるものはないが、寄生体同士で会話ができる。
これは寄生体の元となった宇宙人であるベストラ人の言語を元にした電気信号に近いものを、空気を介して飛ばし会話をする。
ふんぞり返り威圧感を放ち睨む黄金狒々と赤毛の猿が声を出さず互いが向き合う姿は、周りから見れば睨み合っている様にしか見えないが、赤毛の猿が見てきたものを伝える。
自分たちと同じ者であるウーラーの最期を知った黄金狒々は、手に持った肉の塊を口に放り込むと骨ごと砕きながら咀嚼する。
骨の砕ける音をしばらく立て、喉仏が大きく動くと大きく息を吐く。
それを合図に床が軋む音と共に家の奥からゆっくり現れるのは全身黒い毛の猿。黄金狒々ほどではないが体は大きく、胸元に白い毛が三日月の形を象って熊のようである。
更に頭が蜘蛛の顔になっている猿と、右腕が蛇になって体に巻き付けている猿が現れる。
四匹が黄金狒々の前に跪く。
人には聞こえない会話がなされたのち、四匹が深く頭を下げると四匹が散り散りに去っていく。
誰もいなくなった部屋に一人残った黄金狒々は、頬杖をつき歯茎をむき出しにしながら笑みを浮かべる。
* * *
昼下がり、多くの人で賑わう繁華街。通信機器を中心とした機械が動きを止め、混乱を助長するかのごとくそれは突然現れる。
ビルの上から落ちてきた体長4メートルほどの生物は車の上に着地し、車を鉄の塊に変えてしまう。
一見猿かと思う外見をしているが、顔は蜘蛛であり、その異形さに気付かぬ人はいないであろう。
目は猿のままだがそれは八つあり、その目にある目玉をバラバラに動かし、周囲を見渡しながら、顎を左右に開き牙を見せ吠え周囲を威嚇する。
政府からその存在を発表された今、この言葉が出るのは自然なことであろう。
「う、宇宙人だ!!」
男の人であろう声が響き、皆が蜘蛛の顔をした生物を宇宙人と認識し、蜘蛛の子を散らすように散っていく。
それを見た蜘蛛猿は空に向かって吠える。自分の咆哮に怯え逃げ行く人間どもを笑うかのように何度も。
そして蜘蛛猿が下りてきたビルから更に四体の大猿が落ちてくる。蜘蛛猿を囲み一歩下がって頭を僅かに下げる。
蜘蛛猿が手を払う仕草をすると、四体は四方に散り逃げ纏う人を追いかけ襲い始める。
宇宙人の襲来に死に物狂いで逃げ惑う人々だが、中には走れない人たちもいる。そんな人の一人、ベビーカーを押していた女性は、泣き叫ぶわが子を抱きかけると走り始める。
本当ならすぐに襲えただろう、だが一匹の大猿は女性が逃げるをしばらく見た後、両方の口角を上げニンマリと笑い軽く走り始める。
大きな足音をわざと立て獲物を追いかける。時々振り返る女性の恐怖に満ちた顔を見る度に笑みを深め手を叩き吠える。
そのまま女性に追いついた大猿は、女性の前に回り込むと立ちふさがる。大猿にぶつかって尻餅をついてしまう。恐怖で怯える目で見上げる女性を、大猿は見下ろし笑みを浮かべる。
大きな手を広げ女性が必死に抱き締める赤子に手を伸ばし、指先が触れそうになったそのとき、大猿の首の前後に二本鉄刀が這い首を挟む。
ゴキュ
鈍い音と共に大猿の視界は捻じれ、胸元に大きな衝撃を受け後ろへ吹き飛ばされる。地面を転がり体を削りながら、受け身を取り片膝を付きつつ体勢を整える。
捻じれた視界に自分の首が折れていることに気が付くが、そのまま自分の首を折った相手を睨みつける。
「何とか間に合った。さてと、首折ったくらいじゃ大したダメージになんないでしょ」
手足の露出の高い猫のお面を被った、猫巫女は鉄刀の先端を差し向ける。
「かかってきなさいよ。相手したげる」
挑発する猫巫女に、大猿は立ち上がると捻じれた頭のまま牙を見せ威嚇する。
* * *
二人が向かい合うその遥か上空をヘリが飛ぶ。本体の先端につく球体のカメラは、望遠レンズのピントを合わせその様子を捉え、それは全国へと放送される。
この日、宇宙人の姿と同時に猫巫女の存在を皆が知ることになる
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