第191話:知らぬ間にデビューすることってあるんだね

 教室に着くといつもの雰囲気と違い、みんながざわざわしている。いつもならそれぞれ他愛のない話に興じるのだが、今朝の話題はみんな一緒で、『地球外生命体がこの世界にいる』だ。


 まあ無理もない、昨日突然政府から重大発表があるとテレビや、ネットで流れ、スマホには緊急速報の通知が来る。


 記者会見での官房長官の「地球外生命体、所謂宇宙人は存在します」の発言にざわめく報道陣。一部熱く質問する人たちがいるが、基本的に滞りなく淡々と進められる。

 そして防衛大臣からの「我が国は地球外生命体から国民を守る手段を有する」の発言に会場がどよめきに包まれ、質問にはほぼ答えず強引に記者会見が終了する。


 ここから各局『地球外生命体は存在する!? 最近の猟奇殺人事件に関与か』的な見出しで報道されるわけだが、基本的に夜間の外出を控え、記者会見で発表された電波障害のことを軸に身の回りの変化を感じたら連絡を。

 冷静な判断を心掛けましょうという冷静なもの。


 いつもなら各局、こぞってこの事実を放送し、事件現場に赴き悲惨な状況や、ここまでの政府の対応を批判し熱く報道しそうなものだが、政府が危険時に発信するアラートの設定の仕方などを放送していた。


 まあ、これには理由がある……。


「おはよー、詩っ!」


 肩をポンポンと叩かれ振り向くと、笑顔の美心がいた。


「昨日のニュース見た? いやぁ~驚きだね、宇宙人とか本当にいるんだね」


 大袈裟に驚く美心だが、周りのみんなだって同じような会話しかしていないから違和感は感じられない。

 というか、出会ったことのない宇宙人がいますよ、なんて政府が発表しても生活が変わるわけでもないし、あまり実感が湧いていないのが現実だろう。


「だねっ、私もびっくりだよ! 宇宙人ってなんだろうねっ! 見てみたいね!」


 私も知らぬ振りを演じてみるが、美心の目は何故か冷たい。


「そんなに、力一杯に否定しなくて良いと思うけど……」


 どうやら演技に熱が入り過ぎたようだ。今後の為に反省し、次へ生かそう。


「それはそうと、ここからどうするの? 相手の動きも分かんないわけでしょ?」


 今の失敗を次への糧にと生かそうと意気込む私に、美心が耳打ちをしてくる。


「まあ厳密にはそうなんだけど、なんとなく当たりがつけれるようになるかもしれないって」


「本当に!? なにそれスゴいじゃん!」


 小声で興奮する美心の肩をチョンチョンと突っつくと私は、友達と宇宙人談義を熱く語っている宮西くん君を指差す。


「宮西くんが考えた方法、電磁波に対抗するんじゃなくて、不具合をサーチの条件にするってやり方が採用されてね、早急に開発が進んでいるらしいよ」


「まじで!? あいつスゴいじゃん」


「なんでも、みんなが宇宙人による電磁波に対抗するため躍起になってて、不具合が起きれば目印になるんだから良いじゃん! 的発想がなかったっんだって」


「へぇ~、頭いい人が沢山いるだろうにその発想がないなんて、なんか意外だね」


 へぇ~、へーっと感心する美心。


「で、そのレーダーが捕らえた位置情報を素早く各局に流す、電磁波の不具合の効果範囲を考慮し宇宙人と自衛隊の戦闘を配信させられるかもね、ってのが政府から報道関係への提案。


 その情報を得る為には、あんまり政府に突っ込んだりすると、あげないよってこと」


「なるほど、だから報道合戦みたいなのがなくてみんな大人しいんだ。今情報を多く持っているのは政府だろうし、報道関係者は情報が欲しいもんね」


 美心は再びへぇ~を連発し始める。


 裏事情をこそこそと話した私だが、ポンポンと美心の肩を叩くと親指をグッと立てる。


「美心、デビューおめでとう」


「え、なに? どういうこと?」


 私の言葉に戸惑う美心の肩に手を置いたまま、うんうんと私は頷く。



 * * *


 お昼休み、いつものメンバーでご飯を食べる。

 今回は早急なこと故に私、エーヴァ、スー、シュナイダーの四人に尚美さんから今後のことが先に伝えられたわけだが、その内容を美心と宮西くんへ伝える。


「なんですと、私の衣装とぬいぐるみがデビュー!?」


「正確には私の衣装と、白雪がね」


 盛大に驚いてくれる美心の姿を見て、意味はないけどなんだか嬉しくなる。

 対してこういう話が始まると、神妙な面持ちになり喋り始めるのは宮西くんなわけだが、既にエーヴァに微笑みで威圧され、白雪に羽交い締めにされている。

 チームワークはバッチリである。


「この間ウーラーが出たときの政府側も宇宙人の出す周波数、電磁波なんかを記録してたみたいだし、解析が進めば位置を把握できる日も近いかもね」


 私の言葉に宮西くんは羽交い締めにされながらも目を輝かせ「そうそう」と何度も頷く。

 おそらくここが一番話したかった話題だろうから触れておく。


「でもさ、さっきの説明で詩と白雪をメインにして放映するって言ってたけど、運の要素が強すぎない?

 まだ所在地が完璧に把握できる訳じゃないんでしょ?」


 美心がごもっともな意見を述べる。


「作戦は計画ではありませんわ。目標であり行動示唆。サポートと実行者が目標に向かい行動し、運も含め達成する為のもの。作戦が始まる前に失敗なんてザラですわ」


「ここで最高の状況を引き寄せるのも含め作戦なのです。先のウーラーを踏まえればあちらも隠れるより向かってくる可能性が高いと思うので、好機はくるはずなのです」


「そういうこと、いつきても良いように作戦を練りながら身構えておけるか、僅かなチャンスも逃さないのが大切なわけ」


 美心は私たちを目を丸くして見つめる。


「詩たちの言ってることポジティブなんだけど、内容が死線をくぐり抜けてきた人の発言過ぎてなんか引くわぁ」


 なぜか褒められずディスられる。普通ここは褒めるとこでしょ。


 そんなことを思いながら空を見上げ流れる雲を見つめる。流れていく雲はゆっくりと形を変えていく。

 前世の空と変わらない青い空。いつもそこにあるはずなのに、争いが始まると皆、前か下ばかり見る。上を見上げるときは何か降ってくるときぐらい。


 のんびり空を見れること、当たり前のことができるように、私がやれることはやろう。

 

 そよ風に髪を撫でなられながら誓う。

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