第189話:詩日記⑥
元々飽きっぽい性格ではないけど、日記がここまで続くとは思っていなかった。
前に書いた分とか読むと、そのとき起きた出来事はもちろん、気持ちまで思い起こされるから読み返すのも楽しい。
前世で書くこともないし、めんどくさいからやらなかったけど勿体無いことしたなぁ~。
あっ、でも死んだ後で誰かに読まれるとか考えたら恥ずかしい気がする。
コイツこんなこと考えてたんだとか思われたりして、本当は違うんだけど死んでるから弁解もできない……これは地獄だ。
死ぬ前まで付き合いがあった相棒兼、妹みたいだった人を思い出し、アイツなら間違いなく読んで笑うなと一人で納得し、やっぱり書かなくて良かったと胸を撫で下ろす。
心の中で忙しく考える私は、右手のペンを一回転させると握って日記にペン先をつける。
◆ ◆
ウーラー討伐後も
蜘蛛たちに荒らされたのもあるが一番問題になったのは、多くの住人たちが糸にくるまれた状態で天井や壁に引っ付いた状態で発見されたことだ。
住民基本台帳を元にして捜索が行われているらしいが、糸にくるまれた住人の発見場所が高所であることが多いこともあり、救助がかなり難航しているようだ。
糸にくるまれた人たちは、蜘蛛によって神経系の毒が注入されており、重傷者が多いが、直ちに命に別状はないとのことだ。ただ、毒が抜けても目眩や吐き気等は続き、日常生活に支障をきたす可能性が高いとのこと。
蜘蛛の補食方法は、下顎を刺しての溶解液を注入しながら肉を啜る(宮西くん談)なので、補食された人はほぼ助かっていない。
人口約一万五千人の細蟹町全土が、蜘蛛の糸に覆われたわけではないが、今現在で死者約二百人、重軽傷者六百人が確認されており今後も増える見通しだ。
大きな被害だが、現場にいた私からすれば、かなり多くの人が助かっていると自信を持って言える。
ウーラーを討伐し無線が通じるようになった後すぐ、自衛隊の人たちを中心に消防隊も加わり救助活動が迅速に行われた。
正直私たちだけでは、こんな人数は助けれなかったと思う。戦うことで脅威から命を守ることはできるけど、失われそうな命を救ったり、助けを求める人の救助をしたりはできない。
まして町の復興なんて論外だ。
◆ ◆
ここまで書いて私は日記を閉じる。
「やっぱり様々な分野の人たちとの協力は、必要不可欠なんだよね」
自衛隊員の一人、三木さんが私たちを捕獲する作戦を命じられていたことを明かしてくれた。一緒に戦ったメンバー全員が、このことを明かしても問題ないと判断し、詳しく話してくれる。
と言っても、三木さんたちも私たちを任意同行、または捕獲するように命じれていただけで、捕まえた後どうするかは聞いていないらしい。
ただ、上の人の言葉を拾ってまとめて簡単に言えば、私たちが宇宙人を討伐できる力の秘密を知りたいのではないかとのこと。
あわよくばその力を自分たちのものにできないか、できないなら私たちを懐柔、もしくは脅迫で利用できないかを模索しているのだろうとのこと。
「はぁ~嫌になっちゃうね。今の現状を考えたらどう考えてもお互いが腹の探り合いしてる場合じゃないだろうにね」
ペンをくるくる回しながら文句を言う私は、この内容を話したとき、坂口さんと尚美さんが真剣な表情で何かを考えていたことを思い出す。
あの二人のことだから任せておけばいい方向に向かう気がする。
「さーてと」
椅子から降りて立ち上がると、大きく背伸びをする。
美心のところに行くため身支度を始める。因みにだが、今日は普通に遊びに行くだけである。
私の本業は学生、たまには遊んでも良いではないか!
準備を終えた私は、今日の予定を考えながらワクワクする気持ちを胸に出掛けるのだった。
* * *
棒付き飴を咥え肩肘をついてゴロゴロしながら本を読む幼女、女神シルマ。
シルマの住む部屋の扉が勢いよく開く。
「シルマ! 許可下りたわよって! あんた飴咥えながら寝転がったら危ないでしょ! 喉突いたらどうするの!」
勢いよく入ってきたのはシルマと同じ赤髪の少女、女神スピカである。ズカズカと足音を立て入ってきたスピカに、無理やり起こされて座らされたシルマは一言。
「スピカ、お母さんみたいっす」
「だ、誰がお母さんみたいよ! 私はあんたのお母さんじゃないわよ! お母さん!? ……
両頬を押さえ首をブンブン振り、顔を赤くしてキャーキャー言いながら恥ずかしがるスピカを白い目でシルマは見ている。
「スピカ、何か報告があったんじゃないっすか?」
シルマに言われ一瞬で真顔になるスピカに呆れつつも、棒付き飴をピコピコさせながら話を待つ。
「前にあんたが言っていた地球に来た宇宙生物の情報開示の件」
スピカの話を聞こうと前のめりになるシルマ。そんな姿にスピカは頬を赤くしながら片目で得意そうにチラチラ見る。
「現在地上にいる数はダメだけど、空にいる残りの数を教えるのはありだって。ただし、教えれるのはあの転生者四人のみ!」
「しょぼいっす」
シルマは前のめりになっていた体を元に戻して、残念な表情で天を仰ぐ。
「こ、これでも頑張ったのよ! 生物同士の争いに介入しないのが掟だって言うあの頭の固いオッサンを眷属の猫たちの肉球攻めにして、やっとここまで許可もらえたんだから。普通なら許可もらうのに百年くらいかかるのに……私頑張ったのにっ! ふわっ!!!???」
シルマの反応に涙目で訴えるスピカを、シルマが抱きしめて頭をよしよしと撫でる。
突然のことにスピカは至福の表情で鼻血を出しながら溶けかけている。
「ふむぅ、まあ残りの数が分かった方がモチベーション的にはいいかもしれないっすが、最終的にあの船は無くなった方がいいっすね……さてどうするっすかね」
自分の胸元で天に昇りかけている、スピカの頭を撫で続けながらシルマはポツリと呟く。
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