第187話:やはり大技を出す手順はめんどくさい
スーが水浸しの地面を音も飛沫も立てずに走って間合いを詰めると、魔力を宿した拳をウーラーの蜘蛛の死骸でできた脚の一部に打ち込む。その拳にモモンガ姿の白雪が手を添えると、魔力の量は一瞬だけ跳ね上がり放出される。
欠損した部分に先端を刀にした『薙刀』の形態をとる朧を叩き込む。同時に放たれる電撃がほとばしり、蜘蛛の体は完全に消え去る。
だが、薄汚れた糸が足長蜘蛛と共に飛んできて、足長蜘蛛を欠損した部分に叩きつけると脚の補修を行う。
足長蜘蛛に意思があるのかは知らないけど、かなり酷い扱いだ。
「スー、白雪、あんたたちがやっぱ一番威力がある。核となる本体までの道を作るから、最初は私を手伝って」
「分かったのです!」
【まかせるのよ!】
同時に親指を立てて同じ格好でオッケーをする二人。こんな場所だけどなんか可愛いなとか思ってしまう。二人とも前世の記憶が曖昧とか言ってたけど、前世ではかなり仲が良かったのは間違いない。
そんなことを考えながら私は地面に先端を尖らせた筒を刺すと、次に行く。
走る私の上から飛び込んできたシュナイダーが、辺りにいる足長蜘蛛を蹴散らし隣を走り始める。
「聞こえてた? シュナイダー、スーたちに道を作ってあげて」
「ああ、任せろ。詩、準備ができたら知らせろ。それまでオレは防御に専念しよう」
水飛沫を僅かに上げ宙を駆け、エーヴァのサポートに入る。いつもあんな感じだったらもう少しモテるだろうに。現に前世では今みたいな感じだったんだけど……女神も欺く男の考えていることは分からない。
私は筒をウーラーを囲むように刺していく。
さっきまで一緒にシュナイダーと戦っていたエーヴァが、脚の一部を豪快に切り裂きながらやってくる。
華麗に大鎌であるミローディアを振るう姿は美しい。
「砕けろやぁ!!」
あの言葉がなければだが。
そんな口調とは対照的にエーヴァがふんわりと私の隣に着地する。前世と全く違う立ち振る舞い、私たちの中で一番変わった人ではなかろうか……いや、スーの方が性別も変わっているから負けてはいないかも。
「後どれくらいで準備は終わる?」
「大体終わってるんだけど、問題はウーラーの本体にこれを投げ込めるかなんだよね」
私が朧を振ってアピールすると、エーヴァが攻撃してきたウーラーの脚を弾きながら考えている。
「本人に奪い取ってもらえばいいんじゃねえか? 中心には糸を出すヤツがうようよしてるわけだしな」
「なるほど、ん~とじゃあ、私の朧が一番ってとこアピールしてみるから手伝って」
私が朧を『槍』に変形させると、エーヴァがミローディアで切った後をなぞり、電撃を纏う槍で傷口を広げる。
脚の内部を走る電撃の威力は大きく、ウーラーの脚の一部を破壊する。
大きく破損した脚を修復するために大量の足長蜘蛛が投入されるが、空中から降りてきたシュナイダーが風を円上に舞わせ、足長蜘蛛たちを暴風に巻き込んだところを私が風に雷を乗せ足長蜘蛛たちを一掃する。
迸る閃光の中、走ってきたスーと白雪の攻撃に合わせ私が槍を振るう。
跳ね兎の攻撃に破壊された脚が完全に崩壊しちぎれ飛んでいく。
だが、その場に立っているのは私だけ。雷の光に隠れスーたちが攻撃したことは知らないであろうウーラーの前で、槍状の朧を振るうと雷鳴が鳴り響く。
一瞬だけ無くなった脚は、糸に絡めとられた足長蜘蛛を材料にして再生される。
まったくとんでもない生物である。だが、
「シュナイダー、ウーラーの体積に変化はある?」
私は空中を駆ける、シュナイダーに向かって尋ねる。
「目測だが、今再生した脚の長さは他より僅かに短い。足長蜘蛛の数に変化はないが、切った感じ最初の個体より脆くなっている感じはするな」
視線を蜘蛛に向けたまま答えてくれるシュナイダーの情報を基に、兼ねてから宮西くんや坂口さんが唱えていた『宇宙人の進化有限説』を考える。
肉体の一部を使って急激な進化をするのに体に負担がかからないわけがない。ウーラーの卵だって無限でないはず。
「有限である限り、確実に倒せる。それが何者でもね!」
私を中心に攻撃を仕掛けていく。ウーラーの巨大化には一瞬驚いたが、動きは大味になり、本体に近づけないが攻撃は読みやすい。それに自ら作った巣の中に閉じ込められた今、その巨体を生かせる場所ではない。
シュナイダー、エーヴァ、スーの攻撃に合わせ私が大きな八本の脚を次々と破壊していくと、ウーラーの修復スピードが僅かに落ちていくのを感じる。
だが、ウーラーが再生不可能になるまで削り続ける、持久戦に持ち込めるほどの失速ではない、今後の展開を考えればエーヴァが言った通り短期決戦に持ち込むべきである。
足長蜘蛛に埋まるウーラーの本体の八つの目が私に向いていて、明らかに私に注目しているのを感じる。知能があるなら騙し合いもできる!
エーヴァのミローディアが弧を描き、脚を弾くと浮き上がったその下にシュナイダーが潜り込み風を巻き上げると、脚を大きく浮かせる。
無理矢理浮かされ、あらぬ方向に曲げられた脚にできた隙間に雷を纏った朧を振るい切り裂くと、雷光に隠れたスーと白雪がちぎれた脚を破壊する。
そのまま突き進む私を、隣を走るシュナイダーが風を巻き、襲いかかる足長蜘蛛たちを蹴散らしていく。
私たちの左右を鉄板が飛んでいき、正面のウーラー本体を守る足長蜘蛛たちに突き刺さった瞬間、鋭い笛の音が響き蜘蛛たちが破裂する。
散らばる蜘蛛たちの間を槍状の朧を突き立てんと、突き出す穂先が本体に僅かに刺さったとき、糸が朧に絡み付き強い力で引っ張られ、そのままウーラーの上にいる足長蜘蛛たちが糸を巻きながら群れの中へ押し込んでいく。
槍を手離す瞬間、
その私の足をシュナイダーが鼻先で押し上げ上空へ放り投げられると、モモンガの白雪にキャッチされ、そのまま滑空する。
「さて、仕上げといっちゃおうか!」
手に持つ一本の糸をハラリと落とす。
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