第186話:そっちの方向!?

 脈を打つようにリズムよく体を震わせていたウーラーが激しく揺れ始める。


「イヌコロ! 上だ!」


 エーヴァの声に反応したシュナイダーがエーヴァ、スー、白雪を回収し空中を駆け上がる。

 それと同時にウーラーの体にヒビが入り、割れ目から糸が飛び出す。

 それはウーラーを中心に放射状に広がる糸は、地面に転がる蜘蛛たちに絡まっていく。


 上から見ると地面に大きな蜘蛛の巣が広がっている。

 そしてウーラーが体の割れ目から茶色に緑が時々混じる液体を吹き出しながら伸びる糸は、所々が茶色く薄汚れてて巻き付いた蜘蛛たちの体を突き破り貫通すると倒れていたはずの蜘蛛たちが起き上がる。


 体が半分だったり、頭がなかったり手足がないものも関係なく糸で繋がれたそれはウーラーを中心に広がる。


 放射状に糸で繋がり広がる蜘蛛たちは足。中心にいるウーラーは体。

 上から見ると巨大な蜘蛛を型どっている。


「取り込んだ寄生体の能力でデタラメに進化するかと思いきや、仲間を取り込んで肥大化するってめんどくさいことを……。

 そういやイタチなんかは合体したっけ」


 私は弓を引き中心にいる本体を狙うが、背中に背負っていた卵からあふれでた足長蜘蛛が本体を覆って、我が身を犠牲にして矢を受け止める。


「げっ、小さいのが本体を完全に覆ってしまったかぁ。これはどうしようっかねぇ」


 悩む私の前に空を駆けるシュナイダーがやってくる。背中にエーヴァとスー白雪を乗せて満足げな表情なのがムカつくが、今は気にしている場合じゃない。


「エーヴァ、寄生体の位置特定できた?」


「腹の下だな。今は音が拾えないから分かんねえけど多分変わってねえはずだ」


 宇宙人が体を変化させるとき、中の寄生体は激しく動くと、前に戦闘したカエル、大蝦蟇おおがまでエーヴァが探知に確信を持ったので位置の特定には成功した。


「雷を流しても倒しきれないってことは、何らかの核に包まれている可能性が高いってことか」


 私はスーを見る。


「スーが魔力を流しても奥にまで届いていないのでその認識で間違いないのです。

 魔力が遮断された方向からも、エーヴァの言う下腹部であってるのです」


「スーが全力でいった場合核ごと破壊できそう?」


 私の問いにスーは首を横に振る。

 内部破壊に特化したスーの攻撃が一番有効なのだが、全力を出した後の反動を考えると使いどころは難しい。それに加えスーが全力を出しても核の破壊に自信が持てないとなれば、別の方法を考えなければならない。


「詩、あんまり考えている暇はなさそうだ。ヤツが動き始めたぞ」


 シュナイダーの言葉に下にいるウーラーを見るとさっきまでは、大きな体を持て余した感じでモゾモゾと動いていたが、慣れてきたのか糸で繋がった蜘蛛たちの死体でできた足を大きく動かし歩き始めた。

 大きな足と足の間には糸が張られ、卵から次々と生まれる足長蜘蛛が闊歩する。本体の上にもぎっしりと足長蜘蛛がひしめいていて寄生体のいる核を守っている。


 空中から攻撃となるとシュナイダーが最適だが、シュナイダーは核まで届く攻撃に乏しい。一番確率の高いスーは超近距離。

 遠距離の攻撃方法に乏しい私たちの悩みどころだ。


「時間もないしやりながら考えよっか。

 糸に触れるのは危険と判断、外側を削りつつ突破方法を見つける。

 エーヴァとスーが破壊、白雪はムササビメインで、シュナイダーは距離を取りつつ空中から攻撃とサポートを、それと一応予定通り私が水を使うのは変えない方向でいくから、合図したら足元に気をつけて」


 私の言葉に皆が無言で頷き、エーヴァとスー&白雪がシュナイダーから飛び降りると華麗に着地する二人。


「シュナイダー、上から気付きがあれば知らせて」


「おう」


 シュナイダーと短いやり取りをして私はビルから飛び降りると、水しぶきを上げ着地し、さっそくやってくるウーラーの足の攻撃を飛んで避ける。

 空中で分割した朧を刀にして蜘蛛の背中を切り裂きながら着地する。


「あさっ! 手応えなさすぎ」


 想像以上に浅い手応えに驚いてしまう。足の一部となっている蜘蛛につけた切り口を見ると泡立ち塞がっていく。

 目に光のないこの蜘蛛に生気は感じられないが、傷が治るということはウーラーと繋がっているからかも。ためしに足を形成する糸を切ってみるが、すぐに修復される。


「エーヴァ、足の一部を切り離したいんだけど手伝って!」


 少し離れた場所で攻撃をする、エーヴァがウーラーの足の下を滑り込みやってくると、私の斬撃に追撃を加える。糸は切れ、蜘蛛が足の一部から解放され地面に力なく転がる。


 ピクリとも動かなくなる蜘蛛だが、ウーラーの足から糸が伸び突き刺さると再び足の一部に戻ってしまう。


「切り離しては、潰していくって方法はありかな?」


「んなの時間かかり過ぎるだろ。短期決戦じゃないとコイツがどう変化するか分からねえぞ」


 エーヴァからごもっともな意見を頂戴し、再び攻撃を繰り出しながら思考を巡らせる。

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