第183話:国家資格は幸せを呼び込むから取っておこう!
四つのビルを柱にして巻かれそびえ立つ糸の棟。ビルの下に走る地下空間の数は無数にわたる。その中で通信ケーブルの通る空間、『とう道』と呼ばれる場所をシュナイダーとスー、白雪は走る。
【さすが自衛隊さんたちの情報ねえ、予想通りこの道は蜘蛛がいないのよん】
「扉も頑丈で、ここは地下鉄よりも深いらしいのです」
「俺の愛の深さも中々だぞ」
犬の呟きは無視されるが、あきらめずに果敢に挑む。
「スー、今日もいい薫りだ。この薫を嗅ぐと俺の鼻もピンクに染まる」
魔力を帯びた手刀が弧を描き、それをシュナイダーは飛んで避け空中を走り出す。
「お前からは変態臭しかしないのです! 白雪、スーはこのワンコロ嫌いなのです!」
【はいはい、怖かったわねー。もうっ! 毛むくじゃらな殿方、スーを傷つけるのやめてくれるかしらん。この子そういうのに対してナイーブなのよん。純情なのっ。でぇ・もっ! 代わりにわ・た・しでど・う?】
「遠慮しておきます」
白雪の白い手刀が空を切り、それを避けたシュナイダーが壁を走り始める。
* * *
三人が賑やかに地下を走って向かってきていることを知るよしもないウーラーたち蜘蛛の大軍。
先ほどからこの巣に敵が侵入したと、分裂体から信号が送られてくる。それと同時に信号が飛んできた一角からほとんどの信号が消えてしまった。
信号が消えた原因が希少種であることは間違いないと確信を持ち、警戒するよう他の蜘蛛に信号を飛ばす。
危惧すべき相手あるのは先の戦いで理解している。だが、どの侵入経路であっても、自分の身に近付こうとするならば、張り巡らした罠と数の暴力で敵を駆逐する自信もある。
ウーラーは八つの目を光らせ敵が罠にかかるのを静かに待つのだった。
* * *
「おい、武藤。これはここでいいか?」
「あ、もう少し右にずらしてもらえます? あ~と、はい、そのあたりで大丈夫です」
仲間に指示を出すのは自衛隊員の武藤である。この作戦、彼を含め3人の腕に掛かっているといっても過言ではない。
「へえ、これってどうやって計算するんです?」
どこからともなく隣にやってきた、詩が武藤に感心したように尋ねる。お面は外し頭の横に乗っている。そして
「え、あ、う……うたっ、うたさん。はいですね。爆発の威力と角度をけけ、計算するっ。今回発破がガソッ、ガソリンなんで、正確にはでないですっが、鉄塔部分でならおよその計算でいけ、いけるであります!」
カミカミの武藤の話を詩は頷きながら真剣に聞いた後少し困った表情をする。
「
「え? 技に活かす、ああなるほど! ど、努力家……な、なんですね。勉強すれば、詩さんならだ、大丈夫ですっ!」
「う~ん勉強かぁ、私にできるかなぁ。そうだ! 今度機会があったら教えてください。私もその免許に興味ありますし、勉強して無駄にはならないと思うんです」
良いこと思い付いたと、満面の笑みを見せる詩に武藤はクラクラする。
国家資格である発破技師の免許取ってて良かったと、報われたと心の底から思った瞬間だった。
「え、ええ! ももももちろん!」
しどろもどろで必死に答える武藤を見てクスッと笑った詩が緩い敬礼をする。
「それじゃあ、武藤さん、私は他の場所にも行かないといけないんでこれで。頑張ってくださいね!」
スタッと軽やかに跳ねて詩は別のポイントに行ってしまう。
詩に名前呼んでもらえた~、武藤はデレデレの敬礼をしながら心の中は幸せを叫ぶ。
そのまま武藤が視線を上に上げると鉄塔の上に優雅に座っているエーヴァの姿がある。
彼女は敵襲に備え周囲を警戒しているのだが、鉄骨に腰掛け中に足をパタパタしていてくつろいでいる様にも見える。肩に担ぐ
そして少ししか会っていないが、ウサギのぬいぐるみと手を繋ぎ、背中にモモンガのぬいぐるみを背負っていた少女、スー。
語尾に「なのです」と付け喋り、ぬいぐるみに囲まれる姿はキュートでこれまた萌えである。
それから、凛々しい赤い毛並みの犬シュナイダー。彼は武藤を見てフンっと鼻を鳴らし、渋い声で「お前からは俺と同じ匂いがする。よき友になれそうだ」と言われた。
武藤は考える。シュナイダーと友達になる、それはつまり詩たちと友達になるということ。ぐっと近づく距離感!
「シュナイダーとは何となく気が合いそうだし、仲良くできそうだ。いい風が吹いているっ! 運が向いてきたな。よしっ、やるか!」
気合を入れ作業に取り掛かる武藤は知らない、彼が今いる地下でスーがシュナイダー嫌い宣言をしていることを。そしてシュナイダーと仲良くなることが
明るい未来に向け張り切る武藤がシュナイダーと仲良くなれるのは間違いないのかもしれないが……
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