第182話:フタフタ……ん~22時15分、作戦決行!!
白い蜘蛛の糸でできた棟に一角、ビルの屋上に鉄塔とパラボラアンテナを有する電話会社の所持するビル。近くで見ると、鉄塔の赤い色が蜘蛛の糸の隙間から覗いている部分がある。
この電話会社のビルと、他三棟のビルで形成されていると推測される蜘蛛の巣の白い棟。電話会社のビルの形状からか、他のビルの箇所より隙間が多い。
そんなビルに蜘蛛は闇夜に糸を張り巡らし獲物がかかるのを潜んで待つ。
ましてここはビルの壁の側面。こんなところに歩いてこれる生物は限られている。希少種といえどもここに来るのは苦労すると思っていた。
大きくうねる糸が獲物がかかったことを教えてくれたのだと思ったのも束の間、全く反応しなくなった糸が罠が壊されたことを知らせてくる。
焦り、そんなものを感じる前に顎下から入った大鎌のが頭を割ると、後方から飛んできた稲妻が蜘蛛の体を駆け抜ける。
雷光に銀髪を輝かせながらビルの壁を蹴って、次なる標的に向かうエーヴァと入れ替わりにやってきた猫巫女の詩が、壁を足場に弓型の
糸で巣を作るタイプの蜘蛛は意外と少ない。宮西の言葉を証明するようにビルの中にあるオフィスの一角にいる蜘蛛は、床を蹴りながら飛び跳ねながら移動している。
ここに彼がいれば、あれがハエトリグモだと教えてくれたに違いない。
ビルの窓が派手な音を立て砕け散ると同時に弧を描く閃光が首に突き刺さる。そのまま振り抜かれ、ガラスを派手にぶちまきながらビルの外に投げ出される。
二本の矢が空中で蜘蛛を射貫き雷光が弾けると、焦げた死骸となった蜘蛛が地上へ落ちていく。
物音に気が付いたハエトリグモたちが、エーヴァへ向かってくる。ビルの中は蜘蛛たちが移動しやすいようにしたのか、無数にある壁にあいた穴から這い出てくる。
ミローディアの鎌の部分を畳み、床で先端を叩くと先端から尖った刃先がせり出してくる。僅かに身を沈め、踏み込んだ右足を軸に体を捻り突き出される刃先は槍のようで、ハエトリグモの頭部に突き刺さる。
刺さったまま強引に振り回し、鎌の背だった部分でもう一匹向かってきたハエトリグモを叩き切る。
それは斧のようであり、槍のようである武器、ハルバードの形状をみせる。
狭い空間での大鎌の立ち回りの悪さを考慮した形態。
振りぬかれ、遠心力によりハルバードから身を開放されたハエトリグモたちは、割れた窓から侵入してきた詩の炎の刀で燃え切られる。
二本の刀は炎から
詩が前に出て蜘蛛を相手にする後ろで、エーヴァがフルートを口にあて、静かに音色を奏で始める。
五線譜の泡が辺りに広がりフロア満たしていく、詩が炎を振るう度に泡の中に火の光が淡く揺らめく。
詩が破れたドアから入ってきたハエトリグモを叩き切ったと同時に、優雅にお辞儀をしたエーヴァが手にするハルバード状のミローディアは、曲線的動きと違い直線的動きを見せる。
詩が飛び退き、エーヴァの投擲と同時に弾けたト音記号の泡と共に、重厚な旋律が奏で響き渡る。
一直線に飛ぶミローディアが二匹蜘蛛を串刺しに壁に激しく打ち付けると、一瞬で追い付いたエーヴァが、壁に大きな傷をつけながら蜘蛛を真っ二つに切り裂く。
そのまま次のターゲットに飛び、斧を振り下ろし、床にめり込むかと錯覚するほどカチ割られ潰れた蜘蛛が地面に沈む。
華麗に回転しながら先端の尖った鉄板を飛ばすと三匹に綺麗に突き刺さる。
胸元のホイッスルを鋭く吹き、三匹の蜘蛛を破裂させると階段まで走り、手摺を蹴りながら上の階へと突き進む。
上から降り注ぐ小型の蜘蛛たちを、鎌状に戻した音撃を纏うミローディアの一振りが砕いていく。そのまま上へ上へと進む音の衝撃は屋上に向かって昇っていく。
エーヴァと反対に下の階へと突き進む雷鳴は、暗闇を掻き消す光を放ちながら落ちると炎のその姿を変え二本の刀が舞うと、壁一面に張り付く蜘蛛の卵ごと燃やし尽くす。
燃え盛る炎を突き破り飛んできた風の矢は蜘蛛の頭部を射貫き、勢いそのままにひっくり返す。
詩が二本の『鉄刀』状態の朧を狭い廊下で振り回す。蜘蛛に当たらず壁に当たる朧が水しぶきを上げると、壁から引きずり出したかの様にも見える水の鎖が床に向かって引かれる。
詩が振る度に水の鎖が、壁に床に縦横無尽に引かれ蜘蛛を鎖で絡めていく。
二本の鉄刀を詩が自分の背に向かって引っ張ると、廊下や階段に張り巡られた鎖が床や壁から一斉に外れ中央に集まり絡めとった蜘蛛たちを
そのまま激しい電流が鎖の上を走ると、鎖が弾け電気を帯びた水しぶきが上がる。
キラキラと光り落ちていく水しぶきをかき分け、走っていく詩はビルの入り口に纏わりついている蜘蛛の糸と共にガラスのドアを破壊する。
分厚い蜘蛛の糸を燃やしながら切り裂き開いた扉の先にいる自衛隊の面々は銃で武装している者と、ポリタンクを持っている者がいる。
「制圧完了です! 屋上の鉄塔まで案内します」
猫巫女の緩い敬礼に、ビシッと敬礼を返す自衛隊員たちは、詩の案内で直ぐにエーヴァが待つ屋上へと向かって行く。
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