第181話:何事も下準備が大切
ガソリンスタンドは、災害時に備え手動でポンプを回し地下タンクから給油することが可能である。
ということで今、自衛隊の四人が必死に手動ポンプを回しポリタンクへとガソリンを給油していく。本来ポリタンクに給油するのは御法度であるが、緊急時なので仕方がないとしておく。
ガソリンを入れたポリタンクを荷車に積んで行く。
そんな四人を向かいの家の屋根上から見守るエーヴァは、遠くにある白い蜘蛛の巣の棟を見つめる。
自衛隊員が言うにはあそこには、おおよそ同じ高さのビルが広場を囲んで三棟建ち、少し離れて電話会社のビルがありその上に赤と白の鉄塔が立っていたと聞いた。
おそらく蜘蛛の巣はその四つの建物を柱にして糸を巻き、白い棟を形成しているだろうと推測される。
確かによく観察してみると、途中までは均等に糸が巻かれているが途中から一か所だけ傾斜が付き細くなっている。おそらくそこが鉄塔の部分であり、今回に作戦の起点の場所。
エーヴァはガソリンを手際よく汲んでいく自衛隊たちを見守る。今のところ戦闘能力としては宇宙人に対抗できるものではないが、集団の洗練された動きと組織力と機転には目を見張るものがある。
何より救助の技術、知識に関してはエーヴァたちよりも上なのは間違いないと感心する。
夜風はエーヴァの髪をなびかせると同時に、シュナイダーとスーの魔力を運んでくる。
「蜘蛛の巣に囲まれた場所に吹く風でも心地よいものですわね」
独り言を呟くと二人の魔力を探る。
シュナイダーの役は町を駆け巡りながら、蜘蛛をエーヴァとスーから遠ざけ、そして適量を詩の下へ追い込むこと。
スーは四人の自衛隊を連れ、白い棟へ近づき作戦のポイントの確認と、侵入箇所の探索。
もちろんエーヴァも含め三人とも、住人の救助、避難も並行して行う。
駆け回るシュナイダーの魔力。最近鋭さが増してきたのは鍛錬のお陰だろう。安定の変態っぷりを除けば、元々強いシュナイダーが火と風の使いこなし始めたということだろう。
スーの魔力は前世同様探りにくい。だが今はわざと放出してこちらに知らせてくれている。時々二つの魔力が立ち上るのは、スーが白雪に魔力をチャージしたときと思われる。
日頃はエーヴァたちより低い魔力しか放てないが、白雪と合体したときに放つ魔力は前世のマティアスを思い出させる鋭いもの。
エーヴァは瞳に僅かに強い光を宿すと、スーのいる方向を見つめる。
「なんか引っ掛かるんだよな……まあ、あいつも前世で苦労したみたいだし今は集中するか」
エーヴァはミローディアを握り周囲を警戒する。
* * *
スーと白雪は自衛隊員たち四人を連れ、白い棟へ入るルートを求めて周辺を探っていた。この四人とは避難先の体育館で出会ってから行動を共にしている。
白いウサギは蜘蛛の巣が邪魔する空を見上げる。ボタンの目は何も映さないが、確かに何かを見ている。
「どうしたのです?」
【ん~、なんか噂された気がするのよん】
空を見上げていた白雪はスーに声を掛けられ、自身の体を叩いて埃を払う。
【こんな可愛いウサギですものん、噂の千や二千されるわよね♪ ここは埃っぽいのよんスー、早く終わらせましょ☆ 蜘蛛がそこにいるわ】
白雪が塀の横を駆け上がり、影に隠れていた蜘蛛の頭上に身を投げる。白雪に気を取られた蜘蛛の視線が上を向いた瞬間、蜘蛛の頭は真正面からきたスーに叩きつけられる。
叩きつけられた衝撃で顎は割れ、頭が地面に沈み勢いで胴体が浮き上がる。そこに空中にいた白雪が落下し胴体を踏みつけ、頭部と胴体の継ぎ目をむき出しにするとスーが手刀を差し込み魔力を開放する。
体の継ぎ目など脆い部分から魔力が漏れだす。スーと白雪の鮮やかな連携の前に倒れる蜘蛛を見て四人の自衛隊員たちは感動している。
【スー、魔力の使い方が上手くなってきたのよん。これなら白雪の考えた更なる連携が可能なはずだわん☆】
「連携なのです?」
【そうよ、連携なのよん。毎回本気を出して倒れるのは非効率だわよ。一瞬だけ出力を上げれる方法を思いついたのよ♪】
ふさふさした白い毛並みを僅かにゆらしながら、立てた人差し指を空に向ける白雪の隣を歩くスーは、ふふっと笑みをこぼす。
「白雪が色々なことを考えてるのに驚いたのです」
【もっと褒めてもいいのよん☆】
スーは自慢げにくねくね躍る白雪を見ながら可笑しそうに笑う。そんなスーを白雪はボタンの目に優しく映すのだった。
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