第175話:そんな感じでお願いします

 蜘蛛と一重に言っても色々種類がいるらしい。私のイメージだと口から糸を吐くものだと思ってたけど、口から吐く種類は少なく基本はお尻にある糸疣いといぼなる場所から出ているらしい。


 と、宮西くんが言っていた。


 まあ、あくまでも普通の蜘蛛の場合ってことだろうけど、頭の上から糸を出し始めた蜘蛛の突起物に槍に変形させたおぼろを突き立てる。


 手の甲の『炎』が光ると、槍が炎に包まれ蜘蛛の頭を真っ赤に燃やし消し炭に変える。

 刺していたものが無くなり、自由になった穂先を頭のない胴体に突き刺し『雷』が光り蜘蛛の体を引き裂いていく。


「この攻撃パターンが今のところ有効かな。やっぱ『火』より『炎』の方が少し火力が上がるんだね。画数増えるからめんどいけど……っと、大丈夫ですか?」


 私が後ろを振り向くと、一人の女性と三人の男性が、泣きそうな顔で必死に頷く。撮影用のカメラを持っていることから報道関係の人だと思われる。

 シュナイダーと別れてすぐに蜘蛛に追い詰められているのを発見して助けたのだ。


「取材かなんか知りませんけど、こういうところに入ってくるのは危ないですから、今後気を付けてくださいよ」


 首がちぎれんばかりに、頷く四人を見て私はため息をつく。

 尚美さんといい報道関係の人が事件に首を突っ込みたがるのは職業病みたいなものかもしれない。レポーターらしき女性は泣いていたのだろう、下まぶたのアイシャドウが涙の線を描いている。

 私は巫女服の内ポケットから携帯用のウエットティシュを取り出と、女性に差し出して目元を指さす。


 見た目は変わらないが、美心の度重なるマイナーチェンジにより収納が増えた巫女服。ウエットティシュを入れる余裕まである。凄いぞ美心!


 ちなみにウエットティッシュだけど、手を拭いたりするのにも重宝するが、返り血や武器のお手入れのときも大活躍である。これ豆知識!

 前世でもあったら凄く助かっただろうなぁって思う。


「涙拭いてください。私は今から奥に行くんで入口まで送り届けれないんで、とりあえず隠れましょうか」


 驚いた顔をした女性だが、ウエットティッシュを一枚取るとゴシゴシと涙の跡を拭くと、少し落ち着きを取り戻したようだ。


「あの、ありがとう。噂の女の子って本当にいたんだ」


 お礼を言いながら私を興味深げに見てくる。冷静になった途端探りを入れてくるあたりさすがジャーナリストと言ったところか。


「噂ってお面を被った奴がいるーとかですよね?」


「ええ、化け物を倒す少女たちに助けられたとか、戦っている姿を見たとか。その姿は様々でお面を被ったり、大鎌を振り回していたり、ぬいぐるみが戦っていたとか、猫が火を吹いていたりとかなの」


 あっ、スーとシュナイダー消えてる。


 そんなことを思いながら噂も意外と核心に迫っているじゃないかと感心する。


「噂するのは勝手ですけど、いい感じにして下さいね」


「ええもちろん! 猫のお面を被った少女は気さくで、ウエットティシュまで差し出してくれる気が利く子だって私は皆に伝えるわ!」


「う~ん、まあそんな感じでお願いします」


 さっきまで恐怖で泣いていた人と思えないくらい私に質問してくる女性と、未だ震える男性たちを連れて近くの無人の民家に避難させる。

 どこも安全じゃないだろうけど、外でうろつくよりはましだろうと施錠させて私はそのまま屋根に上がり辺りを探る。


 エーヴァが戦闘に入っているっぽい。スーは探れないということは隠密に動いているってことかな?

 そしてシュナイダーが魔力を放ちながら高速で移動しているってことは、戦闘中だろうけどそれにしても移動距離が長い。


『棍』状態の朧のまま片側に『剣』を描くと刀が生まれる。槍とは違う『薙刀』状態の朧を持つと、屋根の瓦を砕き大きく飛びのくと蜘蛛の糸が飛んでくる。


 着地した右足を軸に、体を捻って回転させると左足で屋根を蹴り、低い姿勢で一気に詰め寄ると薙刀を振り上げる。

 空中にいた蜘蛛の腹部に突き刺さし串刺しにすると、手の甲に書いてある『炎』が

 光り炎が薙刀を包む途中で光る『回』の漢字によって炎は渦を巻いて穂先に向かって昇る。


「『えん』」


 渦巻いた炎が蜘蛛の背中を突き破り空へ昇る。


 焦げた蜘蛛を投げ捨てると再び屋根を蹴り、次の蜘蛛の顔面に穂先を突き立てるとそのまま炎を解き放つ。


「まったく、どんだけいるのよ。仕方ないな、徹底的に相手してあげるから来なさいよ」


 私は魔力を開放し他の三人に戦闘開始の合図を送り、蜘蛛の群れに向かって手招きをする。







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