第174話:少女(犬)たちは裏で堂々と
よく晴れた夜空には三日月が優しい光を放ち人々を照らす。
その光は全てに平等で、建物に絡み付く蜘蛛の糸を黄金色に輝かせ、八つの赤い目を光らせる蜘蛛とそれに向かって発砲する自衛隊員たちにも等しく降り注ぐ。
風がないのか銃口から立ち上る硝煙が空中に立ち込め、それでも尚撃ち続ける自衛隊員の額の汗が月に照らされ命の煌めきにも似た儚い光を放つ。
的が大きく四人で撃てば数発は当たるのだが、当たった先から修復していく蜘蛛の生命力に徐々に壁際迄追い詰められてしまう。
それでも闘志を失わないのは彼らがこの、
数発当たることなど構わないと、強引に突っ込んできた蜘蛛の強靭な顎が一人の隊員の腹部を切り裂く。
血を流し倒れる隊員に、他の隊員が銃口を蜘蛛に向けたたまま駆け寄る。
「状況を報告しろ」
「はい、防弾チョッキごと切り裂かれ腹部から出血している模様です」
部下の報告を受けて三人の先頭に立つ男が舌打ちをしながら蜘蛛を睨む。
「こんな蜘蛛ヤロウ俺らでどうにかなるのか。こんなヤツを倒す少女たちと接触し、場合によっては捕獲しろって……出来るかよ」
愚痴を言いながら銃口を構える隊員は、最早こんな行動が何も役に立たないことを理解していたが、手を下ろした途端心が折れそうで必死に構える。
突然鈍い音と共に蜘蛛の頭が大きく沈む。
頭の上に立つ巫女姿のネコのお面を被った少女は両手に持つ刀を蜘蛛の頭に突き立てていた。
「『
二本の刀が激しく燃え、その刀で円を描き舞うように振り抜くと蜘蛛の頭がずれ落ちる。
それでも動く蜘蛛の頭の切り口に、刀を立てると激しい光が弾ける。
「『
轟音と共に目映い光が弾け、蜘蛛の体を光が駆け巡る。
外皮が裂けズタズタになった蜘蛛のなれの果てが静かに倒れ猫のお面を被った少女はゆっくりと自衛隊員たちに近付いてくる。
あれだけ苦戦した蜘蛛をあっさり屠る少女の接近に、隊員たちに緊張が走る。
「そっちの人怪我してるんでしょ? 早く連れて帰った方がいいよ」
軽い物言いに拍子抜けする自衛隊員たちだが、油断はならないと銃を持つ手に力を込める。
「あ、帰る前に教えて。この先に入った人たちはいる? いるなら何人?」
相変わらず軽い感じで尋ねてくる少女に恐る恐る先頭の隊員が答える。
「なぜ答えなければならない?」
「なぜって助けるのに人数分かった方が取りこぼしないし確実でしょ。機密って言うのならまあいいけどさ」
ちょっとムッとした感じで答えた少女は、二本の刀の柄を合わせ一本にすると隊員たちに背を向け去っていく。
「四チームで、十六名だ」
先頭にいる隊員が答えると、少女は振り返りペコリとお辞儀をする。
「ありがと、やれるだけやるからおじさんたちは先に帰ってて」
手を大きく振って蜘蛛の糸が張り巡らされた町の中へと消えていく。
「隊長、教えて良かったのですか?」
一人の隊員が先頭にいた隊員に尋ねると、隊長と呼ばれた男は蜘蛛を指さす。
「あれだけ苦戦した蜘蛛が一瞬であれだぞ。我々は少女たちとの接触に成功、そして負傷者を連れ撤退。十分な戦果だ」
隊長の言葉に納得した隊員たちは撤退を開始する。撤退しながら少女の向かって行った方を見ると、サッと敬礼しその場を後にする。
* * *
暗闇を一人走る猫のお面を被った少女こと、私は誰もいない空間に話しかける。
「聞いた? 全部で十六名の自衛隊員がいるはず。もちろん住人の生き残りがいれば救助は優先的にね。ところで今どのあたり?」
私が集中してようやく分かる程度の音も立てて現れたスーと白雪が私の隣を走り始める。スーが背中に背負うのはモモンガだ。
「ミヤの地図によればそろそろ予定地点の図書館が見えてくるはずなのです」
スーが言ってすぐに現れた図書館の前で立ち止まると、エーヴァとシュナイダーが建物の上から私とスーの前に現れる。
「じゃあ予定通りここから二手に分かれるよ。坂口さんから注意は受けてるけど人間なのは変わりないんだし、助けれる命は助ける方向で。もちろん自身の命優先でオッケーだからね。んじゃ行くよ!」
私の言葉に三人が頷くと、エーヴァとスーが図書館を正面にして右へ向かって走って消えていく。
「シュナイダー私たちも行くよ!」
「ああ」
私とシュナイダーはエーヴァたちと反対方向へ向かって走る。
上空から見て町を覆う蜘蛛の巣は綺麗な円を描いている。遠くから見たら糸がびっしりと張り巡らされている様に見えるが、近づいてみれば意外に隙間は多いので侵入は容易い。
そのせいで餌を取るための罠だとも知らずに自衛隊の人たちを初め、何人かが入ってしまったようだ。
これらの人、住人を助けながら蜘蛛を殲滅させるため、四人が円状に散開し町を四分割し円の中心に向かって敵を追い詰めていくという、宮西くん発案の作戦を決行する。
互いの位置を魔力を定期的に発し把握しあい、この巣にいる蜘蛛を一毛打尽にするのだ。
「詩、この国を治める人間をどう思う。信頼に足ると思うか?」
隣を走るシュナイダーが話し掛けてくる。
「さあ、あんまりいい噂は聞かないけどね。まあ上の考えなんてどこでも大体一緒でしょ。
私たちは現場の人間の信頼を得ること、これが一番大事じゃない?」
「フッ、だな。坂口や尚美たちに任せておけば問題ないだろ」
「そういうこと。それに相手がこそこそするなら、私らは堂々として迎えてやろうじゃない」
シュナイダーはフッと笑うと加速し始め予定のポイントへ向かって行く。キッとブレーキを掛け道路に乗り捨てられている車の屋根を蹴り家の屋根に上る。
屋根の上に上ると私は町の中心にある白い大きな柱を見つめる。白い柱は天に向かって伸び、その頂上からドーム状に糸を伸ばし町を覆っているのが分かる。
「ボスがいるとすれば真ん中のあれかな? その前に人の気配があるし、そっちからだね」
屋根の瓦を蹴り気配に向かって行く。
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