第171話:詩日記⑤
OSJで遭遇したカエル、鶏。カエルの名を『
カエルの妖怪の名前から取ったらしいけど本人曰く、
「現物を見てから決めてみたかったわね。そしたらカエルダーとか付けるようになるのかしらね?」
とのこと。これを聞いた美心がニヤニヤしていた。カエルダーって覚えやすくて良い名前だと思うんだけどな。
鶏は『コケトリス』これは坂口さんとエーヴァの合作ってことでいいのかな?
坂口さんが『コケランダー』と名付けたら鶏が怒ったけど『コケトリス』にしたら喜んでくれたとエーヴァが言ってた。
本当かな?
この騒ぎでOSJは半年以上閉園になるだろうと今のところ言われている。
私たちが全て悪いわけではないのだけど、罪悪感を感じてしまう。
あ、いやそう言えばアトラクション何個か壊したな……。
大混乱だったけど死傷者が少なかったのは、坂口さんと尚美さんのお陰だろう。これに関しては感謝しかない。
坂口さんはあの後も一人残り、上手く根回しをしつつ後処理を行ってくれたので、私たちもすんなり帰れたし、とても助かった。
やはり根回し出来る大人の人がいるのは心強い。世間的に高校生の私たちだけではどうにも出来なかったことだと思う。
それから私たちの住む街に現れた鹿。その名も『エロ鹿』シュナイダーの名付けだが、う~ん、お前が言うかって感じの名前だ。
まあこれは、もう一人、
「あいつはエロ鹿でオーケー! 私の腕舐めて、服の中に舌突っ込むしさ! エロだエロ! だよねシュナイダーくん!」
太ももにこれでもか! って頭を擦り付けるシュナイダーを膝枕しながら、めい子さんは上記の言葉を熱く語っていた。
「そこにエロ犬がいますよー」とは言わなかったけど、良かっただろうか。
そう言えば、シュナイダーもOSJ組と合流するなり、「スーと育んだ愛のお陰で勝てたぞ!」と意味不明なことを言い出して、スーに飛び蹴りを喰らって、めい子さんの背中に隠れていた。
最後に縞タイガー、勘だけどコイツとはまだ戦わなければいけない気がする。
正直あの場で討伐するには決めてに欠けていたと思う。逃がしたのは痛いが、逃げてくれて良かったとも言える。
おじいちゃんは、今度は縞タイガーに負けないように車の改造とドラテクを磨きたいと意気込んでいた。
楽しそうなのは良いけど、無理しそうだから早く討伐しなきゃ。
◆ ◆
相変わらず女子高生の書く日記ではない。もうそこはあきらめかけている。
行く前はOSJに行って楽しい~♪ 的なことを書けると期待してみればこれだ。
カエルは皮膚の浸透圧の違いから、海水に長時間はいられない、そんな知識を得て試しに『海』って描いてみたり、水の上に『塩』って描いてみたけど何も起こらなかった。
今後も試行錯誤して優位な技を編み出したい!
とでも書いた方が有意義な日記になる、そんな気さえする今日この頃である。
ピンポーン!
下からチャイムの音が響く。続いてパタパタとママのスリッパの音がして玄関がガチャリと開く。
「お邪魔しまーす!」
元気のいい声が下から聞こえてくる。
私は下に降りてリビングに行くと、声の主がパッと明るい顔で私を見てくる。
「マジっいや、詩ちゃんお久しぶり! 元気してた?」
好奇心の目を輝かせて私に近寄るのは、金堂めい子さんこと、めい子さんである。
「久しぶりって三日前に会ったばっかりですよ」
「三日も会わなかったら、なんか変わってるかもしれないし。なんかそんなことわざあるよね。でっ、でっ、本日の主役は?」
初めて出会ったときのスーツ姿じゃない、ワイドパンツにチェックのシャツを着るめい子さんはシャツの腕を捲り、エプロンをつける。
そのエプロンには『にゃんばーわん!』と店名のロゴがプリントされている。
「あっ! この間言っていた就職先、受かったんですか?」
私の言葉に両手を腰に当て胸を張るめい子さん。
「へへぇ~ん! そうなのよ! 脱サラして念願のペットトリミングサロンに就職したのよ!
バイトだけどね!!」
ドンと胸を誇らし気に叩くめい子さんはとても嬉しそうだ。
縞タイガーとの戦闘の後、私たちのことを話したとき、それはそれは興奮して大変だった。他言しないのを条件に仲間? になったわけである。
ほぼ押し切られた感じだけど、とても賑やかな人で面白いし私は好きだから問題ない。
まあ、私のことを「マジカル少女」と呼ぶのはやめて欲しいが。
「それで、奥様。お宅のワンちゃん、シュナイダー君はどこでしょうか?」
「ちょっと待っててね。パパが連れてくるから」
めい子さんは手をモミモミしながら待ちきれない様子だ。そんな姿にママが可笑しそう笑いながら答えると、玄関からパパの声が聞こえてくる。
「ほらシュナイダー、どうした? 今日はちゃんと洗い方を教えてもらうから、なっ? プロの人に教わったらパパもっとシュナイダーを綺麗に出来るからさ。ほら、行こう」
姿は見えないけど、私にはシュナイダーの嫌そうな姿が目に浮かぶので、笑いを堪えるのに必死だ。
そしてパパに背中を押され、お尻をつけ座った姿勢で廊下をズリズリと滑らされ登場するシュナイダーは元気がなくげっそりしている。
「今日はお願いします。いつも我流で洗ってたんで、これをきっちり覚えてシュナイダーを隅々まで洗えるように頑張ります!」
「任せて下さい! 良かったねぇシュナイダーく~ん。キミは家族に愛されてるねえ~。パパさんにごしごししてもらうんだよぉ~」
シュナイダーの頭をわしわし撫でるめい子さんを救いを求める目で見ていたシュナイダーだが、全く気付いていないめい子さんは、うんうんと言って笑顔で何度も頷く。
それを見て助からないと思ったのか、ひんっ! っと鳴いて逃走を図るシュナイダー。
だが、玄関にタイミングよく入ってきたエーヴァにぶつかって弾き返されあえなくごようとなる。
「お邪魔しますわ。あら、あら、そんなに慌ててワンちゃんどうしたのかしら? ほら、行きますわよ」
アラさんを引き連れたエーヴァに首根っこを掴まれ引きずられるシュナイダー。
更に玄関が開くと、おじいちゃんと白雪を背負ったスーが入ってくる。
「おお、イヌコロ、今からお風呂なのですか? 身も心も綺麗になるといいのです。心もなのですよ」
エーヴァとスーに引っ張られお風呂場に投げ込まれたシュナイダーは、皆が注目する中、めい子さん指導の下でパパにゴシゴシ洗われるのだ。
めい子さんが今までの仕事辞めて、トリミングの夢に突き進むって言ったときに
「その夢叶ったとき、是非俺を隅々まで洗って欲しい!」
とか言い出して、めい子さんに
「もちろんオッケー! そうだ! 家で洗うなら、いつも洗ってくれる人に私の技術を伝授してあげよう! そっちの方がシュナイダー君もいいでしょ!」
と善意100%で言われて今日に至るわけだ。変なこと言うからだよ……。
帰りにママがめい子さんが勤めるお店のシャンプーの定期購入を申し込みたいと尋ねたら、めい子さんは泣いて喜んでいた。
なんでも、仕事を始めてから初めて商品が売れたらしく嬉し涙だそうだ。社会人って大変だ。
喜ぶめい子さんの後ろで真っ白なシュナイダーが壁を見つめ佇んでいるのは、見なかったことにしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます