第170話:仕留めておきたい相手
大きく踏み込んで振った電流が流れる物干し竿を、縞タイガーは左の前足で受け止める。
流れる電流に身を強ばらせながらも、強引に左前足に体重をかけ、右前足を強引に振り下ろしてくる。
それを大きく下がって避ける。
効いていないわけではないんだろうけど、強引に動いてくるのは、既に雷に耐性を持ちつつあると考えてもいいかもしれない。
「まっ、だからってどうってことないんだけどね」
世の中において火に強い、雷に強いってのはあるけど水に強いとか風に強いってのはない。
肺で呼吸をするなら溺れるし、皮膚が硬いといっても切り裂くことはできないわけではない。それに切れなくても倒す方法はある。
私と縞タイガーは車の間を駆けながら、攻撃し合う。
時々物干し竿や縞タイガーの爪が車に当たるのは心の中で謝っておく。
私が避けたことで四駆っぽい車高の高い車のタイヤは縞タイガーの爪に切り裂かれ、ガクンと車高を落としていく。
そして運転席に乗ってたおじさんが、命からがらといった感じで助手席側から飛び出て逃げていく。
私はその車の周囲を一周しながら縞タイガーと攻防を繰り広げ、車の中には誰もいないことを気配で探る。
「おじさんごめん、車借りるね」
多分ボロボロになるけど……とは敢えて口に出さずに地面に描いた魔方陣に物干し竿を立てる。
『水』の漢字が光り、まあまあ大きい水たまりが生まれる。水たまりは道路の僅かな傾斜に沿って流れ始める。
その先にある漢字『鎖』を物干し竿で叩いて発動させ、鎖をすくい上げ投げる。
向かって飛んでくる水の鎖を縞タイガーは横に飛び跳ね避けるが、鎖は車の下を抜け反対側に描いてある『鎖』にぶつかる。
車に向かって走りながら縞タイガーを飛び越え、車のルーフに手を付き前転して反対側に降りると、素早く宙に『刃』を描く。
体を回転させながら物干し竿で『刃』の魔方陣を切り、そのまま先端で地面にくすぶっている水の鎖を拾って投げる。
風の刃は車の窓を粉砕しながら進み縞タイガーの頭上をガラスを撒き散らしながら飛んでいく。
それに紛れて飛ばした鎖に反応した縞タイガー跳ねて避けようとするが後ろ足に絡み付く。
首か胴体に巻きつけたかったが、後ろ足でも十分
鎖を引きちぎろうと無理やり足を引っ張る縞タイガーが暴れる度に、車はドアを中心に押しつぶされボロボロになっていく。
「犠牲になったおじさんの車の為にも、ここで終わらせる!!」
『槍』『鋭』『刃』の魔法陣を順に通した物干し竿を、鎖に捕らわれ逃げようとする縞タイガーへ向け全力で投げる。
鎖の可動範囲ギリギリ使って避けた縞タイガーの右耳を吹き飛ばしながら飛ぶ槍が刺さるのは、小競り合いをしながら地面に描いた大きな『水』の漢字。
広い範囲に大きな水たまりが現れ縞タイガーをその真ん中に置く。
石ころを拾って投げると『氷』が光り水たまりは、周囲の車のタイヤと縞タイガーの足を凍らせる。足元2、3センチ程度の氷では一瞬しか縞タイガーを拘束できないはずだが、その一瞬で十分。
上空の空気が大きく動き、渦を巻きながら一か所に集まる。風の塊となったシュナイダーは真っ直ぐ身動きの取れない縞タイガーの頭上に落ちてくる。
ぶつかった瞬間に風は複数の牙を縞タイガーに立て、回転を始める。
縞タイガーの硬い皮膚を削り、血が舞い上がる。
技を放った瞬間は押していたシュナイダーだが、縞タイガーは頭を下げ低く唸ると頭上に枝分かれした角を生やし、角を削りながら生やすという力業でシュナイダーを押し上げていく。
「シュナイダー下がって! あんたまだ本調子じゃないでしょ!」
氷の上に描いた『弓』と『矢』を拾うと氷の矢を放つ。
顔面一直線に向かって飛ぶ矢は、肩から生えてきたカマキリの鎌に弾かれる。
「相変わらずあちこちから手足生やして、お家芸過ぎていい加減飽きるっての!」
縞タイガーを中心に円を描きながら走りつつ、風の矢を連続で放っていく。シュナイダーは風を真上に吹き上げ、宙に駆け上がると火の玉を降らせる。
風の矢が身を裂き、炎が身を焼かれて尚、縞タイガーが吠える。
「こいつ、まだなにか」
「詩、下がるぞ! 角が赤く変化しやがったこいつはやばい!」
シュナイダーが叫びながら全力で駆け下りて来て、私は走るシュナイダーに掴まり縞タイガーから逃げ、車の影に隠れる。
次の瞬間頭に生えた角が真っ赤になり、破裂すると角の破片が辺りに飛び散る。
車やトラックのガラスを砕き、本体に突き刺さる角の破片がその威力を物語っている。
車の影から出た私とシュナイダーは、縞タイガーと睨み合う。右耳は無くなり、背中は削れ、頭の折れた角から血を流す。左の後ろ足は鎖で擦れ皮膚が剥げている。それでも尚、縞タイガーの目は鋭くこちらに強い敵意を向けている。
数分間程度だと思うが、私たちの間に走る緊張した空気のせいか異様に長く感じる。
だが私たちと縞タイガーの睨み合いは、縞タイガーが目を反らし、背を向けるとしなやかに車の間を抜けて去っていくことで呆気ない幕切れを迎えることとなる。
そして……
「お~い、そこの女の子! 無視しないでよぉ! ほらっ、シュナイダー君もなんか言ってよ!」
ここから、めんどくさい
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