第169話:バイクでのすり抜けは推奨してません

 OSJを出ると、坂口さんが手配してくれ、用意されていたバイクに跨る尚美さん。その後ろに座る私は渡されたフルフェイスのヘルメットを被る。


「しっかり掴まっててね! じゃあ出発するよ!」


 バイクのエンジンが大きく震えマフラーから煙を吐き出し、低く響く音を一定感覚で刻みながら出発する。


 体に風を感じ、爽快感をもたらしてくれるバイクは走っていく。自転車とも、車とも全然違う感覚。私は結構好きな感覚だ。


 尚美さんにしがみ付きながら、バイクの免許取ろうかな、なんて思ってしまう。


 途中何度もOSJへ向かって行くと思われる緊急車両たちとすれ違う。そして段々と車の流れが悪くなっていく。

 尚美さんの運転するバイクは流れの悪い車の横を抜けながら走り続ける。


 走り始めて一時間近くたった頃、わずかだがシュナイダーの魔力を感知した私は、尚美さんにしがみ付いている手で軽く腰を叩き目的の場所が近いことを知らせる。


 それからすぐに、周囲に立ち往生している車が目立ち始める。


 そして……


「うわぁ、ええ~、あの間すり抜けれるかなぁ……せ、狭いよぉ」


 尚美さんの独り言が多くなり、バイクが爽快感をなくしぎこちなく動き始める。


「教習所ですり抜けとか習わないしなぁ。よっと、ほっ!」


 ふらふら走るバイクに、私が走った方が速いのではなかろうかと思い、伝えるべきか悩む私。

 そのときだった、シュナイダーの魔力を完璧に捉える。その魔力はいつもより精彩さを欠いており、弱っているのを感じる。


 周囲を見渡すと、立ち往生している車の中に物干し竿を沢山積んでいる軽トラックが、他の車に追突されたのか大量の物干し竿をばら撒いて、おじさんたちが言い合いしているのが見えた。


「尚美さん、ちょっと先に行っててもらえます。良さげな武器があったんで借りてきます」


「えっ!? 先にって、ってーどういうことぉうわっと!」


 バイクの後部座席に立ち飛んで着地すると、車の間を走り抜け物干しざおを一本拾い上げる。


「おじさん、借りるね!」


 突然現れた私に驚くおじさんにそれだけ言って物干し竿を手にして、車の上に飛び上がるとそのまま、車の上を飛びながら走って行き、尚美さんを見つけそのままバイクに飛び乗る。


「ただいま! 尚美さん敵がいるんでそのまま走り抜けて下さい。私は戦闘に入ります!」


「うわ!? ちょ、ちょっと詩ちゃん! ええっ! 立つの!? 棒振り回さないで! 危ない、私が危ないって!」


 大型のトレーラーを抜けると少しだけ開けた場所に出て、見覚えのあるピックアップトラックとおじいちゃんが見える。シュナイダーは見えないから荷台に乗っているのかもしれない。


 そしておじいちゃんと睨みあう縞タイガーの姿がある。


 走り抜ける尚美さんのバイクの上から飛び降りた私に、「面白そう!」とか聞き慣れない声が聞こえてくる。今は気にしてる場合じゃないので物干し竿を構える私。


「さて、そのちぎれた尻尾といい村や学校で出会った奴と同じか。じゃあ挨拶はなしで!」


 縞タイガーの足を払うため、横に振る物干し竿は、前足だけ跳ねて避けられる。そのまま前足を着いて突進による攻撃といったところだろうけど甘い。

 振り払った物干し竿は真横ではなく、やや斜め下。振りぬいた先にある地面に先端を当てバウンドさせ、振り払った方とは逆向きの斜め上に振り上げる。


 宙に前足を浮かし、重力に引かれ重心が落ちる縞タイガーの顔面に物干し竿がクリーンヒットする。


「ついでにもらっとく?」


 手の甲に描いた『雷』の漢字が光ると同時に物干し竿に電流が走る。


 僅かにのけ反る縞タイガーを、物干し竿の先端で突いて電流を再び流す。体を回転させ真横に振りながら電流を流した物干し竿で横っ面を殴る。


 手の甲の『雷』がハラハラと赤い光を放ち消えていく。変わりに光を放つ『火』は物干し竿を炎で包み、それを縞タイガーの脳天へ振り下ろす。


 地面に顎を打ち付けさせそれを更に頭上の物干し竿で押し付けるが、押し付けられたまま右の前足を大きく振る。


「その体勢からよくやるっ」


 私は大きく後ろに下がり、鋭利に切れた物干し竿の先端を見て縞タイガーを誉める。


 ヘルメットの顎紐のロックを外すと、縞タイガーに向かって投げる。

 もちろん避けられ、立ち往生しているトレーラーのタイヤに当たって地面に転がる。


「頭重いし、暑いし、あんた相手に手加減ってわけにもいかなそうだしね」


 そうだとでも言わんばかりに、縞タイガーはムクリと立ち上がりながら私を睨んでくる。


 サロペットのポケットから取り出した小さな折り畳みナイフで腕を切る。

 腕を伝い流れる血を感じながら踏み込み振るう物干し竿は、縞タイガーの手のひらに阻まれる。


「肉球かたっ! 肉球まで可愛げのないことで!」


 硬い肉球から伝わるビリリと痺れる振動に文句言いながら、炎を放つとその硬い肉球によって炎を防がれる。

 素早く物干し竿を引き、短く持って顎下に手の甲の『火』をもう一度使い火の線を真上に引こうとするが、敢えなく受け止められる。


「シュナイダーとの戦闘で火になれちゃったか。んじゃあ、次!」


 手の甲に再び光る『雷』の漢字。受け止められた先から流れる電流に、身を反らし逃げる縞タイガー。

 雷の方は効果はあるようだが、あんまり多様すると慣れてしまいそうではある。


 物干し竿を構え縞タイガーを睨む私を、おじいちゃんのトラックの荷台からぴょこっと顔を出して覗く女の人が縞タイガー越しに見える。


 誰なんだあの人? この状況でワクワクしてる感じを醸し出してる……。

 めちゃくちゃ気になるけど、目の前の縞タイガーを討伐すべく私が踏み込むと同時に縞タイガーも踏み込む。

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