第165話:始まる総力戦

「猫?」


 塀の上に並ぶ5匹の猫を見て不思議そうな顔をするめい子だが、はっとした顔になりシュナイダーの方を見る。


「あの子たちもシュナイダー君みたくファンタジーでマジカルな技を使うんだね!」


「いや、普通の猫だ」


 ガクッと肩を落とすめい子。


「だが、頼れる仲間だ」


 シュナイダーがめい子を鼻で押し、身を潜めるように促すのでめい子も不満ながら従う。


「さて、騒がしくなるぞ。こういうときの為に訓練してきた甲斐があるというものだ」


 いつの間にか血が止まっていることに驚くめい子の前でシュナイダーは顔を天に向け遠吠えをする。


 街中に響くその声に、犬や猫を中心に耳を立て寝ていたものは起きだし、食事中のものは食べるのを止め皆が同じ方角を見つめると、動き始める。


 街を動物たちの喧騒が包む。


「な、なにが起きてるの?」


 騒ぎ始める動物たちにめい子は驚き、挙動不審なまでにキョロキョロと周囲を見回す。

 それは鹿も同じで、周囲が騒がしくなったことに警戒心を強め体を強張らせる。


「手筈通りにいくぞ! 外に出た者は無理せず存在をアピール! 家に残る者は人間、主人を外に出すな!!」


 シュナイダーの号令に、五匹の猫、巳之助みのすけ佐吉さきち春霞はるかすみ天吹あまぶきみおはバラバラに散っていく。それを皮切りに集まり始める犬猫たち。

 めい子がふと隠れている塀から家の中を覗くと、レースのカーテンの向こうで家の人に果敢にアタックし家の外に出さすまいとするチワワの姿があった。


 そして集まり始める犬や猫。中にはフェレットなどもいて存在感を放っている。


「なにこれ、なんか凄い!」


 動物たちが一体になって動き始める姿に感動するめい子は、シュナイダーの戦いに熱い視線を送る。


 この集まった動物たちに鹿を倒す力も、攻撃する手段も持ち合わせていない。この作戦の意味するところは、陽動とシュナイダーの存在を隠すことにある。


 現に鹿は集まる多くの気配に気を取られシュナイダーを見失ってしまう。


 な~ん! と鳴きながら鹿の目の前の道路を走り抜ける巳之助を鹿が目で追うと、前足付近を佐吉が走り去る。

 左右を走る塀の上を春霞と澪が走り抜け、上を見る鹿の後ろ脚を軽く蹴って走り去る天吹。


 気を取られた瞬間、地面スレスレを炎が走り炎の槍となったシュナイダーの火槍かそうが鹿の硬化した胸元に突き立てられ、胸の破片と炎が散る。


 思わぬ攻撃に鹿は跳ねて大きく後ろに下がると前を見るが、既にシュナイダーの姿はなく、代わりにダルメシアンが立っていてチラッと鹿を見ると走り去っていく。


 馬鹿にするようなその行動に、鹿は鼻息荒く前足で地面を叩いて鳴らしながら、唯一硬化していない目を血走らせシュナイダーを探す。


 そんな様子をシュナイダーは、ある家の庭の植木の陰から覗きながら戦況を見極める。

 この作戦が長く持たないのは理解している。攻撃手段を持つ自分が、さっきのように攻撃を決め切れないと敗北するのはこちらだと。


「現時点で最大火力の火槍が効かないとなると、まあジリ貧だな」


 転生して犬となったシュナイダーは、火と風を操り自然界においては敵はいなかった。だが、詩と戦い敗北し、エーヴァ、思月とやってきて自身の力について考えるようになった。


 それ故の技のレパートリーの多さ。増える技の数に対し疑問も増えていく。



 * * *



 時々、詩たちは人里離れた山で鍛錬を行っている。これは対宇宙人の為であり、技を磨いたり、情報の交換などを行っている。


「ワンコロ、風の使い方が雑なのです」


 思月の厳しい指摘。


「風は繊細さと豪快さを使い分ける必要があるのです」


「イヌコロ、お前炎の使い方も大概雑だぞ。ぶっ放せば良いってわけじゃないからな」


 隣にいたエーヴァも指摘する。前世で5星勇者と呼ばれた最強の二人による手厳しい指摘。


「スーは前世で風を使っていたから分かるのです。ワンコロは風を吹かせているだけなのです。

 5星勇者の中で力のないマティアスとリベカが何故、敵を両断出来ていたか分かるのですか?」


 思月の質問に対し首を横に振るシュナイダー。


「スーは切ってたわけではなく、削っていたのです。小さな刃を回転さていたのです。例えるとチェンソーなのです。あんな風に削り切っていたのです」


「あたしのは振動を重ねることで砕いていく。他のやつらも基本は回転か、重ねるかだ。これをいかに回数を重ねつつ繊細にコントロール出来るかが敵を切る上で大切なことだ」


 一見豪快に見えるエーヴァも、刃のない大鎌を音の振動を重ねることで敵を切り裂いている。繊細な魔力のコントロールあってこそだろう。それを理解しているシュナイダーは素直に頷く。


「二属性は一見強そうなのですが、見た目に引っ張られ曖昧になってしまいがちなのです。まずは風を繊細にコントロールすることなのです。

 形を意識して、それを動かすのです」


 思月とエーヴァが、漢字辞典を広げ漢字の勉強をしている詩を見る。


「あいつみたく、卑怯で、繊細に使えるようになったら良いんじゃねえか? 氷や炎で花を作る奴なんて普通いねえだろ」


「なのです」


 シュナイダーは詩に視線を移し、納得したように頷く。



 * * *



 身を潜めるシュナイダーは、思月とエーヴァの言葉を思い出しながら、身に纏う風を確かめる。

 風を纏い、自身の匂い、音、熱を抑え気配を小さくする。思月ほどの制度はないが、巳之助たちの手助けもあって鹿からは探知されていない。


 後は攻撃手段。


 前世では土の魔法を使い元々の腕力と合わせ力まかせに放っていた。あの頃はそれで通用したが今は違う。


 まだ小さな刃は作れない、だが大きい刃なら作れる。


「不格好でもやるしかないな。今できることをやるしかないのだからな」


 大きく息を吸ったシュナイダーは体勢を低くし、攻撃のときを見計らう。

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