第163話:我盾となりて
シュナイダーが道路に出て相手を待つ。鹿もシュナイダーを敵として認識しそして勝つ自信があるのか優雅に闊歩し蹄をリズミカルに鳴らし姿を現す。
「ふん、優雅に出てきたつもりか。オレからしたら滑稽な姿だがな」
それだけ言うとシュナイダーの周囲に風が吹き荒れる、地面を音もなく蹴り風の爪を纏った前足で鹿の顔面を捉える。
衝撃が空気を震わせ鹿は顔を歪ませ吹き飛んでいく。
「ちっ、爪が入らないか。ならばっ!」
自身の一撃が思ったダメージが出せなかった知ったシュナイダーは前足で地面を蹴って跳ねると宙を蹴り、鹿の真上に上がり再び宙を蹴って垂直に落下する。
鹿の背中から僅かに飛ぶ血を上にしてシュナイダーは、地面に触れる前にバウンドし斜め上に直線を描く。
自然界ではあり得ない動き、放物線を描かず線が直線を引き縦横無尽に駆け巡る。
線が引かれる度に舞い上がる血をも切り裂き、更に加速していく。
シュナイダーの赤い毛先が淡い光を宿す。それは段々強くなり線が赤く染まり始める。
赤は空気を取り込み大きく炎となる。
炎を纏う斬撃は鹿の皮膚を幾度も焼き切る。
塀の影から見るめい子は、興奮気味にこの様子を窺う。喋る犬というだけでも興奮し過ぎて鼻血が出そうだというのに、目の間で起きている光景はまさにファンタジー。
実はオタク気質なめい子は、この光景を見たくて抜けた腰を引きずり身を乗り出す。
攻撃をしているシュナイダーの表情は芳しくない。
「浅いな、しかも炎の耐性もそこそこあるか。やはり決定打に欠けるな、他の3人と違ってオレの弱いところだな……まあ愚痴っても仕方ないがな」
炎を纏ったまま、地面に後ろ足をつきバク転すると炎で円を描き鹿から大きく離れる。
四本足で力強く蹴ると同時に凄まじい爆発が起き、炎の刃が真っ直ぐ鹿に伸びぶつかる。
炎の刃は鹿の角にぶつかり弾ける。角を半分ほど失いながらも突っ込んできたシュナイダーを打ち上げる。
「こいつ『
鹿の折れた角の枝が伸び、大樹のごとく枝を張る。だがそれはシュナイダーには遠く届かない、それでも枝を張る鹿が頭を下げる。
首に血管が浮き上がり、角が赤く染まり始める。その赤は濃さを増し先端が赤くなったときそれは起きた。
枝分かれした角の各部で起きる赤い爆発。その爆発で折れた先端はミサイルのごとく四方八方に飛ぶ。
血液を限界まで角に集め、行き場を失った血液が脆い部分を破壊することで先端を飛ばす。血を吸い貯めることができるこの鹿ならではの進化。
四方八方に飛ぶ角の威力はすさまじく、塀や家の壁に突き刺さる。人に当たれば貫通することは間違いないであろうそれは、空中にいたシュナイダーにも襲いかかる。
炎と風を纏い、角を弾くシュナイダーだが、視線を下にやったときに軽く舌打ちをする。
視線の先には、塀から身を乗りだし襲いかかる角の弾丸に身動きすることもできないめい子のがいた。
炎を消し、風の鋭さを和らげるシュナイダーが宙を蹴ると、下に向かって全速力で跳躍する。
そのまま下にいためい子に覆い被さると、塀の影へと転がる。
「隠れてろと言っただろうに。まあいい、怪我はないか」
「ご、ごめんなさい……」
自分が身を乗り出さなければと、しきりに謝るめい子だが、シュナイダーは軽く笑うと背を向けて鹿の元へ歩きだす。
「気にするな。オレの周りの女性は強すぎるからな。守りながら戦う方がやる気も出るってものだ」
──ヤバい! カッコいい!
このときのめい子の心境はこれである。
そして、そのカッコいいを背中に受けるシュナイダーは、今回もきまったとニヤケ顔ではあるが
「久々の感覚だな。昔、幼馴染に言ったことを思い出してしまったぞ。お前の盾に……って興味なさそうだな」
前足で地面を叩き蹄を鳴らし、やる気満々の鹿を見て苦笑するシュナイダーのわずかに開いた口から炎が漏れる。
炎の軌跡を残しながら大きく口を開き小さな炎の球体を生み出すと、その炎の球体に空気を送る。
空気を吸って大きく成長した炎は激しく火の粉を舞い上げる。燃え盛る炎の球体をくるりと前宙して尻尾で叩く。尻尾に叩かれた炎は弾丸のごとく凄まじい勢いで鹿に向かって飛んでいく。
だがそれをのんびり見ているシュナイダーではない。
「『
火嵐を避ける、鹿の上空から一直線に落ちてきたシュナイダーが鹿の首筋を噛み、体を反らし勢いをつけ前宙すると、鹿ごと回転し投げると火嵐にぶつける。
鹿の背中にあたり弾ける火嵐の火の粉が舞い落ちる中、炎の刃となったシュナイダーが未だ宙にいる鹿に襲い掛かる。
鹿が硬化させた皮膚は刃を遮り炎から身を守る。
「ここからだ! 『炎走・乱』!!」
炎の刃は地上に幾度も線を引く、
鹿の前で炎が渦巻く。右の前足に炎が集まる。それは大きな爪を生み出し真っ直ぐ鹿の右肩の傷口に突き立てる。
「『
炎の槍が傷口から侵入し鹿の内部を焼切っていく。
赤い炎より先に真っ赤な血が弾ける。
シュナイダーは大きく後ろに下がる。
「全くお前らときたら、どんな体の構造してやがる。なんでもありだな、感心するぞ」
苦笑するシュナイダーの前には右足を血液で破裂させ切り離し、足を模した角を生やした鹿の姿があった。
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