第158話:後片付けも、サポートも感謝してます!

「おい、こっちだ!」


 ぬいぐるみまみれの私たちを手招きして呼ぶのは坂口さん。なになに? と近づく私たち。


「お前たちこっちで待機して、そのまま避難しろ」


 そう言って、最初の避難から逃げ遅れた人たちが集まっている広場へ連れていかれる。


「坂口さんはどうするの?」


「あぁ、今から仕事だ。宇宙防衛省の職員やら防衛省の職員さんがくるだろうから適当に説明しとく。


 今は逃げ遅れた人の捜索と救助が優先だ。宇宙人倒したヤツの捜索は後回しだろうから、どさくさに紛れて帰ってろ」


 それだけ言って立ち去ろうとする坂口さん。仕事ができる人って感じでカッコいいぞ!


「じゃあ、お言葉に甘えて私たちは先に帰らせてもらうね」


「坂口、尚美にはしっかり仕事をしていたと伝えておきますわ」


「頑張ってたと言うのです」


 3人が口々に言うのを、「いや、あいつは関係ないだろっ!」と慌てる坂口さんを置いて私たちは避難している人たちに紛れる。


 ぬいぐるみとスーを背負うエーヴァとぬいぐるみマシマシな私たちは目立つが、みんな気にする気力もないらしく疲れきった表情をしている。

 そんな人混みを掻き分けやってくる元気いっぱいの女の子、薫ちゃんの登場である。

 元気いっぱいの薫ちゃんの後ろを必死についてくるご両親が大変そうだ。


「おねえちゃんたち~!」


「かおる~」


 エーヴァの背中にあるぬいぐるみの隙間から顔を出し、手を振るスーの姿がツボに入ったのかキャキャ言いながら笑う薫ちゃん。

 本当に元気な子だ。私は背中に背負っていたシャチのぬいぐるみをスーに渡すと、スーが薫ちゃんに差し出す。


「かおる、キューちゃんを貸してくれてありがとうなのです。白雪は今眠っているので話せないのですが、かおるにお礼を言ってたのです」


 背中にいるムササビを見せるスーに、ぴょんぴょん跳ねながら覗き込む薫ちゃんが可愛い。

 私はそんな薫ちゃんを抱き抱え、スーと白雪に近づけてあげると、ウサギをつんつん突っついている。


「薫ちゃんありがとう。お姉ちゃんたちとても助かったよ。薫ちゃんのお陰で怪獣倒せたよ」


「ええ、薫のお陰ですわ」


 私とエーヴァが誉めると、薫ちゃんは嬉しそうに笑う。私が薫ちゃんを下ろすと、キューちゃんをきゅっと抱き締める。


「またキューちゃんに怪我させてしまったのです。ごめんなさいなのです」


 薫ちゃんがキューちゃんを抱き締める姿を見て、申し訳なさそうに謝るスー。それに対し薫ちゃんは、かじられたキューちゃんを高く掲げる。


「お姉ちゃんたちと泳げて気持ちよかったって言ってるよ! 手伝えて嬉しかったって! ありがとうって!」


 薫ちゃんが掲げ、傷跡を誇らしそうに見せるキューちゃんは、間違いなく歴戦の戦士だと思う。


 しばらく、薫ちゃんを含めわいわいと話す私たちだが、ふとスマホの時計を見ると16時を回っていた。

 戦いが終わった時間を考えると2時間近く経過している。混乱しているとはいえ、避難に時間が掛かっている気がする。


 何気なくスマホを操作して、ネットニュースを検索すると私たちの住むあけぼの町を経由する新幹線や電車の路線が全て運行停止になっていることを知る。


「ん? これは……」


「どうかしましたの?」


 エーヴァに尋ねられて私はスマホの画面を見せ見出しを読み上げる。


向ヶ丘むこうがおか市、曙町付近で原因不明の爆発、だって」


「なに、原因調査中……映像はないが、目撃者の証言によると奇妙な生物出現。人だけでなく町中の犬猫などのペットも巻き込んでパニックねぇ……」


 エーヴァが私のスマホを見ながら続きを読んでくれる。


「これってさ」


「もしかしなくてもイヌコロだろ」


 私とエーヴァの会話を聞いて、ベンチで寝ていたスーが辛そうに体を起こす。


「行かなくていいのですか?」


「ちょっと待って連絡してみる」


 私は、始めおじいちゃんに連絡するが圏外になっていて繋がらない。次にママに電話を試みる。何度かのコール音がしてママが出る。


 ママが電話に出たことに一先ずホッとする。


〈詩大丈夫? ニュースでOSJで事故があったって流れてね。それから何回電話しても繋がらないし心配したのよ〉


「私もみんなも大丈夫。ママの方はどうなの? そっちも謎の爆発があったってニュースで見たよ」


〈そうなの、凄い音がしてビックリしたのよ! それにテレビもスマホも突然消えるし何も分からないし、ニュース見たのもさっきなの。

 そうだ! シュナイダーがいないの。ご近所のワンちゃんたちが吠え出してもう怖くてね〉


「ママ、ちょっと時間掛かるかもしれないけど、ちゃんと帰るから家で待ってて。私今日鍵持ってないからママが家にいてくれないと困るから。いい?

 それからシュナイダーは大丈夫。あれで賢い犬だからさ」


〈そうね。うん、分かった。詩も気を付けて〉


 すぐにでもシュナイダーを探しに行きそうなママをなだめ電話を切る。


「ママの話から推測するに、さっき電子機器が使えだしたことを考えると戦闘は終わったか、又は移動中のどっちか。

 確認するにしても移動手段が欲しいとこだね。さてどうしたものか」


 私の話を聞いて、一緒に考えるエーヴァとスー。

 考える私の肩をちょんちょんとつつく人がいた。


 振り返ると、満面の笑みを見せる直美さんが何かの鍵をくるくる回している。


「詩ちゃん、乗ってく?」


 そう言って渡されるた物を受け取る。


「ヘルメット?」


「そ、バイク借りたから後ろ乗ってかない? 坂口さんにお願いしてここから出れるように手配してもらったからすぐ行けるよ。

 それに謎の爆発、南下してるみたいだから、上手くいけばぶつかるかもよ」


 ネットニュースにも載ってないことを知ってるのも驚きだが、それ以上に尚美さんがバイクが運転できることが驚きである。

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