第157話:変身!変身! へんしーんなのよ!

 カエルの正面から向かうのは私。弓に雷の矢をつがえ、移動しながら放っていく。

 電流を嫌ってか、避けていくカエルの進路を防ぐのはアルマジロ白雪。


 両腕でがっしり受け止めた瞬間に、鉄の棒をフルスイングするエーヴァによってカエルの進路は無理矢理矢の刺さる方向へ向けられる。


 迸る電流の玉の間をくぐり抜け打ち込まれる、青白い光の連打が弾け皮膚を突き破る。その傷口に炎の矢を突き立てていき傷口を燃やす。


 土ぼこりをあげ走るヒョウの背中に立つエーヴァがすれ違い様に飛び込んで、燃える炎に鉄の棒を突き刺し手に握ったままホイッスルを吹く。


 体の一部が破裂し飛び散る鮮血を華麗に避けるエーヴァ。


「おそらく膜を作って本体を覆い、体内を移動してやがる」


「道理でダメージが低いわけだっ!」


 エーヴァに向かって飛んだ私をエーヴァがトスして上空へ上げてくれる。上空に飛んだ私は弓を構え雷の矢を放つ。


 光と音を瞬かせ落ちる矢を見つめるカエルの無数の目。

 その目に宿る光が大きく揺れる。


 私に注視するカエルの足をエーヴァとスーが両サイドから攻撃して折っていく。支えを失ったカエルが体勢を崩し体を地面につける瞬間、長い手足が四隅に生え、大きく跳躍する。

 そのタイミングで私が放つ雷の矢が、先に白雪がフリーフォールで割り、エーヴァが砕いた地面に突き刺さり舗装を砕き、土を剥き出しにする。


 そしてすぐに風の矢をつがえた私は背中のシャチをに引っ掛け、川に向かって飛ばす。


 雷の矢が起こした電流はカエルの跳躍によって地面を砕くだけの攻撃となり、その上を豪快に跳躍しエーヴァとスーが見下ろす無数の瞳が勝ち誇った色を宿す。

 跳躍する先にある川は、水門の閉鎖によって海からの塩水の影響を受けていないと思われる区間。


 再び水の中というアドバンテージを受けようとする、カエルの下を猛スピードで走り抜けるヒョウは川に向かって大きく飛ぶ。

 私の放ったシャチと空中でぶつかったヒョウは川に落ちプカプカと浮かぶ。

 代わりに質量を持ったシャチは水の中を優雅に泳ぎ、魔力を纏い体を回転させながら水面を突き破り飛び出て、川へ飛び込もうとしたカエルの肩を撃ち抜く。

 肩から地面に落ちるカエルが力を振り絞り、筋肉を痙攣させながら立ち上がる。


 起こした顔の目の前にいるのはアルマジロ。両手の爪に魔力を宿しその爪をカエルに突き立てると、カエルは引き剥がそうと前足でアルマジロ掴み、尻尾になった舌を振って攻撃をする。

 幾度もアルマジロの背中に当たる舌が硬い鎧に弾かれ、宙を泳ぐ瞬間に鉄の棒が突き刺さり、地面に縫い付ける。


「スー! 白雪! いくよ!」


 私が投げた石は地面に当たると、舗装から剥き出しになった土の上に『濘』の漢字が光始める。

 アルマジロとカエルが組み合ったまま、ぬかる地面に足を沈める。


【こんなに可愛いアルマジロと一緒に沼に沈めるなんて、幸せものなんだからっ☆】


 爪を更に深く刺し身動きを封じるアルマジロに向かってエーヴァが、ムササビのぬいぐるみを投げぶつけると、バウンドしたぬいぐるみが宙をで大きく手足を広げ、膜を広げる。


 ぬかる地面をものともせず走り抜けてきたスーが、アルマジロを踏み空中に飛び上がるとその背中にガッシリと覆い被さるムササビ。


【きたのよ! 本気なのよ! スーと白雪の合体攻撃なのよ~!!】


 爆発的に上がる魔力は、触れると切り裂かれそうな鋭さを持って放たれる。


 地面には青白い炎の跡をつけながら向かうスーに、口を大きく開け放たれるオタマジャクシの弾丸は全て上空へ弾かれ青白い炎に包まれ力なく落ちていく。


 一瞬で間合いを詰めたスーの拳の連打が、長い4本の手足と無数の足を灰へ変えていく。支えを失った本体が泥濘に沈むと、カエルの周囲を取り囲むように円を描きながら、強烈な突きと蹴りによる連撃の嵐によって体を崩していく。


 怒濤の攻撃に崩れゆく体から大きく離れ、右の手のひらに魔力を集めるスー。


「全力で行くのです!!」


 足を一歩踏み込み地面を抉ると、青白い炎の線がカエルに向かい、打ち込まれる掌底は、今まで突きや蹴りによって打ち込まれていた魔力と反応し大きな爆発を引き起こす。


「『玉兎激昂ぎょくとげきこう』なのです!!」


 天に向かって爆発する青白い炎。その炎を破り上へ上へ飛んでいく影がある。


「詩、上だ!」


「さてと、美味しいところはもらいますかねっ」


 弓につがえ、燃える矢の先端をエーヴァの指差す方向へ向ける。


「それじゃあ、サヨナラだねっと!」


 放たれた炎の矢は『鋭』『速』を通り鋭さと速度を増し、カエルの本体から飛び出てきた、球状の薄い膜を張った宇宙人に突き刺さる。


 空中で燃え上がる炎に包まれ消えゆく宇宙人。


「よし、音は消えた、討伐完了だ! もう逃げるぞ」


「だね、職質されるわけにはいかないもんね」


 ムササビを背負ったスーをエーヴァがウサギを手に持って背負う。私はヒョウとアルマジロ、シャチを拾い、ぬいぐるみまみれの3人はこっそり現場から逃げるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る