第155話:あふれカエル……
上空へ大きく飛んだ白雪は体をひねって回転しながら水面を突き破り、水中を進んでいく。
弾丸と化した白雪は水中でもがくおたまじゃくしを切り裂きながら、真っ直ぐカエルへ突っ込む。
【充電満タンの白雪をなめなさんなよぉ!!】
カエルの出す舌を掻い潜りながら、海水の影響なのか鈍くなったカエルの腹を突き破る。カエル底に這いずっていたカエルが身を屈めると大きく跳躍し急浮上を始める。
* * *
宮西くんと別れ、全力で自転車を漕いで戻ったときか、水飛沫を上げ宙に浮かぶカエルの姿が見える。
その後をシャチが大きく跳ね空中で追撃をすると、カエルは転がるように地面に落ちる。
そこに、青白い光が線を引き弾けるのが見える。
「作戦成功みたい。やるじゃん宮西くん! んじゃ私も行きますか」
自転車から飛び降りると走ってカエルへ向かう私の横をバールを抱えたエーヴァが走り抜けていく。
「先に行かせてもらうぜ、お前もこれもっとけ」
そう言って投げるヒョウのぬいぐるみを受け取って私も走る。
「喰らえやぁ!!」
相変わらず見た目と言葉のギャップが激しいエーヴァが投げるバールがカエルの足元に刺さると、鋭くホイッスルを吹く。
地面が弾け軽く抉れる。カエルにとってそれはダメージはあまりないのかもしれないが軽く怯む。宙を舞うバールを滑り込んできたスーが握ってカエルに投げると腕に突き刺さす。
間髪入れず鋭く吹かれるホイッスルにバールが反応して、カエルの腕の一部が弾ける。
「白雪!」
私が投げるヒョウのぬいぐるみに水から飛び出した白雪が体当たりすると、ヒョウは息を吹き返したかのように大地を踏みしめ、力強く駆け始める。
地面に落ちたシャチは、私が回収し背中に背負う。
走り始めたヒョウが、カエルの舌を軽やかに避け鋭い牙を足に突き立てる。そこに地面を青く焼きながら走ってくるスーは、白雪が噛みついている足めがけ掌底を入れる。
「白雪!」
スーの声と共にウサギのぬいぐるみが動き始め、スーと向き合うようにして、掌底を放ち2人が掌底で挟んだカエルの足の一部が抉れる。
ヒョウを背負ったスーとウサギの白雪が、同時に後ろに飛び跳ねて下がると上空からバールが落ちてきてカエルの傷口に突き刺さる。
鋭いホイッスルの音色に破裂したバールによって更に抉れる足。
「『
3人の攻撃の間に描いた『雷』『撃』の漢字が眩しく光り、凄まじい熱と音を立てカエルを焼き払う。
傷口から流れた電流は内部を焼いてるはずだからこいつもさすがに死んだはずだと、そう思って口を真上に向け天を仰ぎ突っ立っているカエルを見ると……
ゲボッ
嘔吐して異物を吐き出すような嫌な音が響き、
「下がれ!」
エーヴァの声で全員が距離を置く。
天を仰ぐカエルの口が大きく開き、口から次々と黒い物体を吐き出し垂れ流し始める。それは大量の手足の生えたおたまじゃくし。
自身の周囲をおたまじゃくしで溢れさせると、カエルは目を開き大きく口を開けると舌でスーと白雪の方目掛け凪ぎ払う。
舌は当たることなく空を切るが、設置されたベンチを掠め取ると、音を立て砕きながらそのまま飲み込んでしまう。
そして喉が大きく動くと大きく口を開け、飲み込んだベンチを丸めた物体を吐き出してくる。
スピードは私たちからすればゆっくりだが、ベトベトした見た目に経験則から危険を察知する。
ギリギリではなく私とエーヴァは飛んできた塊から大きく離れる。
塊は地面に当たると、弾け液体を撒き散らす。
「まじかよ、地面溶けてるぜ。こいつはガードするのもやべえな」
「同感。で、どうするよ。お子さんたちと移動始めちゃったけど」
足の傷を治したのか、僅かに焦げて茶色くなった体で元気よく跳ねるカエルが私たちから遠ざかっていく。
「ちっ、めんどくせえな」
エーヴァがバールを投げオタマジャクシの群れがいる地面に突き刺し、ホイッスルの音色で破裂させる。
吹き飛ぶオタマジャクシたちだがすぐに集まってきて、カエルへの道を塞ぐ。
「エーヴァ! 背中のぬいぐるみを上に投げるのです! 白雪!」
【いけるのよ!】
エーヴァが真空パックされた背中のぬいぐるみを袋から取り出すと、思いっきり空へ投げる。それと同時に跳躍したウサギの白雪の足の裏をスーが蹴り上空へ打ち上げる。
上空で空気を吸って、体を大きく広げ始めるぬいぐるみに白雪がぶつかるとそれは更に大きく手足を広げ帆を広げる。
【白雪ムササビモードなのよ! これで空は白雪のものよん!】
手足の膜をひろげ太い尻尾を舵にして、空気を身に受け滑空する白雪はカエルの頭上をすれ違い様に、膜を閉じ鋭い切り裂くと再び膜を広げフワリと浮かび上がり、近くにあった遊具、フリーホールの鉄骨にしがみつくと器用に上り始める。
「よそ見ばっかしてると、頭燃えちゃうよっと!」
私が放つ『火弾』がカエルの後頭部で弾ける。私の方を振り向くカエルだが、その頭を再びムササビ白雪が切り裂く。
だがカエルもただやられているわけではないといわんばっかりに、回りのオタマジャクシたちを舌でかっさらうと、飲み込む。
そして喉を動かし連続で吐き出されるオタマジャクシの弾丸、しかも溶解液付きだ。ベトベトした黒い塊が溶解液を撒き散らしながら飛んできて地面にぶつかると、溶解液ごとオタマジャクシ本体が弾ける。
だがたまに生きているオタマジャクシが溶解液を身に纏い歩き回り始める。
「最悪なのです!」
「おい、詩! お前回り込んでこいつら罠にはめろ」
「まあそれしかないか、でもこれだけ集団でいられると罠の効果薄いかも。それにさ、ほら」
オタマジャクシの弾丸が止むと、私が指差すカエルは新たなオタマジャクシを口から吐き出してる。吐き出したオタマジャクシを飲み込んで吐き出す。
よく分からない行動だが、オタマジャクシを生成するのと、弾として使うのは別ものなのだろうと納得させながら黒い弾丸から逃げ回る。
打開策を探す為に上を見上げるとフリーホールの側でムササビ白雪がゴソゴソしているのが見える。
「あー、エーヴァ、スー頭上注意した方がいいかも」
「だな」
「なのです」
3人は散り散りその場から離れるのだった。
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