第154話:作戦決行!
私は今自転車を全力で漕いでいる。荷台には私に必死にしがみつく宮西くんがいる。かなりのスピードを出しているので怖いのか背中に顔を埋めているようだ。
だが今は急ぐとき、宮西くんには悪いけど全力で目的地である水浄化施設へ向かう。急いでいるのでたどり着くと直ぐに宮西くんを荷台から降ろし、肩に抱えて水浄化施設の中へ入る。
ついさっき来た場所なので迷わず進むことが出来る。作業員のおじさんと出会った場所まで行くと、数人のおじさんがいた。
「君はさっきの?」
見覚えのあるおじさんに話しかけられる。そしてその顔は驚きで満ちている。まあ、男の子を肩に担いで現れる女の子に驚くのは、無理はないだろうけど。
他のおじさんたちも目を丸くして驚いているが、ここは丁寧に説明してる場合ではない。
私は肩に担いでいた宮西くんを降ろすと、両肩を持ち背筋をビシッとさせ、立たせる。
「はい、説明。簡潔に!」
私の声で半分気絶していた宮西くんは、我に返ったのかビクッとしておじさんたちの方を向く。
「お願いがあるんですけど、海へ繋がる水門を全開にして欲しいんです」
「全開ってお前、今満潮だろ。それに上流側の水門を全部閉めたって聞いたぞ。今開けたら、ろ過装置から園内に逆流するだろ」
知らないおじさんが反論するが、宮西くんは動じず説明を続ける。おっ、なんかカッコいいぞ!
「その逆流を起こしたいんです。この土地埋め立てで、川から水を引く為に本土の土地より海抜が低いですよね。
園内の川に水門があるのも、土地が低いからこそ。だから川からの流れが止まっていて、満潮の今が海水を流すチャンスなんです。あの化けガエルを倒す為にもお願いします!」
頭を下げる宮西くんに習って私も頭を下げる。化けガエルと聞いて、この場所で起きたパニックを思い出したおじさんたちが黙る。
そんななか、最初に会ったおじさんが、他の人たちに声を掛ける。
「水門を開けよう。俺はこの子があの化け物を追い払うのを見た。あの野郎に食われたヤツや、怪我したヤツの為にもやろう! なに、門を開けるだけだ、それくらいやってやろう」
おじさんの言葉に怯えていた皆の顔に、ほんのり覇気が戻る。そこからは早かった、テキパキとおじさんたちが作業を始め、スーたちがいる方の門を解放し、オーバーフローラインとやらを開けて、プールみたいなところに川の水を溜め、川の水位を下げ始める。
あくまでも緊急用のプールらしいけど、一旦川の水を減らし海水を一気に流し込んだ方が塩分濃度が一気に変わるだろうと説明くれる。
さすが本職と関心しながら作業を見ながら、私と宮西くんを含め全員が高い場所に避難したあとに持ち場についたおじさんたちが、一気に門を解放する。
想像してたよりは地味に海水が流れ込み、下のフロアを水浸しにする。徐々に水位を増していく様子に、宮西くんの作戦が上手くいってる予感を感じる。
「宮西くん、私はもう行くからここで待ってて!」
「う、うん、分かった。上手く海水が流れ込んでくれてるといいんだけど……」
ちょっと自信無さそうな宮西くんの肩をポンっと叩く。
「大丈夫、上手くいってるよ。宮西くんの考えてくれた作戦だもん!」
まだちょっと自信なさそうに頷く宮西くん。
「立案者が自信見せなきゃ、遂行する方は不安になっちゃうじゃん。私は信じてるから自信持ってよ。折角カッコよく決めたんだから、最後までカッコよくいこうよ!」
「えっ!? あ、うん! 頑張って!」
自信をちょっぴり取り戻せたかな? 表情が明るく変化したのを見届け、「任せて!」と言いながら手を振って走って外へ向かう。
後ろで宮西くんがおじさんたちに囲まれて、何か言われている気配を感じるが、今は気にしてる場合ではないので急いで外に出る。
外に出るとさっきより川の水位が上がっていて、堤防の半分以上が水で満たされている。
宮西くんの作戦が成功している気配を感じつつ、スーたちのもとへと急ぐ。
* * *
【まずいのよ、魔力を補充しなきゃいけないのに、水面に上がれない
のよ】
白雪を囲む無数のオタマジャクシの群れと、カエルの執拗な攻撃に苦戦し、尚且つ魔力の枯渇が目前に迫ってきているのを感じて焦る。
水面に上がることを許さないオタマジャクシの群れが頭上を埋め尽くし底が暗くなっている。
【一体どれだけこいつらいるのかしらん】
大きく横回転し、周囲のオタマジャクシを吹き飛ばす。だが魔力の減りと共にキレの無くなった回転では致命傷に至らず、一旦怯んだオタマジャクシは体制を整えると白雪の尾びれに噛みつく。
【痛覚がないから痛くないけど、不味いのよ、これっ】
一旦怯むが、体制を整えると一斉に襲いかかってくるオタマジャクシの群れが次々に白雪に噛みつき始める。
【まずいっ、どうにかならない? どうする?】
大量のオタマジャクシに噛まれ底へ沈められる白雪。引きちぎられる体を見ながら焦る白雪。
真横に感じる浮遊感のような感覚。水が大きく動き引っ張られ始めたのを肌で感じる。水の流れに逆らおうとするオタマジャクシたちの口が緩んだところで、大きく回転し数匹を引き離すことに成功する。
睨み合うシャチとオタマジャクシの硬直状態はすぐに終わりを迎える。
引っ張られる感覚と反対の、押し寄せてくる感覚。それはとても大きく水かさが急激に増していくのが底にいても分かる。
味覚を持ち合わせていない白雪だが、水の質が変わる感覚を肌で感じる。濃さが増したような感覚を感じると、周りのオタマジャクシたちがあからさまに水を嫌がり始めている。
【なんだか分かんないけど、スーたちの誰かが手助けしてくれたようね! これはいけるわっ☆ 一番の功労者にキスしちゃうっ! きゃはっ♪】
魔力の残りを振り絞ると、一直線に水面へと泳ぐ。もがくオタマジャクシたちを押し退け一気に水上に飛び出ると、それを察知していたスーがタイミングよく甲板から飛び白雪の背中に乗る。
「大丈夫なのですか!?」
【ちょっぴり噛られちゃったけど大丈夫よん】
水面に浮かぶ白雪が所々ちぎれたヒレをヒラヒラさせながらも、無事をアピールする。
白雪の背中に手を置いて魔力を補充するスーたちは、打ち寄せる波によって揺れている。その揺れと水かさが急に増したことで水門に引っ掛かっていた船が後方の一部を破損させながらも外れ岸にぶつかって止まる。
エーヴァが守るなか、船員さんが急いで中の人たちを誘導しているのを見て、白雪がヒレでペチペチと顔を叩いて気合いを入れる。
【スー、もう一回いくわ! あのカエルぶっ飛ばしてやるのよん!】
「気をつけて行くのです、一撃離脱が基本なのです」
【了解なのよ!!】
白雪が大きくジャンプすると空中でスーは離脱し、白雪はキリモミしながら勢いよく水中へ飛び込む。
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