第153話:作戦は手短にお願いします
折れた槍を投げ捨て、水面を突き破って飛び出てくるおたまじゃくしを蹴って甲板に叩きつけると、『刃』を描き風の刃で一刀両断する。
風で作った刃は一瞬しかもたない為『火』を描き漢字を叩いて火花を散らし、次に来たやつを焼く。
「コイツら、自らこっちに向かってきてる」
ついさっきまで、白雪に水上に追い出されていたおたまじゃくしたちは、今は自ら水面を破り飛び出して来ている。
口を大きく開け、尖った歯を突き立てんと向かってくるそいつの顎を蹴り上げる。
「楽しそうなことやってんじゃねえか」
その声共にエーヴァが宙に浮いたオタマジャクシを何かで弾き返し、甲板に叩きつけると破裂させる。衝撃で潰れた訳でなく魔力を送り込んでぶつけた音で内部から爆発させたみたいだ。
「うわっ、エグいなもう」
「うるさいな、それより今戦ってんのはなんだ?」
私の文句を一蹴りして、手に持ったバールで肩をトントン叩きながら敵の情報を訪ねてくる。お嬢様にバールって案外似合うのかもしれない。そんなことを思ってしまう。
「この川の底に大きいカエルがいる。それで今は白雪が潜って対抗してるけど、討伐する為には地上に出てもらう必要があるんだよね。
今のとこ私が電流を流して外に追い出す作戦なんだけど、この船が引っ掛かっていて、被害を考えるとそれも叶わない状況。
で、どうやらカエルは卵を生んだみたいで、オタマジャクシ発生中ってわけ」
「なるほどな、大体分かった。水の中の魔物なんて基本倒さないで、会わないようにするのが基本だから、倒さなければいけないこの状況はめんどくせえな」
そう言いながら、飛びかかってきたオタマジャクシをバールで打ち返す。打ち返されたおたまじゃくしが別のオタマジャクシにヒットし、2匹が水の中へ落ちていく。
器用だな、私も後でやってみようと思いながら見てると、スーが水面を駆け甲板に着地する。
これで3人揃ったわけだが、スーはウサギを、私はヒョウを、エーヴァは真空パックされたものを背負ってる。
変な3人である。
因みに背負えてるのは、ワンタッチ式のバックル(おじいちゃん作)によりスムーズに背負える優れたアイテムのお陰です。
「白雪の活動限界が近いのです。まだ上がってこないのが気になるのです」
スーが不安そうに水の中を見る。時々おたまじゃくしが吹き飛ばされて水上へうち上がってくるし、下で魔力の流れを感じるから大丈夫なのだろうけど、言われてみれば魔力の大きさが小さくなってきてる。
「水の中じゃ動きとれねえしな。飛び込むのは自殺行為だぞ」
悔しそうに言うエーヴァは胸にあるホイッスルを見つめ握り締める。
「水の中じゃあ、あたしの音は伝わらないしな」
「伝わらない? でも水の中でも音聞こえるよね?」
「あぁ、音って言っても空気の振動であって、水の振動にはあまり魔力が乗らない。固体への振動ならそこそこいけるがな」
「そうなんだ。それなら鉄による媒体を使用しての水中への攻撃も考えたけど難しいね。
スーの攻撃は接近しないと効果が薄い、鞘野さんの電流もこの水の量だと分散して効果が薄いし、火で沸騰なんて現実的な水の量じゃないし……」
「うわっ!?」
「なんでお前ここに!?」
私とエーヴァの会話に割り込んできた宮西くんに私たちは驚き、声の方を見るとスーに襟首を捕まれてぶら下げられている宮西くんの姿があった。
「岸の方でオタマジャクシに襲われていたので連れて来たのです」
スーがめんどくさそうに宮西くんを離すと甲板に転がるが、そんなことは気にせずにすぐに起き上がり甲板に座ると、パンフレットやらなにやら広げて考え始める。
私らがオタマジャクシを叩き落としている、そのなかで考える宮西くん。
その集中力は凄いと思う。時々転がってくるオタマジャクシを気にせずにブツブツ言ってるし。
なんと言えば良いだろうか……一生懸命な宮西くんには悪いけど、少し怖いぞ。
突然宮西くんがパンッと足を叩くと、立ち上がる。
「みんな聞いて欲しいんだ!」
オタマジャクシを殴る私とエーヴァに蹴るスーは。チラリと見て頷いて同意をすると共に『手短に!』と念を送る。
その念を受けて、コクりと頷く宮西くん。
「まずこのオタマジャクシ、黒が濃いことと、泳ぎの速さからニホンヒキガエルだと思われるんだ。あ、ニホンヒキガエルってアズマヒキガルと2種類いて山陰と山陽で別れる訳なんだけど、最近ハイブリッド種も確認されてるんだ。ごめん話逸れたね、OSJは山陽になるからおそらくニホンヒキガエルってことなんだけど。基本カエルって淡水に生息するんだ。坂口さんと尚美さんが調べてくれて水浄化施設付近にいるって分かった訳だけど、淡水に生息することを踏まえると、OSJの近くの山から降りてきたと思うんだ。水浄化施設にいたのは単純に大量の水があったからだと推測できるし、今のオタマジャクシを見るに産卵場所を探していてたとも考えられる。あ、でも雄がいない……まさか
話の止まらない宮西くんにオタマジャクシを殴る拳に力が入る。エーヴァがイライラしているのがよく分かる。スーが殺気を放ち始めてる。
「おい、良いこと思い付いた。こいつ餌にしてカエル釣り上げようぜ」
「スーは竿探してくるのです」
「私、糸探してくるわ」
3人が息ピッタリに散り始めると、慌てて立ち上がる宮西くんへ向かうと口を人差し指で押さえる。
「長い! 簡潔に! 3行でいこっか!」
「カエルは淡水に住みます。
この川に海水を流します。
淡水と海水の浸透圧の違いからカエルが川から逃げるはずです」
私はちゃんとできた子は褒めるので、笑顔で称える。
「良くできました!」
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