第152話:パニック!

 白雪が潜ってすぐに水面が赤く染まる。白雪は血が出ないので単純に考えて、カエルのものであろうと推測できる。

 白雪が頑張っているのだろう、心で応援しつつ隣のスーを見ると心配そうに水面を覗いている。


「そろそろ、充電の時間なのです。多分上がってくるはずなのですけど……」


 スーが言ったタイミングで水面に向かって黒い塊が猛スピードで近づいてくる。一瞬、白雪かと思った私だが、魔力を全く感じない物体に違和感を感じとる。

 スーの方が違和感に気付くのが早く、既に拳に青白い炎を纏っている。


 水面を破り、高く飛び上がる黒い塊。


 相手が分からないときは遠距離攻撃が基本! ここは『雷』『弾』を描いて待機してた私が『雷弾』を放つ。


 電撃をほとばしらせながら飛んで行き、黒い塊にぶつかると弾ける。

 甲板に落ちてきた塊を見ると丸い体に尻尾? が見える。 


「オタマジャクシ……なのです」


 スーの言う通り、どこからどう見てもおたまじゃくし。ただ大きさはバスケットボールを2回り大きくした位でかなり大きいし、歯がギザギザと鋭く尖っている。それに加え両手が生えていて鋭い爪が見える。


 本物をじっくり見たことがないけど、多分こんなんじゃないと思う。そして私の知識の中でカエルの子供である、オタマジャクシを必死で思い出すと、テレビか何かで見たカエルの卵を思い出される。


「ねえ……スー? 私あまり詳しくないんだけど、カエルっていっぱい卵生まないっけ?


 ほら、何て言うかこう、膜に入って沢山連なってる感じでさ……」


 私とスーは目を合わせ、パチパチまばたきしながら見詰め合う。


 その瞬間、タイミングを見計らったように水面から次々と打ち上げられるオタマジャクシ。おそらく白雪が私たちに、コイツらをどうにかしろと送り込んでいるのだろうけど……


「うえぇぇ、気持ち悪いっ!」


「直接触れてなくても、なんかヌメってするのです!」


 槍で突く私と、拳メインでトドメをさしていくスーは文句タラタラで攻撃を繰り出す。若干やけになって、オタマジャクシに近づいてほしくないから攻撃している感じだ。


 そして大量に降ってくるオタマジャクシが、窓に張り付いて動き回る姿に、船内の人々もギャーギャー騒いで、まさに阿鼻叫喚である。



 * * *



 阿鼻叫喚、それは水面の上だけでなく下も同じ、いやそれ以上かもしれない。


【うひゃああっ、気持ち悪いのよぉぉぉぉ!!】


 川底に這う半透明の管の中にある大量の丸い卵の中身がぐるぐるっと動くと、膜を突き破って飛び出してくる狂暴な顔をしたオタマジャクシ、尖った歯をむき出し泳いでくる。


 白雪がぐるっと回転し尾びれでオタマジャクシを叩いて、水の中から叩き出して空中へとはね飛ばしていく。


【スー、うたっち、ゴメン! これは生理的に無理なのよん。そっちに送るわっ!】


 両ヒレを合わせゴメンねをすると、次々と襲いかかってくるオタマジャクシの群れを、尾びれで叩いて水上へ追いやる。



 * * *



 詩たちがオタマジャクシパニックに陥っているとき、宮西はドキドキで自転車を漕いでいた。


 今、宮西の背中には、スースー寝息を立て寄りかかっているエーヴァがいる。詩のいる大体の場所をパンフレットの地図を指差しエーヴァが教えてくれると、真空パックされたぬいぐるみを1つ背負い、すぐに「疲れたから寝ますわ。迅速かつ安全運転でお願いしますわね」と言って、宮西に寄りかかるとすぐに寝てしまう。


 こんな状況で、まして自転車に乗ったまま寝れるエーヴァに感心しつつ出発したわけだが……


 宮西は今背中で感じる女の子の柔らかさにドキドキしているのか、必死で自転車漕いで心臓が高鳴っているのかよく分からないまま、無心を心掛ける。

 そう思っている時点で無心でないことに気がつかない彼は、詩のいる場所を目指しペダルをガムシャラに踏み締める。


「んっ」


 そろそろ目的場所が近づいてきたなと思ったとき、背中のエーヴァがもぞもぞ動き始める。まだ眠いのか頭を背中に擦り付けられ、どこかつやっぽい声に宮西は「ぴゃっ!?」っと変な声を出してしまう。


 エーヴァが腰にまわしてる腕にぐっと力が入り密着度が増し、色々と感触が感じられると宮西の緊張度はマックスに!


「近いか……」


 ボソッと宮西の背中で声が聞こえると、腰に回していた腕がスルッと抜け、代わりに後頭部を握られる。これが結構痛かったりする。


 エーヴァは自転車の荷台に立ち、宮西の頭を握りながら周囲を見渡し音を拾う。


「ミヤ、お陰で助かりましたわ。ここまででよろしくてよ。元来た道を戻るといいですわ」


 エーヴァが宮西の頭をポンポン叩くと、結構なスピードで走る自転車の荷台から飛び降り軽やかに着地し走り去る。


 ブレーキをかけエーヴァが去った方向を見る宮西は、エーヴァに言われた通り帰ろうとハンドルを切るが、すぐに止まると再び詩たちがいる方へハンドルを切り返し、自転車を漕ぎ始める。

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