第151話:ヒョウからシャチへ! なのです。

 水上に浮かんだ氷を蹴り、水面にを風を纏う槍で切り裂く。


 宙を舞う蛙の舌……


「って何回めよ! どんだけ舌ばっか出すのよ! いい加減出てこいっての!」


 水門に引っ掛かって動けない船の屋根に飛び乗り、思わず地団駄を踏んでしまう。

 屋根がガンガン鳴って、中にいる人たちビックリしただろうなと、心の中で「ごめんなさい」と呟きボロボロになった元ホウキの槍を構える。

 雷撃で水中にダメージを与えたいところだが、船があるのでそれが叶わない。


「ま、文句言っても始まんないか」


 何度目か分からない舌の攻撃を弾いたときだった。


「うた! 待たせたのです! ここにくるまでの水門は全部閉めてきたのです」


 黄色い四足歩行動物、ヒョウ? と思われるものに股がった、ウサギを背負うスーが現れる。ぬいぐるみまみれなスーの下にいるヒョウが叫ぶ。


【スー掴まってて、一気に駆け抜けるわよん!】


 ヒョウはぐんぐん加速すると、水面を駆け抜ける。


「ってはやっ!?」


 白雪が黄色の線を残し水面を走り抜けると青白い炎が一瞬上がり、蛙の舌が水面を叩き水しぶきを上げのたうち回る。


 水面を蹴って甲板にいる私の隣に着地するスーと白雪。


「打撃はあんまり効いてないのです。他の方法を考えないといけないのです」


 私からはスーが背負っている白雪……ウサギしか見えないので、ウサギが喋っているように見える。

 ぬいぐるみまみれ、可愛いな。こんな戦い方する人見たことないから、実に斬新だ。

 ぬいぐるみ? 待てよ確か……


「あっ、そうだ! スー、あんたに会いたいって子がぁ」

「スーお姉ちゃん! しらゆき!」


 私が言うより早く船内からパタパタと走ってきたのは、シャチのぬいぐるみを抱えた薫ちゃんだ。

 お父さんとお母さんが慌てて船内から出て来て、薫ちゃんを捕まえようとするが、華麗に避けてスーの元へ駆け寄る。


「薫じゃないですか!? なんでここにいるのです」

【お久しぶりぃ~ 声聞こえてないでしょうけど今はヒョウが白雪なのよ。ウサギばっかり見ないでこっち見てよん!】


 白雪の声は届いておらず薫ちゃんは、スーの背中でぐったりするウサギのぬいぐるみと握手して喜んでる。

 寂しそうなヒョウが印象的である。


「薫、ここは危ないのです。早く逃げるのです」


「うん、分かった。でもねキューちゃんが一緒に戦いたいって!」


 絆創膏が貼ってあるシャチのぬいぐるみを掲げると、シャチのぬいぐるみでウサギのぬいぐるみにキスをさせる。


「あれぇ?」


 不思議そうにする薫ちゃんの頭をスーが優しく撫でると、薫ちゃんはくすぐったそうにしながらスーを見つめる。


「薫、キューちゃんの力をスーとしらゆきに貸して欲しいのです」


「うん!! もちろんだよ! キューちゃんもやる気満々だもん!」


 その言葉を待っていたと言わんばかりの、弾ける笑顔でキューちゃんをスーに渡す。


「ありがとうなのです! 白雪!」


【任せなさいなのよ!】


 キューちゃんぬいぐるみを軽く上に投げると、ヒョウの白雪が飛び上がって体当たりをして更に上空へ跳ね上げる。


 そのまま力なく落下してくるヒョウをスーが受け止める、キューちゃんは水の中へ水飛沫を上げ落ちていく。


 水面に黒い影が現れると水面を突き破り、大量の水飛沫を上げ白と黒のシャチが大きく飛び上がり宙を舞う。

 空中でくるくると回転して、飛び散る水飛沫をキラキラと日の光に反射させ、そのまま真っ直ぐ水の中へ飛び込む。


 水柱が立ち、弾ける水飛沫が私たちにかかる。ぬいぐるみのシャチが華麗に舞う姿に船の乗客は釘付けになり、薫ちゃんは大はしゃぎで叫ぶ。


「キューちゃーーん!! がんばれぇー!」



 * * *



 水中にも薫の声は響いて、白雪の耳にも届く。


【白雪に任せるのよ!】


 シャチの白雪は水のそこにいる影を見つけると全力で泳いで向かって行く。

 底に張り付くカエルは白雪を見ると口を大きく開け舌を伸ばして攻撃してくる。

 水を切り裂く舌は一本ではなく無数の舌が縦横無尽に乱れ舞う。白雪はそれらを華麗に泳いでかわして、挨拶がわりに尾でカエルの頬をビンタする。

 そのままクルリと素早く回ると頭突きを一発、顎下に潜り更に頭突きを入れるとカエルは水中で跳ねて大きく後ろに下がる。


【甘いのよん! 白雪も成長してるってとこ見せちゃう!】


 体を捻り、ヒレを広げ魔力を這わすと捻った反動を利用しながら回転して泳いでカエルに突っ込む。さながら弾丸と化した白雪がカエルに突っ込み体を撃ち抜く。


【どうなのよ、白雪ちゃんの力を思いしるといいわん!】


 カエルを貫きヒレを腰に当てふんぞり返る白雪が、底へ落ちていくカエルを見下ろす。


【あららら、もしかしてあれは……】


 カエルが落ちていく先とは別の場所にうごめく無数の黒い粒を見つけたシャチの白雪は、心底嫌そうな顔をする。

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