第146話:最強の戦士

 水洗浄施設を出ると、スーと別れ壁沿いを走っていくと、園内を流れる川にぶつかる。

 川沿いに沿って行けば水門へとぶつかるはずだ。


 人工の川なので道を遮るものはなく、水門を閉めるのは難なく行けると思っていた。


「船か……」


 園内を円状に流れる川には小型の船が往来し、お客さんの移動手段兼、園内を観光する為に使うのだが、水門の柱に船が引っ掛かっている。


「まさかの1ヶ所目から水門閉めるのに苦労するなんて、前々世の行いが悪いのかも」


 私は文句を言いながら水門の横にある階段を上り、上にある小屋の扉を蹴り壊し、中に入ると大きなモーターと、歯車、ハンドルが目に入る。


 壁に貼っている操作マニュアルを読むと、普段はボタン一つで水門を下ろせるみたいだが緊急時における手動操作の方法が書いてあったので熟読する。


「なるほど、これ回せば良いわけだね」


 大きなハンドルを見つけ、そのハンドルを繋いでいるチェーン式の鍵を破壊する。脆い鍵で良かったと思いながらハンドルを回してみる。

 数回、回し外に出てみると途中まで門が降りているのを確認する。


「意外に簡単に降りそう。問題はあれかぁ」


 門の柱にすがるように引っ掛かっている小型の船。人工の土手に降りて船を見に行く。よく見ると船の後部の一部が柱の出っ張りに引っ掛かっているだけで、衝撃を与えればなんとかなるかもしれない。


 船本体を見ると『OSJ運河・ランドクルーザー5号』の文字が目に入ってくる。そして、船の中に人影が見える。


 船の搭乗口が陸から大きく離れた状態で、後部が引っ掛かっている為降りれず、四苦八苦しているようだ。

 おそらく助けを呼ぼうとしたが無線が通じず立ち往生していたのだろう。私を見つけた船の中の人が手を振って助けを求め叫びはじめる。


 1人の男の人が出てきて助かったと安堵の表情を見せるその人とは逆に、私は直感的に胸騒ぎを感じ、背筋に悪寒が走る。


 土手を駆け、飛び上がり水門の柱を走り船の屋根に飛び乗ると無線用のアンテナっぽいのをへし折り、『刃』を描きぶつけながら水面に全力で投げる。


 風の刃を纏ったアンテナと、水面から飛び出てきた赤い物体がぶつかる。赤い物体の先端にアンテナが刺さり、赤い物体は大きくのたうち水の中に戻っていく。


「初撃は成功したけど、ここからどうしようか」


 周囲を警戒しながら周囲に『刃』を描いて、敵の攻撃に備える。


「おい、きみ」


 下からの声を掛けてくる男の人は、船乗りの人が着るセーラー服を着ているので、おそらくこの船の運転手だと思う。


「悪いですけどちょっと静かにしてもらえますか。水中を探るの集中力使うんで」


 突然船の屋根に上ってきた人とか、すごく気になるのは分かるけど、今は集中したいんでチラッとだけ目を向けるが、すぐに水面に目を向ける。


「とにかく屋根から降りなさい!」


 運転手が叫んだのと同時に水面から赤い物体が飛び出してくる。

 私は『刃』の漢字を叩くと風の刃が飛んでいき、切り裂か……ない!?


 赤い物体は風の刃を避けると、飛び込んで来ることなく、水面から出てきてゆらゆらと揺れながら様子を見ている。


 そう様子を見ているのだ。この赤い物体、こうしてじっくり見るのは初めてだが、カエルの舌なわけである。

 そして舌の裏側にある一つの目が私をじっと見て出方を窺っている。


「相変わらず、どこでも目玉を生やして気持ち悪いっての。


 っと、おじさん、何でもいいから武器になりそうな物、そうだなぁ棒状の物ない?」


 文句を言いながら屋根から降りると、背中越しに運転手のおじさんに頼むと、おじさんも目の前にいる目玉のある舌を見て、異常を察したのか素直に船内へと入っていく。


「こ、これはどうだ?」


 そう言って手渡されたのは黒い日傘。船内にいるお客さんのものだろうか。


「傘ねぇ……」


 傘って、『剣』とか通したら剣になるのか? あんまりイメージが湧かない。まあ、何もないよりましだろう。


 傘に『剛』を描き、右手の甲に『速』を描き強化した傘を両手で握り構える。

 それを危険と判断したのか、カエルの舌が真っ直ぐ向かってくる。


 傘でいなし、叩くと同時に左手に描いてあった『火』を発動させて、傘を炎で包む。

 そのまま数発叩き込むとカエルの舌は、身を震わせ船から離れてしまう。


 なんだかビニールが焦げるような嫌な臭いがする。初めは傘を炎で包んだせいだと思っていたが、炎が消えた傘をよく見ると舌に触れた面がただれている。


「うげっ、なにこれ。直接触れるとヤバイヤツじゃん」


 デロンっと溶けた傘の一部を見ている私に、おじさんがまた何か持ってくる。


「取りあえず集めてみたんだが、これとか」


 ホウキを渡され受けとる。


「これはいいっぽい、あ、こっちのモップも柄が木だし更にいい!」


 ホウキとモップには申し訳ないが先端をへし折り、棒にすると、『槍』を描き2本の槍を作る。

 これならなんとか行けそうだ、そう思っている私の足元に女の子が駆けよってくる。


 前髪ぱっつんで、頭の上に小さなお団子を2つ作っている女の子は、腕には大きなぬいぐるみを抱き抱えている。


 あちこちに布で作った大きな絆創膏が縫い付けてあるシャチのぬいぐるみを、誇らしそうに掲げるその女の子は元気に自己紹介してくれる。


かおりのキューちゃんは最強なんだよ! さいきょーのセンチ最強の戦士だってお父さんが言ってた!

 キューちゃんがお姉ちゃんと一緒に戦いたいって言ってるよ!」

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