第144話:頼りになる人たち
手に持ったカップの中をじゃらじゃらと氷をぶつけながら坂口が、木陰のベンチに座る尚美に1つ手渡す。
「シロップは抜きでいいんだよな?」
「うん、ありがとう。調子大丈夫?」
坂口がドカッと尚美の隣に座る。
「いや、別に調子悪い悪いわけじゃないからな。遊園地なんて久々過ぎて衰えを感じたってだけだ」
「まあ、歳だもんね。お互いにね」
クスクス笑う尚美にフッと笑う坂口。しばらくぼんやり過ごすが、おもむろに坂口が口を開く。
「なあ、あの子たちをどう思う?」
「あの子たちって詩ちゃんたちのこと? どうってちょっと変わってるけど皆いい子じゃない」
2人は詩たちが今いるであろう、観覧車を中心とした遊園地全体をなんとなく眺める。
「ここ最近の事件、世間でも話題になってるのは知ってるだろ?」
尚美が頷くと、坂口が話を続ける。
「裏ではもう宇宙人の存在は認知されている。他国間で情報交換も盛んに行われている。
そして国もバカじゃあない。あの子たちの存在に気付き、正体をつかもうと躍起になっている」
坂口がアイスコーヒーを一口飲んで、遠くを見つめたまま大きく息を吐く。
「現状あの子たちに頼るしかない。だがこのままで良いんだろうかって思うんだよな」
「というと?」
「戦力面での協力ってのも、もちろんなんだが、あの子たちの前世の話聞いたらなんと言うかこう、戦いが終わった後に明るい未来であって欲しいと思ってしまうんだ。
俺にできることって、なんだろうなって思うわけだ」
相変わらず遠くを見つめる坂口の肩を、尚美が手のひらでバシッと叩く。
突然叩かれ痛そうに肩を押さえる坂口を見て、嬉しそうに笑いながら連続でバシバシと肩を叩く。
「良いこと言うじゃない。なんでその考えが出来てその年まで結婚できないのよ」
「叩くな、いてえよ! 結婚できないとか余計なお世話だ。それにだ、良いこと言うっていっても何も具体案ないからな。そう思っただけって話だ……」
不貞腐れる坂口が叩かれた肩の辺りをを押さえながら、恥ずかしそうにそっぽを向く。
そんな2人の前を通りすぎるカップルの驚いた声が聞こえてくる。
「あれ? 私のスマホおかしいんだけど?」
「ほんとだ。画面に線が入ってる。壊れたのかな?」
その言葉を聞いて2人は慌てて自分のスマホを確認すると、ノイズが走っている。
「通話もネットもダメね。これって」
「ああ、やつらがいるってことだろう」
ベンチから立ち上がって、詩たちがいるであろう方を見つめる。観覧車の光が失われゆっくり止まる。先程まで当たり前にあった音がブツリと消える。喧騒が止まり、突如訪れる静寂が支配し始める遊園地。
坂口が立ち上がると尚美に振り返る。
「避難誘導ぐらいできるだろうよ。俺は行くから先に逃げてろ」
「あら? 私も行くわよ」
当たり前のように答える尚美を見て坂口は目を丸くして驚くが、フッと笑う。
「怪我するなよ」
「ダメとは言わないんだ」
「来るなって言ってもどうせついてくるんだろ。行く行かないの押し問答するくらいなら、最初から怪我の心配した方が効率いい」
「ふふっ、よく分かってらしゃる。とりあえず警備員の人をつかまえましょうよ。誘導は私たちがやるよりそっちの方がスムーズにいくはず」
「だな、後は場所の特定ができたら良いんだが。誘導ついでに警備室で聞き込みしてみるか」
2人はまだ静寂のままで不気味な雰囲気を放つ遊園地へと向かう。
* * *
初めに異変に気がついたのは宮西くん。電波が遮断されるとアラームが鳴るようにしている彼のスマホがピピピっと音を立てる。
それを深刻そうな表情で私に見せてくる。
そして突然止まるアトラクションたち。周囲を見渡すとジェットコースターは運良く発車前だったが、フリーフォールは昇っている途中だったらしく中途半端な位置で止まっている。
観覧車にも何人か閉じ込められているのが見える。
突然止まった遊園地で周りの人たちはまだ何が起きたか理解できずにいる。スマホが動かないことを不思議がったり、止まった観覧車を指差している人、近くにいるスタッフに現状を尋ねる人などがいる。
今はまだなにも分からなくて、軽く混乱している状態。ただ何かのきっかけでパニックが起こる、そんなピリピリした空気が蔓延しているのを感じる。
「うたっ!」
状況を把握する私に向かってスーが短く声を掛け、ガラガラと白雪の乗ったカートを引いて走ってくる。
続けてやってくるエーヴァとアラさんに美心。私は5人の顔を見た後、
「私とスーで坂口さんたちを探すから。エーヴァはアラさんと美心、宮西くんと一緒にいてもらえる?」
エーヴァが短く頷き、困惑気味のアラさんを連れて美心と遊園地の出口へ向かっていく。
「さてと、どうしましょうかね。おそらく宇宙人なんだろうけど、見た感じ騒ぎとか、
こういうとき、シュナイダーがいれば何かしら見当がつけれるかもしれないんだけど」
「3人とも攻撃主体で、遠距離の索敵は苦手なので仕方ないのです。目立たないように高いところに上って移動しながら、異変を探すしかないのです」
「だね、それでいこうか……ってあれ? なんか声が聞こえない?」
ジェットコースターの乗り場へと向かう階段を駆け上がり、高い位置から音のする方へ私とスーが集中する。
音がする方にあるメリーゴーランドから奥のアトラクションが動いているのが見える。
そして、まだアトラクションが生きている側のスピーカーから声が響く。
「「園内のお客様にお知らせ致します。今現在、園内の南東の海沿いの施設にて電気トラブルが発生しました。それに伴い園内の一部で停電が発生しています。
このトラブルにより、多大なご迷惑をおかけしていますことをお詫び致しますと同時に、お手持ちのパンフレット番号⑬のエリアには近付かないようにお願い致します。
尚、アトラクションの復旧、救助を行うにあたりまして、作業車等入ってまいりますので、係員の指示に従って速やかな園外への移動をお願い致します。
チケットの払い戻しの手続きは園外に出て行いますので、チケットは失くさないようにお持ちください」」
聞き覚えのある落ち着いた声が響きわたると、スタッフと警備員がやって来て園内にいる人たちの誘導を始める。
「うた、この声尚美なのです」
「うん、間違いない」
私はその辺りにあった園内のパンフレットを手に取り、放送された⑬の番号を確認し南東海沿いにある施設を探す。
「
「さすが仕事が早いのです! その施設に向かうのです」
坂口さんと、尚美さんに感謝しつつ私とスー、白雪は園内の端の方に位置する水浄化施設へ向かうのだった。
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