第142話:OSJへ向けて出発!

 OSJへは隣の県へ向かう必要があるため、新幹線を利用する。切符はすでにアラさんが人数分手配してくれていて、配ってくれる。

 新幹線の往復切符代もエーヴァの実家であるクルバトフ家が出してくれた。


 すごいぞクルバトフ家!


 ウキウキな私の横で、キャリーカートを引っ張るスーが、カートに座っている白雪に興奮しながら話しかけている。


「白雪! 新幹線なのです! 楽しみなのです!」


【楽しみねぇ~。スー、車内販売で何買うか決めたの?】


「車内販売のカートを見て決めるのです!」


 テンションの高いスーたちの横でキャリーケースを引っ張るのは美心。


「何持ってきたの?」


「ああこれ? ぬいぐるみ」


「ぬいぐるみ? アルマジロ?」


「へへぇ~ん、アルマジロだけじゃないのよ。2匹の新たな仲間が加わったんだぁ」


 誇らしげにキャリーケースをポンポンと叩く美心。


「新たな仲間が加わったのは良いけど、なんで持ってきたの? 別に戦いに行くわけじゃないし」


「念のため、大体、詩とエーヴァの武器って持ち込めないじゃん」


「えっ!」

「あら!」


 同時に驚く私とエーヴァ。そんな私たちを美心はジト目で見てくる。


「もしかしてその物騒な鉄の塊を遊園地内に持ち込もうとしてた? 2人とも遊園地で遊ぶどころか捕まるよ。

 そもそも新幹線で見付かっても不味いことになると思うけどなぁ」


 ジーと見てくる美心から目を反らす私とエーヴァ。


「お嬢様~! 御荷物運んで参りました~」


 元気のいい声のアラさんが重そうにキャリーカートを引きずってやってくる。数ある荷物の中でもミローデイアが入っている長いバックが、一際存在感を放っている。


「アラ、それ重いから置いていきますわ。あなたも大変でしょう」


「ええっ? これお嬢様の大切な御荷物だって仰って、日頃触らせてくれなくてすごーく頼んで今日やっと持たせてもらえたんですよ。持っていきましょうよ」


 キャリーカートに積まれている荷物をエーヴァが指差すと、残念そうな顔をするアラさん。

 私には分からない感覚だが、アラさんはエーヴァの荷物を持つこと、役に立てることに生き甲斐を感じているようだ。


「いいですのよ、ほら詩、あなたも置いていくと良いですわ」


「あ、うん。そうしようかな」


 最近手に馴染んで学校へ行くとき以外持ち歩いている朧の入ったバックを、大きなコインロッカーの中に入れる。


 寂しそうに扉を閉めるアラさんと、その後ろに私とエーヴァがションボリと佇む。


「遅くなってごめんね、ちょっと仕事が立て込んでて」


 まだ未練たらしくコインロッカーを見つめる私たちの後ろから声を掛けてくるのは、尚美なおみさんだ。


 後ろを振り返ると、そこにいつもの茶色のカジュアルショートと違い、黒髪ロングな尚美さんが立っていた。私の視線に気付いたのか髪を指に巻いて笑う。


「ああこれ? ウイッグよ、ウイッグ。いつもの髪型じゃバレるし、一応変装ね。まあエーヴァちゃんいるから私はあんまり目立たないとは思うけど」


 尚美さんがエーヴァにウインクすると、エーヴァは「そんなことありませんわ」と言いながら可愛らしくお辞儀する。


 私がウインクしたときとはえらい違いだな、エーヴァさんよ。


「で、これで全員?」


「いえ、後宮西くんと、坂口さんが来る予定ですよ」


「へぇ~坂口さんも来るの? いつも仕事、仕事ばっかり言っているのに珍しいわね」


 驚く尚美さんのタイミングを見計らったように近付いてくる人影。


「悪かったな、仕事人間だよどーせ。つまんねえ人間だ」


 眠そうな顔の坂口さんが文句を言いながらやってくる。


「つまんない人間って自覚してるんだ。偉い!」


「否定しろよ! ったくお前のせいで久々の休日に出掛けるハメになったってのに」


「なになに? どういうこと? 詳しく教えて」


 ブチブチ愚痴る坂口さんの言葉を拾い、尚美さんが坂口さんの腕を引っ張り、揺らしながら尋ねている。


「お前が度々電話して、仕事場にも直撃しやがるからあの係長が「恋人とデートでもして息抜きするといいよー」とか言いやがて、休み取らされたんだぞ」


「あれ? それは私に感謝するところじゃない?」


「なにが感謝だ、お陰で職場で噂になるし、後輩が血の涙を流しながら文句言われんだぞ! しかも家にも来やがって、お前と話してからお袋は最近赤飯ばっかり炊きやがる!」


「もー、そんなに感謝しないでよ」


「してねえよ!」


 言い合う2人を見ている私の袖がクイックイッと引っ張られる。

 振り返るとニヤニヤした美心がこそこそと話し掛けてくる。


「ねえねえ、詩。あの2人仲良くない? なんか良い感じだよね」


「そう?」


「詩は鈍いなぁ~。絶対あの2人、お互い意識してるって」


「ふ~ん、そんなもんなの?」


 私がチラッとエーヴァを見ると、肩をすくめて「分かんねっ」って顔をする。

 スーを見るといつの間にか買っていた、いちご大福を幸せそうに頬張っている。口の周りには白い粉が満遍なくついている。


 そんな3人を見て「こいつらダメだ」って顔で深いため息をつく美心。


 そんな私たちのもとに走ってくるのは宮西くん。


「遅くなって、ごめん!」


 いつもの格好と違う、紺のスキニーパンツに襟つきの白のシャツ。いつものセンスと違う垢抜けた格好だ。よほどOSJへ行くのが楽しみなのだろう。その格好なら動きやすそうだしロボットの操縦もしやすいかもね。って、ん?


「え、えっと……鞘野さん。ど、どうしたのかな?」


 しどろもどろで、聞いてくる宮西くんを私はまじまじと見つめる。


「宮西くんその服、新品?」


「え、ああ、うんそうだけど、なんで?」


「襟にタグついてるよ。ちょっとまって」


 皆にバレると恥ずかしいだろうから、コッソリ教えて襟に手を突っ込んで、タグの糸をを引きちぎる。


「はい、取れた。今度から気をつけて」


 タグを渡すと、タグつきのまま服を着たのが恥ずかしかったのか、顔を真っ赤にして頷いている。

 その気持ち分かるっ! 私もたまに中学生のころよくやってたし。今は気をつけてるから、ないけどね。


 ただ、こっちを見てニヤニヤする美心にはタグがバレてしまったらしい。


 ドンマイだ、宮西くん。今度から気を付けるのだ!


「皆さん揃いましたので、ホームへ移動いたしましょう」


 アラさんが笑顔でパタパタと三角の赤い旗を振ってホームへと案内を開始する。あの旗、エーヴァに聞いたら自作したらしい。ここ最近、乗り降りの駅や、OSJの道順、オススメの乗り物や食べ物を調べてまとめてたらしい。

 そういうのが好きな人だから、然り気無くでいいからお礼を言ってもらえたら本人喜ぶからと、エーヴァからお願いされる。


 やっぱりできる人、アラさん! そして、エーヴァも優しいじゃん!


 因みに、シュナイダーはもちろん、おじいちゃんもお留守番。

 お土産に、私が今日着ている服を帰ってから脱ぎたてを欲しいと、安眠するため匂いを嗅ぎたいと要求してきたシュナイダーは帰ったら永眠させようと思う。


 そんなことを思いながら、私たちはOSJへ向け出発することになるのだった。








  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る