変身、変身、変身!

第141話:お嬢様のお誘い

 エーヴァとアラさんをリビングに案内してお茶を出すと、アラさんがペコリとお辞儀をして美味しそうにお茶を飲んでいる。

 何でも私のママにススメで最近緑茶にハマっているらしい。


 因みにアラさんは私のママに時々会っていて、料理を習っているので仲がいい。

 お嬢様に美味しい料理を作りたいと言って、エーヴァが私に頼みママに紹介したのだ。


 愛されているねエーヴァ!


 私がウインクすると、ママとアラさんに見えない角度でエーヴァから「ヘッ」て嘲笑われる。


 くそぉムカつく!


「エーヴァちゃんいつも、うちの詩と仲良くしてくれてありがとう」


「いいえ、わたくしの方が詩さんにお世話になっていますわ。見知らぬ土地である日本で優しくしてくださる優しい詩さんと、優しく綺麗なお母様とこうして出会えたことに感謝していますの」


 ママがお礼を言うと、エーヴァは、上品に謙遜しつつ、私とママを誉める。ママは「まあまあ」と言いつつ、私をチラッと見る。


 その目は、「詩、エーヴァちゃんを見習いなさい。あなたガサツなのよ。それにいつもパパに甘えてから。

 この間また新しい靴を買ってもらったでしょ。そうそう、それからまたケーキ買ってもらい過ぎ! それに……」と恐ろしい勢いで文句を言ってくるので目を反らす。


 エーヴァが私だけに見えるように口を手で隠し「フッ」と笑う。


 ぐぬぬっ、文句を言いたい、言いたいがここで言うと私が不利になるだけだ。戦況は冷静に見極めなければ。


「今日お伺いしたのは詩さんをお誘いにきたのですわ。アラ、お願いしますわ」


 そう言ってエーヴァがアラさんに取り出してもらったのは、『OSJ』と書かれたチケット複数枚!?

これはそのまま『オー・エス・ジェイ』と読む。『オリジナル・スゴイ・ジャパン』の略であり、最近隣の県にオープンした遊園地なのである。


 アメリカの映画に対抗した、日本独自の特撮、ゲームをもとに作られた遊園地なのだが、うん、まあカブってるよね。プールの中から鮫が飛び出すのとかもうね……。


 でも基本のアトラクションはしっかり押さえ、クオリティーも高いから、家族連れやカップルの評価も高いのだ。私も一度行ってみたいとテレビの特集見ながら思っていたのだ!


「そのチケットどうしたの? しかもそんなにたくさん」


「クルバトフ家の今後の事業計画の一つに、エンターテイメント事業への進出がありますの。これはいわゆる視察の一貫として、そして日頃お世話になっているお友だちへのお礼として、お父様に頼んで手配してもらったものですわ」


 おおっ!? エーヴァが、なんだかお嬢様みたいなこと言い出した。時間は人を変えるっていうけど、転生したらあのガサツなイリーナもこんなになるんだ。


 あれ? 私あんま変わってなくない?


「それで、詩さん。OSJへご招待したいのですが、お受けしていただけませんかしら?」


「もちろん行くっ! お受けいたしますわですのです!」


 興奮する私を、ママが乾いた笑いをして見ている。


「それでは、他にもお誘いしたい方々がいるので、声を掛けるのをお手伝いして欲しいのですわ」


「任せてよ! お手伝いいたしますわ!」


 遊園地に行きたい私はテンション高く答えるのだ。



 * * *



「ってことがお昼にあってね。今度OSJに行くんだ」


「へえ~、パパも行ってみたいな。あのロボットブースで、アニメを忠実に再現したコックピットで操縦する、白兵戦でのロボット同士の格闘バトルとか興味あるんだよね」


 夕食のときパパに、エーヴァが来たこと、OSJに誘われて今度行くことを話すと、行きたい場所があるらしく目を輝かせ、テンション高く語り始める。


「ああそれ、なんか宮西くんも言ってたね。なんか沢山あるレバーとかボタンとか操縦して敵を倒すんでしょ。男の子はそういうの好きだよね」


「え!?」


 突然パパが1オクターブ高い声で驚くので、食卓に静寂が訪れてしまう。


「男の子?」


 なぜか震えるパパが下を向いたまま呟く。


「ん? 宮西くんのこと?」


「詩、その宮西くんとやらとは、どういう関係なのかな?」


「関係? クラスメイトだけど」


「そ、そうか。ま、まあまだ恋愛がどうとかは早いものな。うん、うん、パパの早とちりかぁ、ははっ」


 パパが一人で額の汗を拭いながら、うんうんと頷き、恋愛がどうとかぼそぼそ言っている。


「恋愛って言えばさ、この間、学校の先輩から告白されたんだよね。それでさ──」


 バタン!


 パパがひっくり返る。


「う、詩! それ以上はダメ。パパ死んじゃう」


「えっ! えええっ!? ど、どういうこと??」


 ママに支えられるパパは、首をガクガクさせながら、半笑いで「うた、いかないでくれぇ~。パパを置いていかないで~」と呟いている。


 普通の会話していただけなのになぜこうなる? 


 魂が抜けてガクガク体を揺らすパパを取りあえず座らせ、それっぽい格好にして、食事を再開する。


「詩、遊園地楽しみなところ水をさして悪いんだけど、近頃物騒じゃない?」


「ん? ああそうだね。事件事故多いもんね」


 私がサラダをモグモグしながら見つめると、ママがふぅ~とため息をつく。


「最近の詩、運悪いじゃない? 何て言うか、出かける度に事件の煽りで、交通規制や、避難指示に捲き込まれ夜遅く帰ってくるじゃない?」


「う、うん。そうだね……」


 まさか混乱の第一線にて戦っている本人とは言える訳もなく、あくまでも混乱の煽りを受けて帰れなくなったのだと伝えている。


「アラさんにも聞いたんだけど、エーヴァちゃんも最近遅く帰るんだって」


「ふーん」


「美心ちゃんも出掛ける頻度が多くなって遅くなることも増えたってママが言ってた。

それにおじいちゃんもよく詩と一緒に「遅くなったすまない」ってくるじゃない? 

 更に、シュナイダーもよくいなくなってるのよね」


 ま、まずい……これは何か疑われている。

 黙る私をじっと見つめるママとの間に緊迫した空気が走る。


「まあ、ママは詩が悪いことしてるなんて思ってないけど。

 昔から嘘が下手な詩が、罪悪感を覗かせながら話してくれないことってなにかなって思っただけ」


「うぅっ……」


 前世の記憶があるとはいえ、両親と一緒に過ごした時間が短かった私は、ママが時々見せる鋭さに驚かされてしまう。


 なんて言えばいいか困る私にママは静かに語りかける。


「ママは信じてるから、いつかちゃんと詩から話してほしいな」


「う、うん」


 小さく頷く私にママは優しく笑った後に、フッともう一度笑う。


「さっきの告白の話、やっぱり聞きたいな。教えてよ」


「えっ!? 良いの? パパ死んじゃうって」


「少しは娘離れする練習をしとかないとね」


 悪戯っぽく笑いながら、パパを見るママは楽しそうだ。

 この光景を守るためなら頑張れる気がする。


 そしていつか私のことも言わないといけないのかも、そんな葛藤を抱えつつ夕食を過ごすのだった。

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