第139話:牽制し合うものたち

 私とスー、白雪が黒い蜘蛛のウーラーが戦う最中感じた気配に皆が同じ方向を向く。

 注目する中、体育館の2階の窓が割れ2つの大きな塊が落ちてくる。


 キラキラと降り注ぐガラスの破片を掻き分けて落ちた来た塊は、床にぶつかると素早く2つに別れると、半時計回りに回りながら、互いが牙を見せながら唸って威嚇し合うのは、シュナイダーと虎。


 先に仕掛けるのは虎の方。肩が盛り上がり筋肉を躍動させしなやかに、そして大胆に飛び掛かる。

 それを獣であって獣でないシュナイダーは、この世の法則を無視して空気を蹴ると、真横に飛び退き避けると、宙を駆け背中の上から首筋に噛みつこうとする。


 虎は体を捻って、柔軟さを見せて避けると、シュナイダーの牙が空を切る。

 前足を床につくシュナイダーが尻尾に風を纏い縦に一回転して、噛みつこうとする虎の顔面を切り裂こうとするが、鋭い牙に遮られる。


 シュナイダーが風を激しく纏い、毛並みを揺らしながら床に爪を立て走り始めると、虎も爪で床を傷付けながらシュナイダーを追いかけ走り始める。


 2匹が走ると足長蜘蛛がバラバラになりながら散っていく。


 シュナイダーたちの動きに注意しながらウーラーと向かい合う私たちだが、ウーラーの方は虎の方が気になるようで、背中にいる足長蜘蛛たちが糸をまき周囲に張り巡らせ始める。


 糸の間を潜るシュナイダーと虎だが、僅かに足に絡まった糸に苛立ちを覚えたのか、虎が低く唸ると辺りの足長蜘蛛たちを太い腕で払ってバラバラに吹き飛ばす。


 その隙を狙ったシュナイダーの風を纏った爪が振り下ろされると、避け損ねた虎の左肩から血が流れ出す。

 そこにウーラーが壁につけた糸を引き寄せ虎に牙を向ける。


 虎は姿勢を低くして、突っ込んでくるウーラーの顎下に頭を入れ頭突きでカチ上げる。ひっくり返るウーラーを襲うスーの蹴りと白雪の爪が大量の足長蜘蛛によって阻まれる。


 私が放つ『槍』の穂先が虎の爪に当たると、シュナイダーが反対側から虎の横っ面を蹴る。

 そこに牙を剥き出し地面を這うウーラーの突進を、私らは見送り向かわせる。

 蜘蛛の顔面を抑えつけ噛みつかれまいと、踏ん張る虎に私とシュナイダーが、抑えつけられたウーラーの方にスーと白雪が一斉に攻撃を仕掛ける。


 虎が唸る。


 その瞬間、太い尻尾が振られると先端が糸を引きながら割れ口が生まれる。先端に目が現れ大きく伸びて蛇となったそれは、私とシュナイダーを振り払う。

 とっさにガードはしたが、大きく飛ばされた私とシュナイダーは壁に叩きつけられる。


 反対方向ではウーラーの背から生えたきた、1本の長く太い猿の腕がスーを掴むと振り回し投げられる。それを白雪がとっさに宙で受け止めるが、一緒に吹き飛ばされ壁に激突する。


「いたぁっ~、シュナイダー大丈夫?」


「問題ない」


 私が立ち上がると、シュナイダーも立ち上がり、身をブルブルと震わせ埃を振り払う。

 向かい側でもスーと白雪が立ち上がるのが見える。皆が無事なのは確認できた。


 問題なのは目の前にいる2匹。


 ウーラーが、背中から生えてきた腕で虎の頭を掴み、持ち上げると床に叩き付ける。

 そのまま背中の卵から這い出てきた、足長蜘蛛たちが虎に覆い被さっていく。


 足長蜘蛛を虎柄の蛇が凪ぎ払い、ときに噛み砕いて蹴散らしていく。

 2匹の争いを私たちは見守っているわけだが、なんとなく見えてきたものがある。


 更に宇宙人同士の関係と能力を探る為、攻撃を止め観察に徹する。


 ウーラーと虎が互いに牙を剥き出し、牽制し合う。虎の振るう爪を足長蜘蛛が、身を呈して受け止め、虎の手にバラバラになった体を絡めて虎の動きを制限していく。


 ただ、さっき戦っていたときと違うのは、足長蜘蛛を潰したとき、緑色の粘液が派手に飛び出すようになっていて、虎の腕や体に粘液がバラバラになった体と絡み付き虎を苦しめていく。


「自らを犠牲にして敵を拘束していくとか、どういう生き物よ」


「あいつの背中の卵の数減ってないぞ。普通の孵化とは、そもそもの仕組みが違うのかもな」


 隣にいるシュナイダーの言葉で、私はウーラーの背中に視線を移す。

 確かに黄色がかった透明の卵の上部が割れて、這い出てくる足長蜘蛛が虎に向かう。


 その後卵の殻が抜け落ち、下から新たな卵が生えてくる。そしてすぐに中では黒い塊が浮き出てきて、だんだん大きくなる。


「気持ち悪っ」


「確かにそうだが、あの卵を攻略しないとあいつは倒せないぞ」


 私の率直な感想に、シュナイダーが頷きながらも、まともな意見を言ってくる。

 ちょっと驚く私の目の前で、虎が蛇になった尻尾を大きく振るうと蜘蛛がバラバラに切れる。よく見ると、蛇の両サイドからカマキリの鎌が生えて足長蜘蛛を一刀両断する。


 その鋭い切れ味で切り裂き、粘液が飛び散る前に軽やかに素早く移動をしていく虎。太い腕を大きく振るい手についた蜘蛛を散らしながらウーラーの足を1本飛ばす。


 更に踏み込む虎の目の前に、穴から這い出てきた蜘蛛が2匹立ちふさがるが、虎の牙がその蜘蛛を捉えると腹を食い破り、寄生体を咥えると死体をウーラーへ向かって蹴って、もう1匹を前足で踏みつけ頭を潰すと背中から食いつき寄生体を引きずり出し飲み込む。


 大体の目的が見えてきた私とシュナイダーが構える、がそれ以上に早く動いたのは白雪を背負ったスー。

 青白い線の残像を残し動くスピードを見せるスーが、足長蜘蛛の群れを砕かずに手で払い掻き分け進むと、ウーラーの足に拳を数発打ち込む。


 足が弾け崩れるウーラーに追撃するスーを止めるべく、襲ってくる蜘蛛を蹴ると青白い光が体を突き抜け破裂する。


 ウーラーは背中から足長蜘蛛を大量に放ち姿を眩まし、虎はその攻撃を見てスーに狙いを定めたのか跳躍し飛びかかる。


「させるかっての!」


『刀』の朧で虎を斬ろうするが口で受け止められる。そこを上から炎の刃となったシュナイダーが真下に駆ける。

 朧を離し、シュナイダーを避ける虎に、床を青白い足跡が焼きながら進み、向かってきたスーに尻尾の蛇が伸びてきて鎌を振るう。


 それを白雪の鋭い爪が受け止めると、スーの掌底が蛇の頭を青白い閃光が吹き飛ばす。


 尻尾から血をまく虎が、大きく跳ねて1階の窓を突き破り、逃げていく。

 そのときにはウーラーの姿はなく他の蜘蛛も消えていた。体液が穴の方に伸びていることから、おそらく穴から逃げたのだろう。


「スー大丈夫?」


「ちょっとキツいのです……」


 ぐったりするスーを背負うと体育館から出る。白雪をのせたシュナイダーと私に向かって、エーヴァを追い抜き走ってくる美心が私の体をペタペタ触ってくる。


「詩大丈夫? 怪我してない?」


「大丈夫だよ。とりあえず帰ろっか。かなり遅くなったけどね」


 半目の眠そうな子供たちと、心配する美心を連れて帰り、この長い1日を無事終えることとなる。

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