第138話:ウーラー

 体育館の2階ギャラリーから1階のコートへ降りた私たちを迎えてくれる卵を背負った蜘蛛。


「覚悟するのです恶心死了ウーシィンスーラー──」


【そうよ覚悟するのよ! ウーラー♪】


 白雪が、スーの言葉を遮ったこの瞬間、黒い蜘蛛の呼び名はウーラーに決まる。


「なんでいつもスーの言葉を遮るのです! 『死ぬほど気持ち悪いウーシィンスーラ』と名付けようとしたのになんなのです!」


【スー、集中、集中よ☆】


 怒るスーと、それを宥める白雪だが、そのまま蜘蛛の群れに突っ込んでいくと卵から生まれた足の長い蜘蛛を相手に戦闘を開始する。


 スーと白雪、2人の戦い方ってなんか賑やかだな、とか思いながら私も朧を分割し刀に変化させ参戦する。


 目の前にいるウーラーは、黒い体と足によく見ると白い毛が生えており、他の蜘蛛より大きく3メートルほどあり、8つの目は赤く光っている。形状的には巣を張って獲物をとらえる蜘蛛というより、タランチュラっぽいような姿をしている。

 そして、なによりの特徴は背中にびっしり背負っている卵の存在だろう。卵の中でうごめく蜘蛛の形をしたものが見える。


 敵を知る為に観察したが、やっぱり気持ち悪い……


 朧で凪ぎ払うと、足の長い蜘蛛は脆く崩れていく。手応えはないけど数が多く、死骸の長い足が武器に絡みついていく。

 それを狙ってなのか、ウーラーは死骸を振り払う私に向かって太く長い足を振り下ろしてくる。

 切れ味の悪い朧で受け流し避けていく。


 射程の短いスーの攻撃は蜘蛛の長い足に阻まれ、本体に届きにくい。だがそれを、白雪が硬い体で強引に蜘蛛の攻撃を受け、ガードした腕を広げ隙をつくったところをスーの攻撃が蜘蛛の体に魔力を通し破壊する。

 青白い光が、蜘蛛の体から吹き出ると沈黙していく。


「スー! 私が後ろに回るから前衛任せた! 白雪はそのままサポートお願い」


「おっけーなのです!」 

【任されたのよん♪】


 2人の返事を聞いて私はウーラーから大きく離れ、朧にまとわりつく死骸を振り払い、2本の刀にしていた朧を1本にし、内蔵されているワイヤーを引っ張り出し『弓』を描き変化させる。


『矢』宙に描き風の矢を生み出すと、弓につがえ地面を滑って移動しながら矢を放っていく。

 風渦巻く矢は長い足の蜘蛛数匹を突き抜け、ウーラーを襲う。


 矢を難なく避けるウーラーに、白雪の爪が振り下ろされるが、足で受け止めてしまう。

 その受け止めた足の下を青白い光が潜っていくと、上に向かって放たれる青白い光だが、それを8本の足で床を蹴って、跳ね上がりギリギリで避けるウーラー。


 宙に浮くウーラーに向かって、目映い光を放ちながら、私が放った雷の矢が3本飛んでいく。

 ここまで微動だにせず、穴に待機していた蜘蛛が突然跳び跳ねると、ウーラーを守るように身を呈して雷の矢をその身に受ける。


 弾け、空気を切り裂く電流が走り、火花が降ってくる。雷の矢を受け焦げた蜘蛛と、ボロボロに崩れていく足長蜘蛛の残骸が宙から落ちてくるその後ろから姿を現すウーラー。


【いくのよ!】


「任せるのです!」


 白雪がバレーのトスの要領で、スーを上空へ打ち上げると右手に溜めた青白い光が昇っていく。

 宙に浮くウーラーの背中にある卵から糸が飛び出てくると、天井へ伸び貼り付きウーラーの体を引っ張る。


 スーの攻撃がウーラーの足の先をかすめ足の一部がちぎれる。


「避けられたのです!?」


 寸前で避けたウーラーの背中にいる数匹の足長蜘蛛が糸を放ち、ウーラーは空中で反転すると、今度は宙に残されたスーに襲いかかる。


「させるか!」


 私の放つ5本の火の矢が飛んでいき、ウーラーに当たり炎が舞い上がる。

 その隙にスーは下へ向かって落ち、白雪がキャッチする。


 空中でバチバチと燃える音が響き、バラバラと燃えカスが落ちていく。


 その後ろで赤い目が光る。


「あの足長蜘蛛に塞がれちゃったか」


「攻撃にも、防御にも使う背中の蜘蛛が厄介なのです」


 天井に張り付いたウーラーが背中からバラバラと足長蜘蛛を振り撒いてくる。

 長い足を大きく広げ、空気の抵抗を受けゆっくり落ちてくる足長蜘蛛を振り払う私とスー。


 無限に降ってくるんじゃないかと思わされくらい、降り注ぐ足長蜘蛛にうっとうしさを感じながら、上を見るとウーラーの姿が足長蜘蛛に隠れ見えない。


【スー! うたっち! 避けて!!】


 突然白雪が叫び、足長蜘蛛を押し退けスーを掴んで、私の方へ投げてくる。スーを受け止める私は反動で立っていた場所からずらされる。


 次の瞬間、空中をふわふわと落ちる足長蜘蛛を切り裂きながら高速で落下してくるウーラーは口を大きく開き、牙を白雪の腕に突き立てる。


【アルマジロじゃなかったら引きちぎられてるのよぉっ……って、ちょっと、きつっ、重っ!】


 落下してきたウーラーを右腕で受け止め、重さで足が震える白雪。耐える白雪に向かおうとする私とスーだが、上から降ってくる足長蜘蛛に邪魔される。


【秒……いける。あんまり魔力ないからちょっとだけ? 身を引く、力に逆らわないね】


 ぶつぶつ何かを言う白雪の魔力が一瞬はね上がる。


 噛まれたままの右腕ごと体で包み込むよう体を丸め、ウーラーの体重を横へ逃がし腕ごと抱えたウーラーを床に叩きつける。


 そのまま左腕の爪をウーラーの顔面に突き立てようとするが、ウーラーは白雪の腕から牙を離して背中から糸を出し、壁に付けると体を引っ張り逃げる。

 白雪は深追いはせず後ろに大きく下がって距離を取る。


「白雪! 大丈夫なのです!?」


 駆け寄るスーに腕を見せる白雪。


【腕に穴空いちゃった☆】


「あ、穴がぁぁ!? じゅ、重傷なのです! し、止血を! あれ? 血がない。どどどどどどうすればいいのです。痛い? あ、安静にするのです!」


【スー落ち着いて、それより充電してほしいのよ。瞬間的に魔力使いすぎたのよ】


 おろおろするスーと、穴が空いても平気そうな白雪は、スーに覆い被さり充電を開始している。


 ウーラーも自身の周りに蜘蛛を配置しながら次なる一手を思考しているようだ。


 互いに出方を見計らう私たち。


 睨み合うこの戦況を、大きく変える予感を感じさせるシュナイダーの大きく立ち上る魔力。

 ウーラーも私たちと同じ方向に体を向ける。

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