第137話:黒い蜘蛛
私とエーヴァは3階の窓から出て、壁を滑りながら下に降りると体育館の方へ向かう。
さっき、シュナイダーとスーの魔力が一瞬大きくなった後、今は小規模だが、連続して波打つように魔力が流れているのを感じる。
2人だけなら問題ないだろうが、美心と子供たちが心配なので私の足は自然と速くなる。
近付くにつれ、魔力もそうだが、音も大きくなっていく。
私は朧を、エーヴァがミローディアを構え、襲いかかってくるものを振り払う。
軽い感触と共に無数の細い足がバラバラに飛び散る。
「おぉ!? なんか足が長くて細いのきた! 種類が違うのかな?」
「喜んでる場合か、弱いが、数が多いぞ!!」
「喜んでなんかないって!」
足が長く薄い茶色の蜘蛛の集団を振り払っていく。こいつらは全体的に細く、手足が脆い。お陰で軽く倒せるのだが、ワラワラ湧いてくるので非常にうっとうしい。
蜘蛛を蹴散らし進むと体育館が見えてくる。それと同時に、蜘蛛の集団を前方で倒すスーと、なんか灰色で丸っこい生物。
後方で校舎を守るように戦うシュナイダーの姿が見える。シュナイダーの方へ向かうと、壁を背にして、美心と子供たちの姿があった。
「美心大丈夫? 子供たちは? 怪我してない? シュナイダーに変なことされてない?」
「大丈夫! 子供たちも無事だよ。詩も大丈夫?」
美心の後ろからヒョッコリ顔を出す子供たち。みんな元気そうで何よりだ。
「酷い言われようだな。まだ何もしていないぞ」
美心と子供たちを心配する私の後ろで、私の発言に憤慨するシュナイダー。
「まだってのが気になるけど、助かった。ありがとう。で、今どんな状況?」
シュナイダーがフンっと鼻息を鳴らすと、説明してくれる。
「スーが、ジィータンなる蜘蛛を倒したところで、あの建物の中からワラワラと、この蜘蛛が湧いてきた。
おそらくあの中に発生源があると思うんだが、何せスーとしら子、オレでは守りで手一杯でな」
シュナイダーが見る体育館の崩壊した壁から這い出てくる、蜘蛛を睨む。
さっきからシュナイダーが、ジィータンとかしら子と言っているのが気になるけど、今は関係なさそうなので置いておいて。
「エーヴァ、美心をお願い。シュナイダー中盤を、私とスーと白雪で体育館の中に入る。
中の状況によっては前、後方で入れ換えるからよろしく」
エーヴァが美心たちの前に立ち、私はシュナイダーと一緒に中盤まで上がる。
「スー、と……白雪?」
蜘蛛を蹴り飛ばすスーと、鋭い爪で切り裂く灰色のぬいぐるみに声を掛ける。
【そうよ、白雪よん♪ アルマジロ姿も可愛いでしょ!】
「あ、うん。似合ってる? かな」
体をくねくねするアルマジロに、間違いなく白雪であるとことを確信する。
「スー、白雪、体育館の中に入って、状況探りたいから来てくれる?」
「了解なのです」
【おっけーなのよっ!】
シュナイダーにこの場を任せ、スーと白雪と3人で体育館の外壁に向かう。数匹の蜘蛛を払い壁を駆け上ると上部の窓ガラス突き破り、ギャラリーへと飛び降りる。
上から1階のコートを覗くと中央に人が2、3人ほど通れそうな穴が空いており、そこから数匹の蜘蛛が顔を覗かせている。そしてその前に大きな黒い蜘蛛が鎮座している。
蜘蛛の背中には……卵だろうか。びっしりと敷き詰められた卵の中にうごめく手足と、目玉が見える。
あんま直視したくない。
「スー、あれ、気持ち悪くない?」
私が黒い蜘蛛を指差す。
「うた、あんまり言わないで欲しいのです。なるべく見ないようにしてるのです」
嫌そうな顔をして、薄目で蜘蛛を見るスーに癒しを感じる私の横で、私を見てうんうんと頷くアルマジロ。
「前世であんまり話さなかったけど、マティアスってそんな感じだったんだね。
なんか意外だな。クールな感じで、何事にも動じない人かと思ってた」
「そ、そんな感じに見えていたのですか? 虫とか大丈夫なのですけど、ああいう集合体は苦手なのです」
薄目のまま私を見るスー。私もああいう集合体は苦手だからスーの気持ちがよく分かる。トライポフォビアとか言うんだっけ?
直視すると、体の中からゾワゾワして、鳥肌がたってくる。
私も薄目で見ていると、背中の卵が数個割れ、足の長い蜘蛛が折り畳んであった足を伸ばし、黒い蜘蛛の背中から体育館のコートへと降りてカサカサ歩き始める。
き、気持ち悪い……
「さてと、どうしますかね。私としてはとっとと駆除したいんだけど」
「あいつを倒せば終わりならいいのですけど。後ろの穴も塞いだ方がいいと思うのです」
「どうなんだろ? あいつらが穴を掘って進むなら、塞いでも一緒じゃない?」
「むぅ、確かにそうなのです。ではあいつを倒すことに専念するのです」
「んじゃあ、いきますか」
私とスー、白雪はギャラリーから飛び降り、黒い蜘蛛の前に立つ。
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