第136話:罠を張る者
フルートを唇にあて演奏を始める。音にのせられた魔力の振動は、その振動に膜を張り閉じ込める。
五線譜が浮かび上がりシャボン玉のようにふわふわと宙に漂い、譜面の並びに沿って魔力の玉も並んでいく。
エーヴァが演奏をした時点で、一次のブーストが掛かっている。演奏をし終了後、
これで二次ブーストの演奏中に、攻撃力、スピード共に上昇していくのだが、さらに音階の高さによって、破壊力重視か、鋭さ重視かを選択できる。今回の曲目は軽快に高めの音を奏でる。
「そんじゃあぁいくぜえ!」
教室の後ろの壁に向かって、机や椅子の足だった先端の尖った鉄の筒を、次々と投げ突き刺し、大きな円を描いていく。
シンバルを手に持つと、大胆かつ、繊細にうち鳴らす。
さざ波のような音は、魔力をのせ突き刺さっているパイプを震わせると、パイプを中心に2回りほどの穴が空き、それは亀裂を起こし他の穴と線を繋げ、円を作ると壁を倒壊させる。
続いて廊下側にある窓に向かって鉄の筒を投げると、それらはガラスを突き破り、廊下の壁や床に突き刺さる。
そのまま隣の教室と繋がった穴から移動し、カマキリグモの真横へと移動すると、ミローディアを振り机や椅子の足を切って、鉄の筒を増やすと、廊下側の壁、無数の足で支えているであろう壁に突き刺していく。
窓を破りカマキリグモに向かっていく、鉄の筒は無数の足に阻まれ叩き落とされ、廊下に転がる。
窓越しにエーヴァを覗くカマキリグモを見て、ニヤリと笑うエーヴァは再び、元の教室へ戻ってシンバルを手に取ると、
縦横無尽に突き刺さった、鉄の筒は振動し教室2つの壁を倒壊させ、床や天井は厚みがある分倒壊はせず、表面が破壊され飛び散る。
突然倒壊した壁に左半身の足がちぎれバランスを崩し、天井や床、刺さらずに床に転がった筒などが弾け、カマキリグモへ破片の礫を降らせる。
「させねえ!」
廊下に飛び出たエーヴァが、左半身に向かって鉄の筒を投げると、シンバルを鳴らし宙で震わせ、足の再生を阻止する。
「ちっ、あんまやると硬化しちまうからな、ほどほどにとな」
左半身に集中する、カマキリグモの頭上で鉄の筒を振動させ、天井を破壊する。
注意散漫になるその隙に、素早く踏み込み、ミローディアを振るう。
その動きに反応したカマキリグモが足を伸ばしエーヴァを捕らえようとするが、無数の足は切断され、辺りに飛び散る。
「演奏序盤とはいえ反応するか。まあいい、こいよ! こんな崩落しそうなところに、引っ付いてる場合じゃねえだろ?」
エーヴァが投げる鉄の筒が震えると、天井や壁が弾け、内部の鉄骨が姿を現す。
ボロボロになった廊下に危機を感じたのか、カマキリグモは足の再生を行いながら、歩みを前に進める。
「わたくし追いかけられるより、追いかける方が得意ですのよ。でも折角追われるのですもの、楽しませてほしいですわ」
クスリと笑って、鉄の筒を投げ宙で弾けさせると、軽やかに走って3階へ向かって逃げる、いや追い込む。
* * *
下の階が揺れる。エーヴァ建物倒壊させるんじゃ? そんなことを考えさせられるくらいの振動が伝わってくる。
3階の教室に1つだけある机に座って腕を組んでエーヴァの様子を探る。
「アイツにシンバル渡したの失敗したかな? ま、倒してくれたらそれでいいんだけど」
エーヴァの魔力が一瞬大きく膨らみ、移動を始める。
「きたっ!」
私は机から飛びはね立つと廊下に出る。廊下はびしゃびしゃに濡れていて水を散らしながら走るエーヴァが見える。
「びしゃびしゃっても限度があるだろ! 服が濡れるだろ!」
水しぶきをバシャバシャと上げ、服を濡らし怒りながら走ってくるお嬢様、なんとも絵になる光景だ。
私はうんうんと頷きながらその姿を目に焼き付けておく。
「さぁ~て、やっちゃおうっか!」
私の横をエーヴァが走り抜けると、朧を濡れた床につける。
水は3階全体に私が撒いて濡らしてある。床だけでなく天井も壁もびしゃびしゃだ。そして血も撒いてある。
「密閉空間と、水辺で力を更に発揮する、詩さんを嘗んなよ!」
水に混ざった血が私の魔力を伝え遠くの魔方陣を発動させる。これは途中にある魔方陣を発動させないよう、細かなコントロールのもと行われる。
廊下いっぱいに大きく描いた『風』が次々に光ると、風は魔方陣の円の中心に向かって鋭利に吹き、向かってくるカマキリグモを輪切りにせんとする。
足を切り飛ばし、胴体に傷をつけるが、切ったそばから足を生やし、向かってくる。胴体に傷は入るが深くないのは、体が堅く強化されているってことだろう。
私は魔力をカマキリグモと反対方向に流すと、教室へと逃げ込む。
それと同時に『
床に描いた無数の『鎖』を発動させると、無数の水の鎖が宙に向かって伸び、宙に書いてある『鎖』を経由し、長く成長していく。それらは窓を突き破り廊下にいるカマキリグモに絡み付く。
足の再生が間に合っていないせいで、水の鎖を払い除けれずに巻き付かれ、もがくカマキリグモに更に追加されていく鎖が、私のいる教室に向かって引っ張っていく。
カマキリグモの足元で大きな『流』の文字が光ると、教室に向かって水が流れ始め、踏ん張る足を滑らせ引っ張る。あらかじめ、上下を切って脆くしていた壁は衝撃が加わるとすぐに壊れ、カマキリグモは教室の中心に引きずられてくる。
なかに入って更に追加される鎖が、身動きを封じていく。私は床の水に魔力を流し、外側の窓枠に立つと、上から垂れているビニール紐に手を掛ける。
床に『雷』の漢字が光り、カマキリグモを電撃が襲う。そして私は手にした紐を、手の甲に描いた『火』で燃やし、天井に紐で輪を作り、ガムテープで留めてぶら下がっている穂先を切り柄だけになったホウキを一斉に落とす。
各ホウキの下にある『刃』で風の刃を纏い、『鋭』で鋭くなり、『速』で落下スピードを上げカマキリグモに突き刺さっていく。
無数のホウキを体中に刺し、針ネズミのようになったカマキリグモ。
「そんじゃあ、さよならだねっ!」
パチンと右手で指を鳴らす。
実は指を鳴らすことに意味はない。左手に持つ朧から伝わる魔力は水を伝い、1本のホウキに触れるとそれは隣のホウキに伝い、ホウキに描いてある『雷』『擊』の漢字を光らせ、ペアになったものから『雷撃』を生み出し、電流はカマキリグモの体を駆け巡り、突き破って外へ放出される。
何発も内部から弾ける雷撃が止まったとき、原型を留めていない塊たちが水浸しの床に転がる。
「エグいな」
「あんたに言われたくないわ」
途中から隣の窓に立って、見学していたエーヴァがポツリと一言呟き、それについ反応してしまう。
「それよりも早く、次行くよ」
「だな、とっとと終わらせようぜ」
私たちは、シュナイダーとスーが戦っている方向へ向かって行くのだった。
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