第135話:下準備
カマキリグモの不穏な空気を察知し、教室に飛び込んだ私とエーヴァ。
直後、ドスドスっと音がした廊下を覗くと、長さ1メートルもないくらいの、緑色の先端が尖った針が刺さっていた。
「んだぁ? あいつの足かこれ?」
私が廊下をソッと覗くと、カマキリグモは枝分かれした足を、他の足を2本使って摘まんで、ちぎると器用に投げてくる。
「おわっと」
私は首を引っ込め避けると、近くにカマキリグモの足が突き刺さる。
「自らの足をちぎって投げるとか、とんでも生物じゃん」
「出来ても真似したくねえな。にしても詩、お前もっと狭いところで敵を罠に嵌めるの得意だったろ? 風とかでもいいけどよ、もっとこう建物を変形させて攻撃してただろ?」
「あぁ~、それね。私も出来なくて困ってるんだ。狭いとこに誘き寄せて串刺しにしたり、建物崩壊させて生き埋めに、なんて戦い方が出来ないんだよね」
エーヴァが言っているのは前世で私が得意としていた、密封空間での攻撃のこと。
壁や床、天井に魔方陣を描き発動させることで、空中に描くより早く、激しく360度攻撃が出来るのだけど、現世においては壁に漢字を描いても、何も発動しないのだ。
ただ、アスファルトの道路に描いても変化はないけど、土の上なら変化する。
と、まあ、ここで出来ないことを考えてもどうしようもない。出来ることをやろう。
幸い、カマキリグモはこっちを警戒してか、廊下で様子を伺っているようだし、時間を使わせてもらおう。
教室の中を見回し、隅にあるロッカーに向かうと、扉を開ける。
ホウキと塵取り、汚い雑巾が数枚。
続いて先生の机を漁ると、エーヴァがガムテープとビニール紐を見付けてくる。
「机は吊れないか……エーヴァ、私先に上に行って準備するから、合図したらカマキリグモ上に連れてきてよ」
「カマキリグモ? なんだその安直なネーミングは。それよりも連れてこいって、あたしに囮になれってことか?」
「そそ、可愛く、『わたくしを捕まえてごめん遊ばせですわ』っとか言えば来てくれるって」
「おまえバカにしてんだろ、言葉遣いってな、大事なんだぞ……」
そう言うと、神妙な面持ちにで遠くを見るエーヴァ。聞いてはいけない過去が彼女にあるような気がする。
だが、すぐにミローディアを肩に担いで手をヒラヒラさせる。
「罠作るんだろ? とっとと行ってこいよ。どうにか引き付けてやるからよ」
「流石エーヴァ! 頼りにしてるよっ!」
それだけ言って私はホウキと、紐などを持って教室の窓から飛び出ると、僅かな凹凸に足を掛け壁づたいに3階へと向かう。
窓ガラスを破って3階の教室に侵入した私は、いそいそと罠を作る準備に取り掛かる。
* * *
エーヴァは気付かれないように、そーっと顔だけ出して廊下を覗く。
カマキリグモは、ろくろ首のように長い首についた三角の頭を振って、周囲を見渡している。
何本もある長い足を廊下いっぱいに伸ばし、体を支えている。枝状に分かれた足は5本程度で、いつでもちぎり易いようになのか、地面や壁には付けず、近くにある他の足が枝分かれした部分を摘まんでいる。
「移動できねえってことはねえわけだ。後はどうやっておびき寄せるかだが」
一瞬、詩の言った「わたくしを捕まえてごめん遊ばせですわ」が思い浮かぶが、首を振って否定する。
「ようは動かざる得ない状況にすればいいわけだろ」
教室の壁を叩いて音を確認すると、太ももに装備してある鉄板を一枚抜き、魔力を込め投げて近くの床に突き立てる。
突き刺さる音に反応したカマキリグモが、自分の枝分かれした足をちぎり鉄板に向かって投げてくる。
それに合わせ、フルートで低いドを奏でる。鉄板が共鳴し針の起動が僅かに反れる。
「ちぎって投げるまでのラグ、そこから再生する時間……再生する方が遅いか。後は武器の調達と、もう少し低く大きな音が欲しいな」
エーヴァは教室でミローディアを構え大きく振り回して、机や椅子の鉄で出来た足を切り裂いていく。
床に転がっていく筒状の鉄の足は、斜めに切られ鋭利な断面になっている。それを拾っていくと魔力を込めていく。
「やっほ、こっちは準備終わったよ。エーヴァいけそう?」
上から飛び降りてきて、窓枠に座る詩に声を掛けられたエーヴァが、鉄の筒を片手で投げて宙でくるくる回しながら答える。
「まあいけるだろ。それよりそっちはいけるんだろうな?」
「ま、どうにかね。そうだこれ、良いもの見付けたんだ」
詩が手に持っていた2枚の丸い円盤を投げる。それを受けとるエーヴァ。
「シンバル……」
「前に鐘鳴らして地面を陥没させたんでしょ。大きな音の方が威力出るっていってたから役に立つかなってね。
あ、それとさ、上の廊下びしゃびしゃだから気を付けて。後、巻き込まれないようにね。じゃ、待ってるよっと」
イタズラっぽく、ニシシと笑うと窓から飛び出て上に3階へ行ってしまう。
「生まれ変わっても性格の変わんねえヤツ。にしても」
エーヴァは自分の両手につけたシンバルを見つめる。
「シンバルって難しいからあんま得意じゃないんだがな。しかも武器が投げにくいときたか……」
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