第134話:這いずるもの

 スーの魔力を感じ、シュナイダーが合流を求める魔力を放ち、少し離れたところで戦闘が始まったのを感じる。

 そのお陰なのかこっちの蜘蛛の数は減り、最後の1匹と思われる蜘蛛をの頭に刀を突き立て電撃を走らせる。


 蜘蛛は体を強張らせ動かなくなり、力なく廊下に転がる。改めて辺りを見回すと10匹以上はいる蜘蛛の死骸が転がっている。そしてボロボロの壁や窓。


「これは、明日の朝学校に来たらビックリじゃ済まなさそう」


 ちょっぴり罪悪感を感じつつ、美心のところへ行こうとしたとき、こっちに向かってくる大きな音が聞こえる。

 振り返って音のする方へと目を凝らすと、銀髪のお嬢様がこっちに向かって走ってくる。

 あっちも私に気がついたのだろう、手を振ってくれる。


 あいつが普通に手を振るなんてあり得ない、そう確信している私は朧を2分割し構える。そんな私を見て、こっちへ来るな、あっちへ行けと指差すエーヴァ。

 すぐにそのジェスチャーの意味が分かる。


「な、なんじゃありゃ!?」


 エーヴァの後ろから緑色の物体が狭い廊下を、何本もある長い手足を壁や天井、床に引っ掛けながら移動してくる。


 360度体から生えた手足は間接部分が伸び、廊下いっぱいに広げ、トゲのある先端を壁などに引っ掛けて、間接部を縮ませること、つまり間接部の伸縮で移動をしていると思われる。


 廊下という空間を、目一杯使って移動してくるそいつから逃げ、走る私の元に追い付いたエーヴァ。

 私は隣に並ぶエーヴァに走りながら尋ねる。


「ちょっと、なんなのあれ?」


「あ~あれか、さっきのカマキリなんだけどよ、傷を入れたところから手足が生えてきてな。だから切り落としたら伸びるようになって、間合いが取りにくいから建物の中に誘い込んだんだが……」


 エーヴァがチラッと後ろを見るのにつられ、私も後ろを見る。カマキリと言われれば顔はカマキリだ。特徴的な鎌はなく、生えている手足は細長く蜘蛛の足のような形状をしている。


「いやな、思ったより建物の中に適応しやがってめんどくさいから、連れてきた。こういうのお前の方が向いてるだろ」


「はあっ!? さっき、あたしがやるー、とか言ったくせに!」


「あら、そうでしたかしら?」


 可愛くクスッと笑うエーヴァに言いたいことは山ほどあるが、先ずは後ろにいるヤツをどうにかしなければいけない。


「エーヴァ、上に誘導するよ! 真っ直ぐ行ったら美心たちにぶつかる!」


「それはまずったな、殴ってでも上に反らすか」


 階段の手前まで来たとき、エーヴァが走りながら手前に鉄の板を突き刺すと、私たちは2階へ上がる。そのタイミングで鉄板を振動させ床を軽く破裂させる。


 私たちを追ってきた、カマキリグモ(今、命名)はその衝撃に驚き、スピードを加速させ2階へ上ってくる。

 私たちは階段を上がると、一階で逃げた方向と、逆の方向に走って逃げる。もちろん美心達から離れる為だ。


「あんたさ、それ投げて爆破すりゃいいんじゃないの?」


「出来るならやってる。手足が多すぎて、本体に到達する前に邪魔されるんだ。

 だからお前のとこに来たんだろ。さっきも言ったけどよ、狭いとこでの戦いはお前の方が得意じゃねえか」


「たくっ! じゃあ、漢字を描く時間ぐらい稼いでよ」


 エーヴァがキュッと靴が音を立て急ブレーキをかける。ミローディアを大きく振り、数本の手足を切り飛ばし牽制する。だが、すぐに別の手足が伸びてくる。


 でも時間は十分、私が素早く地面に漢字を描いてすぐ、窓ガラスを割って破片を握り、再び走ると、エーヴァもついてくる。

 ガラスの破片に魔力を込め魔方陣に向かって投げる。


 投げたガラスはカマキリグモの無数の手に砕かれるが、割れたガラスの小さな破片が下に落ち魔方陣は発動する。


 床に大きく描かれた魔方陣は『風』の漢字を光らせ風が巻き上がる。突然勢いよく下から吹き上がる風にカマキリグモは歩みを止める。


 その瞬間を逃さず吹き上がる風の近くに描いた、『巻』の漢字にガラスの破片を投げると、『風巻しまき』の漢字が輝く。


 舞い上がっていた風は渦を巻き始め、その速度を徐々に上げていき、カマキリグモを包み込む。

 風は更に激しさを増し、竜巻を作りあげ廊下に渦を巻く。その激しい空気の摩擦で電気が発生し電撃が走る。


「どうよ、漢字を言葉の上から順番にしか発動できない、めんどくさい制約のせいで、ここまで来るのに苦労したんだから。存分に味わいなさいよ」


 風巻に巻かれズタズタになっていくカマキリグモを、ピッと指差し宣言する私。


 だがそのとき、ズタズタになる、カマキリグモと目が合う。


「あっ、エーヴァ、まずいかも」


「あ、あぁ、こいつまだやる気だ」


 風巻が終わったらトドメをさそうと、ミローディアを構えていたエーヴァと私は目を合わせる。


 カマキリグモは手足を広げ、何本もの手足をちぎられながらも、すぐそばから再生していく。

 1本の足から何本もの足が生え、木の枝のように枝分かれしていく。


 それは、木が成長するように枝を伸ばし、やがて外の窓枠と、廊下と教室の間にある窓枠に足を引っ掛け、体を固定し防風に耐えている。

 体の表面も、傷が減っていることから、本体も固く進化しているということだろうと、推測できる。


 何か仕掛けてくると踏んだ私たちは、同時に言葉を発する。


「逃げよう!」

「逃げるぞ!」


 私は『雷弾』を放ち追撃すると、走って逃げる。

 すぐに風巻が止んだのを背中越しに感じた瞬間、何かが多数飛んで来るのを感じて、廊下から教室の方へ飛び込んで回避する。


 さっきまでいた場所には、無数の大きく鋭い針が刺さっていたのだった。



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