第131話:強さの源
朧を持つ私の前にエーヴァが立つとミローディアを構える。
「ここはあたしが持つ。どのみちこいつらの狙いがどこにあるかわからねえ以上、あたしらと一緒にいる方が安全だろ。
それに体育館が出入り口になってる可能性を考えれば、そこをどうにかしない限り、どこへ逃げても一緒だろうよ」
「ごもっとも、じゃあここは任せた。シュナイダー悪いけど、前方と上空も監視お願い」
「おう」
エーヴァにこの場を任せて私たちは一度校舎内に入り、体育館へと向かう渡り廊下を目指す。
廊下を走ると、ガラスを突き破って飛び込んでくる蜘蛛に、後方の私が飛びかかり斬って壁に叩きつける。
「シュナイダー、先に美心を連れて行って! 敵に挟まれる方がヤバいから、後方で引き付けて私が片付ける!」
2匹目の蜘蛛に『刀』を投げ突き刺し壁に縫い付けると、炎を纏った拳で顔面を殴り焼き潰す。
静かに走って行く美心たちを見送りながら刀に触れると、刀は炎を纏いそのまま蜘蛛を焼き殺す。
「さーてと、お友だち連れて、こっちに来なさいよ!」
私は窓を派手に割りながら蜘蛛たちを引き付ける。
* * *
シュナイダーは走りながら左右の耳を別々に動かし、音を拾う。
エーヴァほど精度は良くないが、代わりに範囲が広い。
後方でガラスが派手に割れる音が聞こえ、詩がわざと音を立てながら戦っているのが分かる。
外にいる数匹が詩の方へ移動する中、外で壁に張り付きカサカサと音を立てるのが1匹自分たちについてきている。
パタパタっと動いていた右耳が、ピンっと外側に向かって立つ。
「美心、窓から離れろ」
それだけ言うと廊下の壁を蹴り、天井を蹴って、宙へ身を投げると、窓を突き破って入ってきた蜘蛛の真上に落下し首筋に噛みつき、そのまま床に叩きつける。
首の一部を噛みちぎり、傷に『
焦げた死体を軽く蹴って、動かないことを確認すると、廊下の端で固まっている美心たちに声を掛ける。
「行くぞ、後方で詩が引き付けてくれているから、こっちはなるべく音を立てずに進む」
シュナイダーの指示に、こくこくと頷く美心たちは、廊下を慎重に歩く。
だが、歩き始めてすぐに美心は、なんだか周りが気になるようでキョロキョロしている。
「ね、ねえ? この廊下の空気が変わったというか、その、風が無くて空気が澄んでる感じっていうか。シュナイダー何かやってたりする?」
美心が自信なさげに尋ねる。
「一応な、オレたちを覆うように風をゆっくり渦巻かせている。大した防御にはならんが、ないよりはましだろ。後、防音効果も多少はある」
「へぇ、なんか凄い! シュナイダーって戦えるし、ちゃんと人のことを守ってくれるんだ」
「なんだそれは! 失礼なことを言う……いや、だがまてよ。その発言、美心は、俺を見直したということか。
ふむ、第一印象が悪い方がちょっとした切っ掛けで、株が爆上がりして、即お持ち帰り出来ると、宮西の持ってきた雑誌にそう書いてあったな。
こういうことか、なるほど」
「あんたら何を読んでるのよ。それにシュナイダーの株、上がり幅より下げ幅の方が大きいんだけど。今の発言で大暴落中」
ジト目で見る美心の視線なぞ、気にも止めないシュナイダーはうんうんっと頷き、納得している。
そんなシュナイダーに
「なあ、しゅなうだー、姉ちゃんたちって何で火とか使えるの? 俺も使いたい! どうやるの?」
「僕も知りたい! しゅないざー教えてよ!」
「お前ら、まずは名前を覚えろ」
若干イラっとして怒るシュナイダーのことなど、お構いなしに揺すって、教えろとねだる2人。
「使えるようにはならん! それに使えるようになったら、あの怪獣と戦うことになるが、おまえらそれでもなりたいか?」
ちょっと意地悪な答えに、子供たちは少し考えて首を横に振る。火は出してみたいが、今現在襲ってきている蜘蛛の怪物と戦うことを考えたら、当然の反応であろう。
シュナイダーたちと同じような、力が使えないことに凄く悲しそうな顔をする2人の目は悲しみの色で溢れている。
それに同情したのかシュナイダーは、ボソッと一言。
「火は使えないが、強くなる方法がないわけではない」
この発言に悲しみで沈んだ目を、再び輝かせた子供たちは、シュナイダーに期待の眼差しを向ける。コホンっと咳払いを一つ、キリッと低い声で渋く答えるシュナイダー。
「女だ!」
ゴツン! っと鈍い音を響かせ、美心の見事なゲンコツがシュナイダーの脳天にヒットする。
「なに教えてるのよ!」
「こら静かにしろ! 続きがあるから最後までちゃんと聞け! いいか? 女だ、舐めたいほどの女! おまえらに分かり易く言うとだな、好きな女が出来たときお前はその──おごうっやめ、いたあい……ですぅ」
「なにも変わってないじゃない! むしろ内容酷くなってる!」
シュナイダーの両頬を引っ張る美心。痛がるシュナイダーだが、頬をビヨーン伸ばしたままニタリと笑みを浮かべる。
頬を引っ張る美心の手に舌を伸ばし、ペロリンと舐めると、満足そうに舌なめずりをする。
「ぐふふふぅ! やはり美味!」
「この変態犬が、最悪っ!」
怒る美心にフッと笑うシュナイダーは、一言。
「どうだ、緊張は
その言葉に美心が一瞬ハッとした顔になるが、未だに美心の手の味を味わうように舌をベロベロ舐めるシュナイダーを見てすぐ、ジトッと睨む。
「何を、さも良いことしましたぁ、みたいなこと言ってんの。全然説得力ないから」
ふんっ、と怒る美心は、はるとの手を繋ぐ。
「お姉ちゃん、舐める?」
首を傾げて訪ねる、はるとに美心は、苦笑しながら頭を撫でる。
「人を舐めたらダメよ。あの犬変態だから言うこと聞いちゃダメだよ。お姉ちゃんね、人を舐める人嫌いだから! うん、大嫌い!」
美心の言葉にこくこくと頷くはるとの後ろで、シュナイダーは目と口を大きく開き、「ショック!!」と発言する。
トボトボと歩く傷心のシュナイダーを先頭にして体育館へと向かう。すぐに廊下を抜け、渡り廊下への入り口にたどり着く。
渡り廊下へ続くガラス戸から外を見ると2、3匹の蜘蛛が体育館の周辺をうろうろしているのが見える。
「反対側にもまだいるな。体育館の中はもっといそうだな。詩は……まだ忙しいか。さてどうしたものか……」
体育館の周辺を、我が物顔で歩く蜘蛛を見て、作戦を練っていたシュナイダーの耳がピコピコと動く。
「ふっ、さすがタイミングがいい」
魔力を一瞬大きく上げるシュナイダーに応えるように、外をうろつく蜘蛛の頭上に2つの影が落ち頭を踏みつける。
「遅くなったのです!」
【ここから、ここから! 白雪活躍しちゃうよ!】
空から突然落ちてきた、少女とウサギの姿に目を丸くして驚く3人の子供たち。
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