第128話:順番

 目の前にいるのは大きな蜘蛛。この間の戦闘で蜘蛛は2匹いて、1匹はスーが、もう1匹はサルが倒したと聞いたけどまだいるらしい。


 後ろをチラッと見ると、美心と男の子が3人。経緯は詳しく分からないが、美心がこの子たちを、助けようとしたってことだろうか。


「ったく、帰るの遅いから心配してさ、見つけたら怒ってやろうって思ったけど、その姿を見たら怒れないじゃん。

 みんな美心を探してるんだから、後でお礼いいなよっと!」


 私と美心の会話を、のんびり待ってくれない蜘蛛は、8つの足で跳ね飛び上がり顎を大きく開き噛みついてこようとする。開いた口に『棒』状の朧を突っ込み、そのまま地面に叩きつける。


 数個の教室の机を派手に倒しながら、叩きつけた蜘蛛を飛び越えて、もう1匹の蜘蛛が襲いかかる。


「単純だねっと!」


 棒で1匹の蜘蛛を押さえたまま『弾』を描くと『風弾』を放ち顔面にヒットさせる。

 空中で仰け反る蜘蛛に向かって、押さえている棒に体重をかけ、棒高跳びのようにして蹴り上げる。

 下にいる蜘蛛には顎にダメージが入り、上の蜘蛛は蹴れるという一石二鳥の技。


 蹴りが入った瞬間に『打』がくるぶしの上辺りで光る。周囲の風を集め、圧縮された空気を私の蹴りの衝撃に合わせ打ち込む。

 エーヴァより数段威力は劣るが、私的には威力がかなり上がる。


 前回エーヴァ戦では、『風』で代用したが、美心との勉強の中で『打』を描くことを学んだ。直線が多くちょっと描きやすいのと、他の属性でも多段攻撃ができるようになったというおまけ付きである。


 この攻撃に大きく吹き飛び壁に激突した蜘蛛へ、更に腕を切り血を筆で掬うと『速』を描きながら、教室の椅子を蹴って魔方陣に通す。

 弾丸のように放たれる椅子たちに潰されていく蜘蛛。

 その間に下にいた蜘蛛は、自分の顎を無理矢理引きちぎり、後ろに下がって逃げる。


 朧を2つに分け、『鉄刀』状態にして2本共に宙に描いた『火』に通し刀身を燃やすと、後ろに下がった蜘蛛との間合いを詰め燃え上がる鉄刀を振り下ろす。

 手の甲に描いた『打』が光ると振り下ろした一撃に、炎がもう一撃を加える。


 魔方陣、こっちでは漢字を宙に描くと1回、身体に描くと3回。前世と大きく違うところの1つだ。手の甲に描いた『打』は左右2つづつ、つまり左右で6撃の合わせて12撃に、更に12撃プラスされることになる。手数が増えるのはかなり大きい。


 とまあ自慢してみたが、エーヴァは音撃を、ミローディアを使えば、振動の大きさで違いはあるけど、細かいのなら1秒間に50回くらい震わせれるって、パパの買った安い音波歯ブラシみたいなこと言ってたから、あいつはチートだ。


 私が撲殺している蜘蛛に向かって、机の下敷きになっている蜘蛛が糸を放つと、強引に引き寄せ私の攻撃から引き離す。


「こいつら、連携を!」


 燃える鉄刀を構える私が、蜘蛛たちを睨むと、蜘蛛も私の動きを警戒して硬直状態になる。

 というか、あるものを待つ為、敢えて硬直状態にしている。


 突然、廊下側の窓ガラスをやぶって入ってきたシュナイダーが、くるりと一回転し1匹の蜘蛛を風を纏った尻尾で叩きつける。足が曲がり体を床に沈める。


 そいつを踏み台にして、隣の蜘蛛に飛び掛かると首の辺りに噛みつき、柔らかい部分を噛みちぎる。

 右の前足を大きく掲げ火を灯すと、火は一気に燃え上がり鋭い爪を作り出す。

 燃える爪をちぎった傷口に突き立て炎を体内に送り込む。

 一瞬で体内から燃え上がる蜘蛛はよろけながら壁にぶつかると、ぐしゃりと崩れる。


「ふはははっ! オレの新技『火槍かそう』体内から燃やされては一溜りもないだろ!!」


 崩れた蜘蛛の上に立つシュナイダーが私の方を向くと、歯を見せキラリと光らせる。


「見たか詩! 毎晩、詩のお風呂の音をBGMに考えた新技だ! いわばこれは詩のお陰! 2人の協同作業と言っていいだろう!!」


 私は無言で『速』『弾』『雷』の順に重ねて描くと、手前の『雷』を棒状の朧で突っつく。


 高速で飛んでいく『雷弾』はもう1匹の蜘蛛にヒットすると弾け、電流が蜘蛛の外皮と空中に目映い光と共に走る。

 一瞬、怯む蜘蛛の目に棒を突き刺し手を離すと『撃』『雷』の順で棒の前に描き、手を通し棒を握る。


「『艶麗繊巧えんれいせんこう血判けっぱん雷撃らいげき』!!」


『雷撃』となった雷は激しく流れ、蜘蛛の体を吹き飛ばすと後ろの壁も破壊し、教室と廊下が完全に繋がってしまう。


「威力は十分……ねぇ? シュナイダー」


「お、おう、そうだな……」


 ニコニコ笑う私と後退りするシュナイダー。


「か、カッコいい!!」


 ジリジリと間合いを取り合う私とシュナイダーに突然掛けられる声。

 声のする方を見ると、美心の横にいた男の子2人が目を輝かせ私たちを見ている。


 私が近寄ると、キラキラした目を向けてきて、美心のもとから飛び出し私の足元に駆けよってくる。


「お姉ちゃん凄い! 火とか電気とか凄い!」


「うん! 電気がバリバリって凄かった! 助けてくれてありがとう! お姉ちゃん!」


 私は子供らの頭をポンポンと軽く叩くと、しゃがみ込んで目線を合わせる。


「うん、どういたしまして。ところできみたち、このお姉ちゃんにお礼言った?」


 2人の男の子は首を横に振る。


「じゃあ、順番が違うよ。きみたちを先に助けてくれたのは、私じゃなくて、こっちのお姉ちゃんじゃないかな?」


 私の言葉に促され美心に向かって「ありがとう」と言いながら頭を下げる男の子2人。

 小さい男の子は美心にしがみついて、耳元で囁いている。


 ちょっと照れている美心に近付くと頭をクシャっと撫でる。目を細め少し嬉しそうな表情を見せる。


「詩……ありが──」


「美心、もう少し頑張ろっか」


 お礼を言おうとする美心の言葉を止める。


「えっ?」


「う~ん、囲まれちゃった」


 ピンチですけど、明るく言うのは私の気遣いです。

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