第125話:詩日記③
日記を書くペンの進みは重い。今回の村人行方不明事件の結末は、本当に後味の悪いものとなった。
運良く
坂口さんから聞いた話だと、後日自衛隊の人たちが工場跡地へ向かい遺体の検死を行ったらしい。
その結果、遺体の多くが村人だと判定され、今回の死者の数になる。
この一件で、生き残りの人を中心に、未知の生物の噂は急加速に広がっている。
現に私の学校でも大きく噂になっている。
ただ、ゾンビに町が襲われ、地盤沈下があり、続けて一つの村が襲われたことで国の隠蔽も限界がきているにも限らず、噂に納まっているのは、写真や動画などの証拠がないからというのは大きいだろう。口伝てでしかない噂は信憑性が薄いのだろうか。
国の監視する努力も少なからずあるみたいで、宇宙人をCGや合成でネットにあげる人もいるが、恐ろしい速度で消去されるとのこと。
国としても、今回のサル型がゾンビ以来の直接接触になり、その存在の危険性を改めて認識したところだろうと坂口さんは言っていた。
そしてもう一つ、私たちの接触を試みる動きがあるとのこと。
ただ、私たちの存在事態が掴めず宇宙人の敵ではあるかも知れないが、人間の味方であるかは分からないとの意見が強く、接触に慎重になっているとか。
そのままずっと、慎重にしててほしいものだ。
◆◆◆
「はぁ~、重い、日記の内容が重いよ。女子高生が書く内容とは違うよ、これっ!」
椅子から立ち上がると、ベッドに座って背中から倒れて仰向けになる。
天井を仰ぎ、宮西くんや坂口さん、尚美さんから聞いた情報をぐるぐると頭の中で回し考える。
あの悲惨な現場、前世でもっと酷いのを見たことがある。あるけど、慣れるものではない。
何度目か分からないため息をついたとき、下でインターフォンの音が鳴る。
しばらくして階段を上がる音がしてママが入ってくると、美心が来ていると呼ばれる。
約束してたっけ? と思いながら下へ降りて、美心を迎えると某ドーナツショップの箱を掲げ笑っていた。
先に部屋に上がってもらって、私は後からコーヒーとミルクたっぷりのココアを運んでドーナツを広げる。
「突然どうしたの? なんか話し合いあったっけ?」
私の質問に、ミルクたっぷりココアを飲む美心は眉間にシワを寄せる。
「たまには、なんとなく来たーでもいいじゃんよ。最近、自分の本分を忘れてない? 詩は一応普通の高校生なわけ。
なにもなくともドーナツ食べて、下らない話しして終わる日があってもいいでしょうよ!」
頬を膨らませる美心。
「と、いいつつも実際は、詩が落ち込んでるかな~って励ましにきた!」
頬を膨らました顔から一転、ちょっと照れ臭そうにいう美心は、ドーナツを咥えると視線をそらして食べながら話を続ける。
「ほら、そのさ私は戦えないし、後から結果を聞くだけじゃん。それも大分、私らに気を使って内容を伝えてるの分かるし。
詩たちのせいじゃないよ、気にするなって言っても、気にするだろうし。
前世でどうだったかとかは分からないけど、やっぱ辛いだろうなって……」
そこまで言って黙る美心の肩に私は頭を置いて、体重を委ねる。
「ありがとう……」
美心が私の頭に手を置いてポンポンと叩いてくれる。
「うん、やっぱ辛い……」
しばらく続く沈黙。どれくらい時間が経ったのか分からないけど、ボソッと美心が言う。
「そこは、辛かったら素直に言っても良いんだよ、って私が言ってから、その台詞言って欲しかった」
私はガバッと勢いよく顔を上げる。
「えぇ~!! なによそれ、ここ感動的場面でしょ! 台無しじゃん!」
「いやぁ、もう少しためてから言って欲しかったなあって」
「私が悪いのそれっ? あーもう怒った! もう甘えない! 毎回血まみれの無表情で帰ってきてやるし!」
怒る私を美心が両肩を持って揺らして許しを乞う。それでも顔を背ける私の頬を指でグリグリしてくる。
「ごめんよ~、許してよぉー」
「むぐぅぅ、本気を感じない謝り方っ」
「あ、バレた?」
私の頬を未だにグリグリする美心の指を握ってお互い無言で目を合わせるが、すぐにどちらともなく、吹き出して笑ってしまう。
「ありがと、少し楽になった。前は自分で消化してたけど、人に話すと楽になるね」
「どういたしまして。話しならいくらでも聞いたげるから、美心さんを頼りなさい!」
ドンと胸を叩く美心に力強さを感じる。小学生のころからの知り合い、仲良くしている彼女は強くて頼もしい。
私とは違う強さを持っていて、その強い優しさのに助けてもらっていると改めて感じた。
私も美心を見習って、エーヴァ、スー、シュナイダーにも優しさを向けれる人間になりたい。
と、後で日記に書こう。重たい日記が、少し明るくなる気がして、また嬉しくなった。
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