第124話:苦い結末
私とエーヴァの追跡を、ことごとく邪魔してきた目の前の大ザル。
漢字に拘る私である。
体を沈め跳ねる、デンザルの攻撃を避け『棒』の朧で胸元を殴る。それに合わせてエーヴァの振るミローディアが肩を大きく抉って、よろけるデンザルの腹に私とエーヴァの蹴りが入り後ろへ大きく吹き飛ばし、建物の壁に叩きつける。
デンザルが追撃を恐れ、跳ねて飛び起きると既に詰め寄っていたエーヴァのミローディアの刃先が胸元を切り裂く。身を引くデンザル目掛け『雷弾』を放ち体を痺れさせ、エーヴァが連続で斬っていく。
たまらず逃げようとするデンザルが後ろに下がったとき、地面に私が空けた『穴』に片足を突っ込み転ける。
そこへ頭上に振り下ろされるミローディアの刃先が当たる寸前。デンザルが吠える。
空気を震わせる太いうなり声に合わせ、後頭部から湾曲した刃物が生えてきてエ、ーヴァの攻撃を受け止めると穴から飛び出し、尚も吠え、体をから刃物が突き出てくる変化が続く。
肉体の変化が完了する前に私は『弓』に変形させ『火』『矢』を描き、燃える矢をつがえ放つ。
炎の矢に、エーヴァが投げる鉄板が混ざる。次々と刺さる矢と鉄板に、転がりながら逃げるデンザル。
逃がすまいと追いかける私が、刃のない鉄の木刀、『鉄刀』状態で2本の鉄刀で、エーヴァの投げた鉄板を叩き、体に深く刺していく。
エーヴァが吹こうとするフルートを見て、デンザルがエーヴァへ向かって飛びかかる。
だが、私が小石を投げると、それはデンザルを追い越し、手前にあった『渦』の魔方陣を発動させる。
空気が大きく渦巻き、デンザルの行く手をふさぎ、追い付いた私が背後から『槍』を突き立てる。
その間に流れるフルートの音色は、鉄板を伝わりデンザルの体を震わせ、内部の破壊を完了させると傷口から血を大量に吹き出し、ゆっくりと倒れ動かなくなる。
「思ったより弱かったな」
「まあ、殿を務めるのって物凄く強いか、玉砕覚悟のどっちかだろうしね」
私には聞こえないけど、エーヴァがデンザルの中にいる寄生体の音を感じないのを確認して私たちは、朽ちた工場の中へと足を運ぶ。
中は据え付けられた作業台と棚以外特になにもない。休憩所と書かれた扉を開けてみるが、汚れた流し台と崩れかけた木製の椅子が置いているだけでなにもない。
「詩、こっち来てみろ」
エーヴァが呼ぶ方へ向かうと、入ってきた方とは別の扉の横に空いた大きな穴。サルたちが通ったと思われる足跡が、埃だらけの床についている。
一見するとその穴から外へ逃げたように見える。
私は上を見上げると天井には剥き出しの鉄骨が見える。その鉄骨を何かが握ったような跡が確認できる。
「1匹が天井を伝ってこっち来て、足跡つけたってことか。意外に芸が細かいね」
「スーが動ければな。あいつのがこういうのは得意だろうし」
「だねぇ、一番細かい追跡に向いてないんじゃない私たち?」
「まあな」
笑いながらも痕跡を探す私たちは、ボロボロの階段を上がり2階に上がると、大きなメーターや沢山のボタンが並んだ箱がならんでいて、上の方には分厚いテレビがぶら下がっている。
薄汚れたメーターの箱の上を見ると「操作盤」の文字が見える。
その操作盤と張り巡らされた配線ケーブルと、配管を避け外にあるタンクやら太い配管の
下を見るとさっきの足跡のあった場所と煙突の位置は、大体90度ずれている。
「エーヴァ、あっちの煙突怪しくない? 勘だけどさ」
「どっちみち全部当たるしかねえからな。いってみようぜ」
* * *
2人で中央辺りから崩れ落ちた煙突を見上げる。近くで改めて見ると大きい。中に入る扉は崩れていて入ると、煙突の中は隙間から漏れた光で明るく、下には土があり草や花が芽吹いていた。
そのまま煙突の隣にある建物に入ると、簡素な棚が置いてあるだけだが、地面に大きな階段があるのが見える。
下へ降りていくと、薄暗い地下通路と大きな扉の倉庫が並ぶ。上のプレートには『原料倉庫』の文字、開けてみるとガランとした倉庫の中に大きな穴が空いていた。
「新しいね。最近掘った穴っぽいしここから逃げたってことかな」
大きな穴は真っ暗でどこへ繋がっているかは分からない。
「罠を考えると、これ以上は深追いしない方が懸命だな。他の倉庫も調べようぜ、ここを根城にしていた感じだし、なんかあるかもな」
エーヴァと一緒に他の倉庫を開ける。一つは寝床にでもしていたのだろうか、木の枝や葉っぱに混じって毛布が混ざっている。
次のドアを開けたとき、開ける前から臭いで大体想像していたが……
大量の骨と肉片、血が部屋に散らばる。野性動物の物に混じって人間のもある。
「食事場か……これは凄惨な状況だね。あんまり言いたくないけど村人が消えたのって」
「だろうな……他の場所も見ようぜ」
言葉少なく、他の倉庫を見る。そこは『冷蔵庫』と書かれていて、扉も少し形状が違った。密閉された扉をゆっくりあけると、少し冷たい空気が流れだす。
薄暗い中に山積みにされた、動物と人の遺体。奥の方に大きな氷が置いてありそれが部屋を冷やしているようだ。
「食料庫……か」
「……だろうな」
それだけ言葉を交わすと念の為、生存者を探す。やがて探索を終えた私たちは、自衛隊の基地へ戻っていく。
シュナイダーはスーを連れ撤退していたようなので、私だけ自衛隊の前に降り立ち、工場の内容を伝え去る。
* * *
宇宙人たちがいなくなったことで、通信機器が使用できるようになり、さ迷っていたものは無事発見され保護されたらしい。
生きている人がいたのは喜ばしいが、私たちにとって非常に後味の悪い事件となった。
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