第123話:追跡

 手に持つ刀の先端を金色のサルに向ける。


「エーヴァ、ちょっと下がって休憩してて」


「ああ、悪い」


 短い返事をして後ろにいるエーヴァが少し下がる気配を感じる。

 エーヴァのダメージも軽く無さそうだし、戦闘がいつまで続くか分からないから、ここは少し休憩してもらわないとね。


 改めて目の前の敵を見ると、毛が日に当てられキラキラと金色に輝くサルが立っている。私が調べた家の中で、見つけた毛と似ている気がするけど犯人なのか?


「ま、尋ねたところで答えてくれるとも思えないし、やっちゃおっか!」


 エーヴァとの戦闘で傷付いている金色ザルに刀を振り下ろすと、腕で受け止められるが、同時に電撃を刀に走らせると、金色ザルの体を電流が駆け抜ける。


 走った電流に目を大きく開き驚く金色ザルの硬直した体を、もう1本の炎を纏った刀で真横に斬り裂く。体が硬く深くは入らないが、傷口が燃えダメージは入っているようだ。


 燃える刀と、雷が走る刀を振るう私を警戒し、距離を取られるが、隊員たちが放つ弾丸が金色ザルの足を止める。


「これは、助かっちゃうね」


 隊員たちのお陰で動きが止まったところを、間合いを詰め斬撃を2連放つ。それをギリギリで避ける反射神経の良さは敵ながら誉めたくなる。


 が、それで逃がすほど私は甘くない。


 1本の刀を地面に突き立て、『弾』を描き手を触れ放つ『風弾』、空気の弾をまともに腹に受け、前のめりになる金色ザルの肩に刀を突き刺す。

 硬い皮膚に先端が少し突き刺さっただけだが、『刀』を消したもう1本の棒を刺さった刀の柄に嵌め込む。

 柄の長い刀、いわゆる『薙刀なぎなた』への変形である。


 今思い付いた。


 柄の方に描いた『鋭』を発動させ、鋭くなった刃先を深く突き刺す。薙刀に雷撃を通そうとする前に、金色ザルは自ら体を振り傷口を広げると、後ろに下がって刃先を抜く。


 下がったところに銃弾が放たれ、更に後ろに下がる。

 傷が深いのもあるだろうけど、エーヴァとの戦闘で、大分体力を消費しているのか肩で息をしている。


 だが私を睨むその目に宿る殺気は、消えるどころか強くなっている。


「手負いの獣と、魔物には気を付けろってね」


 大きくなる殺気に用心し、構える私を睨む金色ザルが突然鳴き声をあげる。


 ギャァ、ガガッ!! という聞きなれない鳴き声が響く中、自衛隊の前線基地に設置されていた柵を飛び越え、2匹の大きなサルが飛び込んできて走ってくる。走ってくるなり、金色ザルを守るように立ちふさがる。


「こいつら群れを形成してるってこと?」


「めんどくさいな」


 私の隣に来て並んだエーヴァがミローディアを構え、2対3で睨み合う。正確には自衛隊の人たちが銃口を向けているので、私たちの方が多勢ではあるが。


「ちっ、まだ来るぞ」


 エーヴァが心底めんどくさそうな声で告げる。


「更に2匹ねぇ、ん? あいつ、なんかおかしくない?」


 柵を飛び越え、私たちの外に挟むように陣取る2匹のサル。そのうち1匹は目が8つ、斜めに並び、口が縦に開き左右に尖った顎が見える。その顔は蜘蛛のように見える。


 内と外で睨み合う私たちの間を張り詰めた空気が支配し、妙な静寂が訪れる。


 その静寂を破ったのは、外を囲む1匹の蜘蛛顔のサルに放たれた炎の斬撃。肩を斬られながらも避ける蜘蛛顔のサルの正面に、シュナイダーが唸りながら立ちはだかる。


 反対側のもう1匹のサルを白雪を背負ったスーが蹴り、大きく後退させると体制を低くし構える。


 その動きを見て金色ザルが短く唸るとサルたちは、金色ザルを守りながら威嚇し後退していく。殿しんがりを務める最後の1匹が後ずさりしながら仲間が逃げたのを確認して、逃げていく。


 それと同時に膝をつき、そのまま倒れるスー。限界を超えて動いていたみたいで気絶している。


「シュナイダー! スーをお願い! エーヴァいける?」


「当たり前だ、いくぞ!」


 スーをシュナイダーに任せ、私とエーヴァはサルの後を追う。本来深追いは厳禁だが、サルの動きを把握したい私たちは、危険を承知で決行する。


「速いっ、森の中だとあっちが有利だね」


「まあな、かといって、頭の上を取られるわけにはいかねえからな」


 森の中を逃げるサルたちは、その見た目通り軽やかに移動していく。私たちも中に入って移動したいが、木々を自由に移動でき、数の多いサルに四方を囲まれるわけにはいけないので、移動速度は落ちるが木の上の方で枝を渡り移動していく。


 時々、殿を務めるサルがわざと姿を見せ、私たちを違う方向へ導こうとするが、エーヴァが音を捉えてくれ追跡を続ける。


 やがて森を抜けると山の中腹に古めかしい建物が姿を現す。それはレンガを積み上げた大きな煙突と、横には2階建ての朽ちたコンクリートでできた建物。


「なんだろ? 煙突みたいなのがあるけど。工場かなにかな?」


「さあな、あいつらはこの中へ逃げたんだろうが……ま、追跡はここまでだな」


 建物の中から殿を務めていたであろうサルが姿を現す。


「一旦建物に入って、別口から逃がしたわけか……やられちゃったね。

 けど前向きに考えればこの建物の構造を知っている、つまりはこの建物と何らかの関係があるってことか」


「そういうことだな。とっと道開けてもらおうぜ」


 武器を構える私たちと、威嚇してくる殿ザルは睨み合う。

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