第121話:毛並みの違うもの

 最初にシュナイダーの魔力、続けてすぐに詩の魔力を感じる。思月は分からないが、恐らく戦闘中であると推測する。


 木の枝に立っていたエーヴァは閉じていた目を開けると、視界に入るのは自衛隊の前線基地。

 宇宙人の出現により、電子機器が使えなくなっているようで、慌ただしくなっている。

 彼らなりの対策はしたのであろうが、無駄だったようで、無線や車両、武器の確認が早急に行われている。

 村を探索している部隊と、連絡がとれないと焦る声も聞こえる。


「嫌な感じがしやがる……こういったのは大体当たるんだよな」


 エーヴァの大鎌であるミローディアを持つ手に力が入る。



 * * *



 現状を把握する為、最新型の通信機器の試験を兼ねて、この状況下で使えるもの、使えないものを手書きで記録していく。


 今までの情報から電子機器障害は予想されていたことだが、いざその事態に陥り、最新鋭の機械や武装ほど使えなくなる現状を、目のあたりにして緊張が走る。


 通信関係、レーダー、記録媒体は使用が出来ないことが再確認された。

 移動手段である車両はエンジンがかからない。点検の結果、エンジンに問題はないことから、エンジン点火に関わる部品の電子制御の問題と推測された。


 実際、電子制御されているバイクと、旧型のバイクの始動実験において、旧型のバイクは難なくエンジンをかけることに成功した。

 それと武器関係は、使える物が多いのは収穫だった。


 彼ら自衛隊は村人の捜索と、未知の生物との接触を目的に来ていた為、捜索の装備にしては物々しく、武器が多く並ぶ。


 彼らが外で使用できる武器の選別を行っていたとき、それらは突然落ちてくる。2つの影は落ちてくるなり互いに腕と鎌を振るい、激しい火花を散らす。


 一つは大きな毛むくじゃらな物体。もう一つは黒い服を着た銀髪の少女。突然の来訪者たちに驚き、戦慄が走る。


 自分の身長より大きな大鎌を軽々と振るう少女、エーヴァが相手するのは、黒い毛並みで3メートルほどの大きさのサルである。

 サルは素手でエーヴァの攻撃を受け止めるように見えるが、その両腕は真っ黒に、鉄のように鈍く光っている。


「ちっ、腕が変化しやがったってことか。あんまり時間かけると、全身変化する可能性もあるってことか」


 サルがリーチの長いエーヴァの懐に入り込むと、拳を振り上げる。ミローディアを両手に持つエーヴァが上半身を反らし、鼻先スレスレで拳を避けると、柄の部分の1ヶ所を分割する。

 棒になった柄を下から突き上げ、サルの喉元を突くと、そのまま回転しながら背後に回り、短くなったミローディアを振り上げ背中を切り裂く。


 背中から血を流し、前によろめくサルの背中に、足に装備している鉄板を投げつけ追撃を加える。

 追撃の勢いと痛みで転がるサルの背後で、エーヴァはミローディアを地面に突き立て、フルートを唇にあて演奏を始める。


「!?」


 上空から迫るものに感づき、演奏をやめ、大きく後方へ跳ねたエーヴァが元いた場所へ振り下ろされた拳は地面を抉る。


 拳をゆっくり引くそいつは、最初にいたサルより一回り大きいサルで、薄い茶色の毛を日に当て金色に輝かせ、エーヴァに鋭い視線を向ける。


 歯茎を剥き出しにし、牙を見せる金色のサルが地面を蹴り、殴りかかってくる。対するエーヴァも突っ込んでいき、ミローディアを振るう。


 金色のサルはエーヴァの攻撃をしゃがんで避けると、足払いを仕掛ける。それを飛んで避けそのまま振り下ろされるミローディアを、体を半身に反らし柄を掴むと、エーヴァごと投げ飛ばす。


 投げ飛ばされたエーヴァは、自衛隊のテントを突き破り、室内のテーブルやらを破壊し転がる。


 この戦闘の間に、背中に刺さっている鉄板を抜いたサルが金色のサルを見ると、金色のサルは「行け」と指示するように顎を動かす。

 その指示に従いサルは、4足歩行で駆け、エーヴァの突っ込んだテントへ向かう。


 そのタイミングで、テントを突き破り2本の包丁が飛んでくる。それを避ける為、サルが失速した瞬間、テントは真横に切れ崩れると、エーヴァが飛び出してきて、ミローディアを振り下ろす。


 左腕で受け止めるサルだが、エーヴァはミローディアから手を離し、足に装備してる鉄板を抜くと、受け止めて、体が沈んだサルの首筋に鉄板を突き立てる。

 そしてその場でくるっと回転し、足の裏で鉄板を蹴り更に深く突き刺す。


 首を押さえ尻餅をつくサルに、拾い上げたミローディアを振るおうとするが、金色のサルが間に割り込んでくるので後方に下がらざるを得ないエーヴァ。


 金色のサルは、チラッと首を押さえるサルを見ると、見られたサルは小さく頷き、鉄板に手をかけると首の周辺がボコボコと動き始め、そこに新たな口が出来る。

 口を開くと鉄板は地面に落ち、サルは憎しみを込めるかのようにそれを踏み潰す。


 2匹のサルがエーヴァに向くと、エーヴァも構える。


「2匹同時かよ、やる気にさせてくれるじゃねえか」


 呟くエーヴァと2匹のサルが同時に突っ込む。ぶつかる拳とミローディアだが、それは長く続かない。


 ここまでエーヴァとサルの戦闘から逃げ、辺りに散った自衛隊員は隠れながら様子を伺っていた。

 皆、武器を構えているが、現状の把握が出来ない今、むやみに攻撃出来ないと待機命令に従ってこの戦いを見守っていたのだが、金色のサルが突然エーヴァとの戦闘から離脱し、自衛隊員に向かって飛び掛かってくる。


 突然のことに反応出来ず、太く大きな腕に殴られ吹き飛ばされる3人の隊員は、人として生きるべき頭を失くし無惨にもその場に転がる。


 血の滴る拳を向ける金色のサルに向かって、パニックにも似た銃弾が飛び交うが、それを巨体からは想像もつかないスピードで掻い潜り、1人の隊員の銃を持つ手を握り持ち上げる。


 笑みを浮かべる金色サルの大きな手に握り潰され、砕ける腕の音は悲鳴に消され、そのまま吊り下げられる隊員に他の隊員の多くが、銃口を下に向けその姿に恐怖を覚えてしまう。


 エーヴァは、自分との戦いをやめ、自衛隊員の元に行った金色のサルの意図を察し、首に口のあるサルの振るう腕に飛び乗り走って、頭を蹴ってミローディアを構え、金色サルに向かって飛んでいく。


 だが、手に持った隊員を掲げエーヴァに見せつける金色サルに、ミローディアを振るうのを止めざらずを得ず、足を地面につけ急ブレーキをかける。

 それを見て嬉しそうにする金色のサルは、隊員を乱暴に吊り上げ、エーヴァに押し付けるようにして向かってくる。


 泣き叫ぶ隊員を目の前に攻めあぐね、精細さを欠くエーヴァの攻撃は当たらず、金色のサルが放った回し蹴りをガードこそすれど、まともに喰らい大きく吹き飛ぶと、テントを破壊し、後ろに停めてあった車両を大きく揺らしようやく止まる。


 車両のドアは激しくへこみ、衝撃の凄さを物語っている。


 ゆっくりとずれ落ち、地面に座るエーヴァの額から流れる血が、銀色の髪を伝い地面にポタポタと落ちていく。

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