第120話:玉兎の本気(8割)

 思月の言質をとった、そう思いこんだシュナイダーの足取りはとても軽い!


 先の攻撃で、のたうち回っていた蛇が目に怒りを宿しシュナイダーと対峙するが、シュナイダーにとって、そんなことはどうでもいい。


「デカイまとほどやり易いものはない、今のオレは機嫌がいい! オレの目的(スーの足を舐めること)の礎となるがいい!!」


 シュナイダーを中心にして風が集まり始める。その風は激しく吹き荒れながら集まると、シュナイダーから蛇まで一直線に吹き始める。

 毛先に火が灯ると、空気を吸った炎は爆発的に燃え上がり、炎の道を生み出す。

 業火の中を炎と風を纏ったシュナイダーが炎の槍と化し、駆け抜けぬける。


 それはまさに一瞬、反応出来ない蛇の頭が切り落とされる。頭部は燃えながら地面に転がり、残された体は傷口に炎を灯してゆっくりと倒れる。


「ぐふふふぅ、お前もオレの目的の礎とな……」


 宮西がいれば説明してくれたであろう、蛇の歩行は背骨と鱗の掛かりを利用し、体をくねらせ進むのだと。


 発達した背骨は更に伸び、体を次々と突き破り足の様にして生える。輪切りになった傷口には目が形成され、食道の穴にギザギザの歯が生える。


「寄生体の本体は胴体か。それにしてもムカデのようであり、前世でいたミミズの魔物ワームのような、なんとも奇妙な姿だな」


 胸元から生えた無数の骨の足で、ガサガサと音を立てながら移動を始める。


「ちっ、めんどくさいが全て燃やし尽くせばいい」


 炎を再び纏うシュナイダーが、宙を蹴り首の辺りと思われる場所を切り裂く。

 輪切りになって飛んでいく新たな頭は一瞬だけ炎に包まれるが、すぐに消え、地面に降りると骨の足を使い歩き始める。


 そして胴体の方には、新たな顔が形成され別に動いている。

 輪切りにした場所に顔が生える、金太郎飴のような状況にシュナイダーが動揺する。


「輪切りが駄目ならば!!」


 頭だった方の蛇を、縦真っ二つに切り裂く。

 カマボコ状になった蛇はそれぞれが、湾曲した方を下にして、骨の足を生やすとカサカサと歩き始める。


 シュナイダーは思う。これ、失敗じゃないかと。やっちゃったんじゃないかと。

 速攻倒すと、スーの足舐めるぜ! と意気込んで切り刻んだら、敵が3匹に増えた現状。

 しかも炎に耐性を持ち始めたのか、炎に包まれても一瞬で鎮火される。


 これは知らなかったとはいえ、失態である。そう結論を出したシュナイダー。


 彼も過酷な戦いを生き抜いてきた身、長い戦いの中で失態もあった。そんなときどうすれば良いかを知っているし、それが出来たから生き抜いてこれたのもある。


 シュナイダーは敵の攻撃を捌きつつ、思月と白雪の元へ急いで行く。



 * * *



「くぅ~ん、じゃないのです!! 倒してやるんだーって、走っていった勢いはどうしたのです!」


 地面に伏せ、尻尾を垂らし、上目遣いで「ごめんなさい」するシュナイダーに思月が怒ると益々深く伏せて、く~ん、くぅーん、鳴いて許しを乞うシュナイダー。


 思月も、もう1匹の蜘蛛と戦闘中であったが、接近を警戒され、木の影から糸を飛ばしてくる蜘蛛に苛立っているところにやって来たシュナイダーの弁を聞き、イラッとする。


【スー、怒っても解決しないのよ。分裂するやつでも、内部破壊できるスーならトドメさせるはずなのよ】


 白雪に諌められ思月は服を正すと、大きく息をはく。


「白雪、ここは一気に殲滅させるしかないのです。今いる敵を殲滅させ、新たな敵を懸念して離脱。これでいくのです」


【まあ、切り札出し惜しんで、使わずに死んじゃったら元もこうもないものね。いきましょか】


 やれやれといった感じで、白雪が思月の背中にのる。白雪を背負う思月はシュナイダーをキッと睨む。


「今からスーは本気でいくのです。ただしこれを使った後、スーは多分動けなくなるのです。敵を倒した後、スーを連れて離脱をお願いするのです」


【スーが動けないからって、悪戯したらダメよん! そんなことしたら、美心ちゃんにぬいぐるみの材料にしてもらうからねん! でも白雪にはしても、い・い・の・よ☆】


 白雪の言葉には反応せず、ごめんなさいのポーズのシュナイダーが頷いたのを見て、思月は白雪を背にしたまま、手を前後に広げ体勢を低く構える。


「シュナイダー、サポートは任せたのです! いくのです!!」

【スーと白雪の合体モード、発動よーん!!】


 エーヴァの爆発的な魔力とは違う、近づく者を鋭く切り裂くような魔力の解放は凄まじく、思月がかつて、5星勇者と呼ばれていた者の転生者であることを、知らしめるものであるといえる。


 踏みしめる足は地面を割り、シュナイダーを追いかけてきたカマボコ状の蛇に一瞬で間合いを詰め、平らな部分に手刀を落とし、地面に押し潰すと青白い光を纏った右足で踏みつける。

 青い光を洩らしながら潰れるカマボコ蛇。そのとき白雪が、思月の腰に足を絡め大きく体を伸ばすともう1匹のカマボコ蛇を捕まえ真上に投げる。

 宙へ投げられ落下してくるカマボコ蛇に、思月が振り上げた掌底が決まり、青白い光が縦に一瞬走る。

 崩れ落ちていくカマボコ蛇が落ちる前に、蛇の体に向かうと追い付いたシュナイダーが先行する。


 風を纏うシュナイダーが、宙に風の斬撃の線を引くと蛇の表面が切れていく。

 幾度も行われる斬撃の中を跳び跳ねる思月は、傷口に魔力を次々と打ち込んでいく。痛みにのたうち回る蛇の体を逃がすまいと、シュナイダーが風で囲っていく。


「シュナイダー!」


 思月の叫びに反応したシュナイダーは、自身が斬りながら撒いた魔力を解放する。

 魔力は一瞬だが風の足場を生み出す。その一瞬を逃がさずに踏んで空へと駆け上がっていく思月。


 空中で構える右手は青白く、激しい光りを放つ。


「スーの全力、叩き込むのです!」


 宙の足場を蹴り真下に高速落下する思月。青白い光が走り叩き込まれた掌底は蛇の体の内部を走り、先に打ち込まれた思月の魔力と反応し体内から光が輝くと爆発を起こす。


「『玉兎激昂ぎょくとげきこう』なのです」


 思月が爆発する中、遠くから様子を見ているであろう蜘蛛を睨む。


「なっ!?」


 だが、思月が見たのは傷付いた蜘蛛にかぶり付き、寄生体を引きずり出す大きなサルの姿。サルは思月と目が合うとニタリと笑う。


「う、これ以上は……、シュナイダー撤退なのです!」


 ふらつく足取りの思月を、白雪ごと背に乗せると、シュナイダーは走り去る。

 サルの方も追いかける気がないのか背後から気配は感じないが、全力でシュナイダーは走り去る。

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