第111話:神託っぽいやつ

 広い空間に招かれた、とでも表現すれば良いだろうか。

 目の前にいるオレンジ色の鳥は、相変わらずのぐるぐる目玉を私たちを見つめ、垂れるヨダレはイラッとさせてくれる。


「何よ神託って」


「おほんっ! たまには神らしく、神託をやろうと思うっす。ではぁ、転生した4人……あらら? なんでウサギがここにいるっす?」


 白雪に驚いた声を出すシルマ。彼女はどうやらお呼ばれではなかったらしい。白雪はくねくねしながら【神をも驚かす乙女よ~ん】とか言っている。


 イラッとする。スーの無表情を見習わなければ。


「まっ、いいっす! 細かいことを気にしない女神シルマっす」


 そんなんで良いのか? 相変わらず軽いノリだが、白雪がここにいる理由を考えるより、神託を聞く方が良さそうだ。


「じゃあ、いくっすよ。『驚異は更なる変化をし、襲いくるであろうっす!』ですっす」


「なんじゃそれ?」

「散々引っ張っといてそれだけかよ! 唐揚げにするかコイツ」

「スー、鳥、捌けるのです」

【白雪も手伝うわよん!】

「今晩は唐揚げか」


 5人が一斉にオルドに詰め寄る。羽をバサバサ振って、違う、違うとアピールするオルド。

 慌てるオルドと対照的に、のんびりしたシルマの声が響く。


「神託っぽいっす? 意味が分かるようで、分からない、どんな意味でも取れる、そんな感じで言うのがコツなんすよ」


「いや、知ってることあるんなら全部教えてよ!」


 涙を流すオルドの肩を揺さぶりながら言う、私の意見に残り4人も、うんうん頷く。


「まあ、そこはスペース宇宙個人情報保護法に基づいて言えないっす。残念っす」


 本当にこの女神は、掴み所がないというか、何を考えているか分からない。もしかしたら、神という存在がこんなものなのかもしれない。


 オルドが慌ててバサッと羽を広げると後光が射しはじめる。後光って結構簡単に射すもんだと思いながら、私たちから逃げるように羽ばたき去ろうとするオルドを見守る。


「あ、オルドごめんっす。言い忘れたことあったからまた降りてほしいっす」


 えーっっ!? みたいな感じで頭を羽で押さえ泣きながら再び降りてくるオルド。シルマ絶対わざとだ、そう思いながらシルマの言葉を待つことにする。


「詩、もう少し漢字の数を増やした方がいいっす。勉強するっす。それから、エーヴァ、シュナイダーは今の力を高め、思月はよく分からないっすけどすごく不思議な力を感じるっす。あと住むとこ早く探すっす。そんなとこっす」


 女神から勉強しろと言われた私をおいて、今度こそと必死で羽ばたき始めるオルド。わざわざ、言い直しにきたわりにショボい助言だ。

 だがシルマは満足気な声で去っていく。


「んじゃあ、これで帰るっす。これでも私は忙しいっす」


 オルドの羽が舞う。スッと空気が変わり元の場所にいる私たち。私は坂口さんと話していて、スーは美心と白雪と一緒に玄関を入ってきたところだし、エーヴァはおじいちゃんと話して、シュナイダーは尚美さんの近くで伏せている。


 5人がそれぞれ目を合わせる。どうやら夢などではなさそうだ。


「どうしたの?」


 美心が心配そうに聞いてくる。


「ん、いやちょっと女神に呼ばれて、私もっと漢字の勉強しろって言われたんだけど」


「あ、それなら僕──」

「それなら私に任せて!!」


 女神に会った話はしているからだろうか、呼ばれたことに対して反応はなく、なぜか漢字の勉強に反応される。

 そしてだれか何か言おうとしたけど、美心の勢いに掻き消されてしまう。


 美心は私の手を握って、ブンブン振り目をキラキラ輝かせてる。


「詩に役立つ漢字ってのをずっと考えていたわけよ。実際に描いてみないと使えるしか分かんないし、詩に相談しながらやりたいし、ここはやっぱ私の出番でしょ!」


 勝ち誇った顔で沈んだ顔の宮西くんを見る美心。なんだかんだでこの2人、仲いいよね。


「ふふ~ん、勉強嫌いの美心さんが勉強しちゃったもんね」


 私の漢字のことが負担になったらとも思ったけど、美心楽しそうだし、一度言い出したら聞かないから任せるとしよう。


「あのぅ~」


 申し訳なさそうにおずおずと手を挙げるのはスー。


「スー、お金がないのですけど。しばらく泊めて欲しいのです。お金はちゃんと返すのです」


 頭を下げるスーと、ごめん、ごめんって感じで片手を立てる白雪。そういえばスーの所持金千円だった。


「それならオレの小屋で一緒にわふん!」


 エーヴァに頭を殴られるシュナイダー。


「それなら、わしのところにくるかの。なん部屋か空いておるし、好きに使ってもよいぞ。もちろんお金はとらんから安心して使うといいわい」


「お金は払うのです。こちらでもアルバイトするのです」


「いいや、いいわい。そうじゃ、家にいる猫の世話をしてくれると助かるわい。条件はそれでどうかの?」


「う、うぅ申し訳ないのです。ありがとうなのです」


 ちょっぴり涙目のスー。おじいちゃんの家一軒家だけど、おばあちゃんはもういなくて、猫のマー君がいるだけだし、おじいちゃんにとっても、マー君にとってもいいかもしれない。


 スーの住むところも決まって、あまり遅くならないうちに皆が解散する。

 このメンバーがいれば宇宙人とも戦っていけそう。少しテンションの上がる私の足取りは軽いのだ。







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