第107話:決着は激しく!

 ここへ侵入する際、私たちは壁を破壊した。これの意味することは単純だ。他にも出入り口があるってことだ。


 私が暴れ、敵を引き寄せて引き付ける。シュナイダー走りながら敵の巣を突っついて引っ掻き回す。

 スーはそれでも動かないウージャスを探して、確実に倒していく。この隠れ動かないヤツが本体である可能性は高い。


 3人で動きながら主に下への抜け道を探す。上はエーヴァがおじいちゃんたちに張ってもらった、糸と空き缶による手作り鳴子なるこによって広範囲を網羅し、監視してくれている。


 それに散り散りなった4人も笛や花火を持ち、ウージャス発見の際は大きな音を鳴らすことで、エーヴァが駆けつけることになっている。


 私たちは、本体っぽいヤツを見つけたら魔力を高め位置を教えあう。見つけた本人が追いかけ他は、その方向からあえて離れ敵の動きを探る。

 今回は、シュナイダーが見つけ、私とスーはそれぞれ別の方向へ散った。


 エーヴァが魔力を高め外へ出て、見つけたことを報せると、シュナイダーはエーヴァに引き継ぎ地下を探す。

 逃げ道を見つけたら魔力を高め、お互いが大体の位置を把握していく。

 後は適当に暴れるふりをしながら動向を誘導し、見つけた抜け道へ追い込んでいく。ここであからさまに逃げ道と違う方へ向かう者がいれば、私たちが見付けれなかった抜け道の可能性があるってことだ。


 私が探索するエリアに、一匹だけ違う動きをする者がいたのを発見し尾行。こいつには私が先回りしていたように見えるだろうがそれは違う。尾行し下水に降りた後、全力で回り込んで


「お前の行き先なんてとっくにお見通しですけどなにか?」


と見せているだけだ。


 地味な戦法だがこれが意外に効果的だったりする。現に目の前のスマートなウージャスに、焦りのようなものが見えるし。


「さてと話す言葉も持ち合わせてないんでしょ。なにが目的かなんて野暮なことは聞かないよ!

私らに攻撃してきたってこと、それだけでいいでしょお互いにさ!」


 踏み込んで突き放つ『槍』の朧をウージャスは受け止めるが、構わず押し込む。

よろめく足をすくう為、払う槍を飛んで避けられ、振り下ろされる剣を柄で受け流すと『槍』を消しながら分割した刃のない鉄刀を振りウージャスの首に打ち込むが、剣の腹で受け止められる。

互いに間合いを取って数発打ち込み合い、2本の剣と2本の鉄刀が火花を散らす。


 1本に『剣』を通し刀として振るうが、このウージャスの体は硬く刃を一切通さない。刃零れする方が嫌なので『剣』を消し、鉄刀として打撃を中心に攻撃をすることにする。


 宙に描く『火』の漢字に私の右手に持つ鉄刀を通すと、火を纏う鉄刀はあっさり避けられてしまう。


 前もって予測された動き。こいつは私が『火』を描くと、そこを通して武器を燃やすことを知っている。

分かってしまえば見切りやすいのが、私の技の大きな欠点なわけだが、そこで愚痴っていては私の一族は全滅してる。


 左手の『水』を発動させると、鉄刀に水が渦巻き始める。火と水をそれぞれ持ち振るい、ウージャスと再び始める打ち合い。

 私の鉄刀とウージャスの剣がぶつかる度に火と水が舞い散る。


 火が嫌いだから火の鉄刀を避けたがるかとも思ったが、怯むことなく受け打ち込んでくるのは虫などの野生の動きではなく、考えて動いてるってことに他ならない。


 大きく一歩踏み込むと、左の水が渦巻いた鉄刀を横に振るう。ウージャスは右の火の鉄刀を警戒しながら受け止められ、その衝撃で水飛沫が散る。


「そんじゃいくよ!」


 受け止められた左の鉄刀を更に力を入れて押しながら魔力を込める。鉄刀に渦巻く水は激しく高速回転を始め、ウージャスが受け止める剣を弾き飛ばす。

 とっさに体を翻し、残った剣を両手持ちで受け止めるウージャス。


 私は左のもう水があまり渦巻いていない鉄刀を引くと、素早く右の鉄刀を振り下ろす。それにもウージャスは反応し受け止める。


「いい反応するじゃん。けど痺れちゃってよっ!」


 右の鉄刀の火が霧散し、右手に描いた『雷』により電撃が走る。先に鉄刀に渦巻いていた水を浴びたことによって、電撃はウージャスの体に激しく走り抜け硬直させる。

電撃を走らせたまま、私が鉄刀を振り下ろしウージャスを地面に叩きつける。


 うつ伏せで倒れたところに追い討ちをかけるため2本の鉄刀を繋げ、『槍』を描き矛先で首の柔らかそうなところを突く……はずだった。

 痺れ痙攣するウージャスの背中から2本の腕が生え、矛先を受け止められると、そのまま投げられる。


 空中で体勢を整え、地面を滑りながらブレーキをかけ止まる。いつの間にか拾った2本の剣で飛び掛かってくるウージャスの攻撃を槍でなんとか防ぐ。


「なっ、コイツさっきより力が強いっ」


 槍で受け止めるが、押し込まれてしまう私が見るとウージャス2本の剣を持つ腕が太くなっていること、そして剣を持っていない2本の腕が鋭い鎌状になっていることに気付く。


 しゃがんでウージャスの懐をくぐりながら剣を避ける際、右肩を鎌状の手で切られ鋭い痛みが走り血が流れる。

 それに手応えを感じたのかウージャスは追撃すべく踏み込んできて、4本の腕による剣と鎌の猛攻が始まる。


 槍で捌くがその強引ともいえる力に無理矢理押され、数ヶ所切られてしまい血が地面に散り赤く染まる。


 槍を分離し、短い槍と棒で攻撃を防ぎながら地面の血を踏み漢字を描き、腕に流れる血を槍と棒に這わせ攻防をしながら宙に漢字を描いていく。


 それはウージャスが気付く前、もしくは気付かれても逃げられないように攻撃を繰り出しながら一気に行う。


 両手両足で描く漢字。その効果、順番を考えながら行うこの動きが出来るか否かが、艶麗繊巧えんれいせんこう血判けっぱんを使い生き残れるかの線引き。

 出来ない者は死ぬしかない。それが私の生きてきた世界。


『火』の漢字を棒で叩くと火花が激しく弾ける。燃えるのではなく弾ける炎は、周囲に描いた『火』に当たり同じく弾ける。四方から散る火の粉は地面に描く『炎』にあたる。

 地面から吹き上がる炎は『火』に当たり『炎火えんか』となる。


 一瞬で激しい炎に包まれるウージャスがよろける。よろけながら触れる魔方陣が反応し『風』が舞うと他の『風』も反応し、渦巻くそれは炎に酸素を供給し更に炎は激しく燃え上がる。


 激しい炎で空気が揺らめく。その中心にいてもがくウージャスに向かって私は槍を構える。


「無駄に長い付き合いになっちゃたけど、ここらでサヨナラだねっ!」


 槍をフルスイングし、炎の塊のウージャスを水の流れる下水に吹き飛ばす。そのまま私は全力で逃げ、角を曲がってしゃがむと耳を塞ぐ。


 ドォォォンンッ!! と大きな爆発音と下水道全体を激しく揺らす空気の振動。

 キーンと耳が鳴るのが治まってから、ウージャスを投げ込んだ場所を見ると、天上と地面が大きく抉られ、その様は爆発の凄まじさを物語っている。


「温度的にどうか分かんなかったけど、水蒸気爆発成功だね。あいつの体、硬い分熱持ちそうだったから良かった、良かった」


「無茶苦茶なのです」

【ほんと、ほんと】


「おわっ!?」


 私が破壊された下水道を見ながら自画自賛をしていると、背後から現れるスーと白雪。この子たち全く気配を感じない、恐ろしい子だ。


「終わったのです。念のため生かしておいたウージャスも全部事切れたのです」


「そっか、じゃあ帰ろうっか」


 背伸びして下水道を出ようとする私に現実が突きつけられる。


「もう夜が明けるのです。詩、学校間に合うのですか?」


「はあっ!? うそでしょ! やばっ家に帰ってない。え、どうしよう。あ~ママ絶対怒ってる」


「スー聞かれても困るのです」

【白雪もしらないわよん】


 慌てふためく私は、地上に出て昇る太陽を恨めしく睨みながら帰路につくことになる。

 因みに坂口さんはボロボロで私たちを追及する気力もないらしく、壁にもたれ寝てしまった。黒田さんが連れて帰ろうと引っ張るが、諦め置いて帰っていった。


 大規模な事故に巻き込まれたとして無事生還した私は、おじいちゃんも一緒だったお陰でお母さんからちょっとしか怒られなかった。シュナイダーもおとがめなし。


 エーヴァは涙を流しながら「怖かったですわ」などといいながらアラさんと帰っていく。


 スーと白雪はいつの間にかいなくなっていた。


 あ、宮西くんはかなり怒られたらしい。後日割れたメガネが新調され、その新品のメガネを見るたび事件が思い起こされる。


 こうして長い夜は終わりを迎えたのだった。

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