第105話:崩壊する王国

 ベニア板やトタン板、段ボールなどをかき集め家を作りそこに住み着くウージャスは小さな街を形成していた。

 その出口を守る門番のようなものまでいる。長い棒を持ち、その先端に石を針金で巻いて門を守る2匹のウージャスの上から音もなく何かが落下してくる。


 落下してきた何か、思月は音もなくウージャスの首を絞めると、体全体を使って首ごと回転しへし折り、勢いそのまま地面に叩きつけ、青白い光を打ち込む。


【スーこっちも、こっちも!】


 白雪も同じくもう一匹の首を折ってはいるが、トドメがさせないので思月を呼ぶ。

思月が駆け寄り掌を打ち込みトドメをさす。

 動かなくなったウージャスを置いて、直ぐに2人は暗闇に溶け込むように消えていく。



 * * *



 街と呼ぶには些か抵抗があるが、紐や針金で箱状に建てた家が並ぶそれはなにか? と訪ねられれば『街』だと答えるしかないだろう。

 その街に住むウージャスの群れに緊張が走る。

 元々1匹の個体であったウージャスが分裂をし、その分裂した個体が更に分裂、また分裂を繰り返すうちに個体は微妙なズレが生じ、体格や強さの違いとなって表れ性格も僅かに違いが出てきた。

 それに伴い肉体を動かす兵士タイプと、頭脳を動かす策士タイプに別れ仕事も分担される。


 ウージャスは地球上にある電波ようなものを伝達し合い情報の共有が出来る。

 今自分達の住む場所に2体の生命体が侵入。地上の生命体で一番の多い種1体と、4足歩行の生命体。

 仲間から強い断末魔の信号が発せられ、反応が消えていることからこの2体の生命体への対策が早急に求められていたのだが。


 バキッ! 暗闇に鈍い音が響き、青白い光が一瞬輝くと体を駆け巡った魔力に内部を破壊され、1匹のウージャスが思月の足元に倒れる。


【これでここは終わり? 早く次に行こうよスー。じめじめするし、白雪に臭いが移っちゃう!】


「ここで作戦会議でもしていたのですかね?」


 真ん中にテーブルが据え付けられ、そこを中心に、円を描くように立っていたウージャスは今は一匹も動かず倒れている。

 侵入者対策会議中であったウージャスは、音もない侵入者により全滅する。侵入者を2体とした時点で、彼らは既に負けていたのかもしれない。


【作戦会議していたのなら尚更全滅させておいて正解よ。ここもハズレみたいだし、次のとこ行こっ☆】


「分かったのです」


 転がる死体を後にして思月と白雪は闇に溶け込む。



 * * *



 銀の鎧を着たウージャスが激しく壁に叩きつけられると、襲いかかってくるシュナイダーの攻撃を腕を出して防ごうとするが、腕の鎧もろとも噛みつかれる。


 シュナイダーを中心に風が巻き始めると体をひねり、ウージャスの腕ごと回転する。

 腕をちぎり尚も回転するシュナイダーが炎を纏うと、炎は風と一体となり銀色ウージャスを炎の渦に包む。


 燃え盛る銀色ウージャスを蹴って突き飛ばすと、地面を軽やかに駆け口に咥えた炎の剣で次々とウージャスを切り裂き炎に包む。


 散り散りに逃げ纏うウージャスを背後から襲っては、切り裂いていくシュナイダー。

 そんな彼の目に少し離れた場所を数匹のウージャスが逃げていくのが映る。


 そっちはあえて追わずに真逆に走り始めるシュナイダーがある程度進むと、突然数匹のウージャスが襲いかかってくる。

 宙を蹴りジグザグに跳びはねながらウージャスを切り捨てて、そのまま走り去る。


「ほお、これはまた目立つな」


 シュナイダーが空中を走りながら目でとらえた先には、金色の鎧を着たウージャスと、それを守るように銀色ウージャスと茶色ウージャスが囲って走る姿だった。


「こいつ当たりか? 当たりならオレにやられる方が幸せだと思うがな」


 シュナイダーが呟きながら自身の魔力を瞬間的に高め、その集団に向かって突っ込んでいく。金色ウージャスを逃がそうと向かってく者を蹴散らしながら、逃げていく集団を追いかける。


 このシュナイダーの放った強い魔力を感じ取り、その位置を把握した詩、思月、エーヴァの3人はそれぞれの行動に出る。



 * * *



 地下道から出た町と神社の間にある山の木々の間を、釣り糸を持って走るのは宮西である。肩に掛ける鞄には釣糸に限らず、ビニール紐やロープなど多種多様な紐が入っているのが見える。

 ゼエゼエと息をしながら顔を上に上げ走っては、糸を木に巻いて伸ばしていく。


 宮西のいる山の反対では、坂口が同じように死にそうな顔で糸を木などに結び引っ張っては次の木に結ぶ。


 町では哲夫と黒田がそれぞれ別れて、糸を張っていく。彼らが引く糸は詩たちのいる地下道を囲うように巡らされており、糸の端には空き缶が括りつけられていく。



 * * *



 森の中心にある高い木の上で大鎌を持つエーヴァは目を瞑り静かに立つ。

 銀色の髪が月に照らされ光を放ち、それが夜風に吹かれキラキラと輝く。


 シュナイダーの魔力が立ち上るのを感じ、うっすらと目を開けエメラルドグリーンの瞳を少しだけ覗かせ、その方向を見ると再び目を閉じる。


 カランッ 


 空き缶がぶつかる音──風が吹いて揺れただけ。


 カラッガシャカンカンッ──空き缶が激しく動き、紐が切れ落ちる音。切った主は走り去る、4足歩行の生き物。驚き走るこれは野生動物。


 カランカランッ──紐にぶつかりその音に驚き後ろに下がる複数の足音。明らかに警戒した動きに知性を感じる。そしてやつらの歩行音、歩幅の感覚……


 エーヴァが目を開き微笑む。


「見つけた」


 エーヴァは木々を飛んで渡りながら、音のした方へと向かっていく。








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