第109話:みんなで自己紹介

 流れですぐに集まることになった私たち。一旦家に戻った私は、ママにおじいちゃんのところへ行くことを告げ、シュナイダーを引っ張っていく。


 この間の事件以来、外出は厳しめになったので、きっちりママから許可をもらう。親の心配を和らげる、これは子供としての勤めであろう。

 でもまあ、危険の中心にいる私が言えたことではないけど。



 * * *



 コホンと咳払いを一つ、おじいちゃんの旧工房に集まった皆さんに向かい、この会の議長を務める美心は会の宣言をする。


「では、では、今日お集まりいただいた皆様、お互い顔も知らない、そんな方もいるでしょうから、まずは自己紹介から! 私は、『米口よねぐち美心みこ』、美心って呼んで! では、詩から、転生者組は前世ネームも宜しく!」


 なんかテンションの高い議長が、突然自己紹介をして、私たちに振ってくる。勢いで押してくる議長だ、これ!?


「私から!? 私の名前は、『鞘野さやのうた』、呼び方は詩で。

 前世ネームは、『エレノア・ルンヴィク』、よろしくお願いします!」


 無難な挨拶を終えた私はホッとする。なんか妙な緊張感がある。私が喋り終えるとシュナイダーがムクリと立ち上がる。


「オレは、『シュナイダー』。呼び方はそのままでいい。前世は『ガストン・リュング』と呼ばれていた。今はハーレムを作るため日々頑張っている。今現在、人間枠の人数6人! 24時間いつでも、新しい女の子を募集中!!」


「おい、だれかこのイヌコロ追い出せ!」「最悪なのです!」「6人って私も入ってるの?」


 女性陣からの非難を浴びても、動じるどころか寧ろ誇らしげに胸を張る男シュナイダー。やっぱりこやつは野放しにしてはいけない。

 ところで6人って……私、エーヴァ、スー、美心、黒田さん、あと1人だれ?

 ざわざわする中、優雅に挨拶を始めるのはエーヴァ。


「わたくしの名前は、『エヴァンジェリーナ・クルバトフ』。エーヴァと呼んでくださると嬉しいですわ。前世の名前は『イリーナ・ヴェベール』。詩さんと仲良くする為に転生し、ロシアから来たのですが、最近付き合いが悪いので困っているのですわ」


「何が困ってるよ! 授業が終わって恥ずかしそうに「今から勝負しませんか?」「殴り合いましょう?」なんて言ってくるヤツが、困ってるわけないじゃない! 困ってるのは私!」


 あらあら、まぁ〜、みたいなかんじで口を手で押さえるエーヴァ。無駄に上品なのが腹立つ。

 というか、エーヴァの素の性格なんて、みんな知ってるだろうに、今更なんでつくろってんの?

 イライラする私だが、スーと白雪が立ち上がるので黙る。スーはまだしも、ぬいぐるみの白雪の姿に皆がどよめく。


「スーの名前は、『思月スーュエ』。スーと呼んでほしいのです。前世は『マティアス・ボイエット』なのです。スーはエーヴァみたいに前向きな転生じゃなく、家族を殺され、罠にはめられスーも殺されて、転生したのです」


 皆が黙ってしまう。これ、なんてコメントするのが正しいのだろう……。

 そもそも、私『人生楽しみたい』、エーヴァ『エレノアと戦いたい』、シュナイダー……こいつはどうでもいいや、的なノリで転生してるのに、スーだけなんか違うんだけど。


 皆が「だれか何か言えよ」的な雰囲気の中、ウサギはピョンピョン跳ねて、自分をアピールしてくる。

 手にはホワイトボードと水性マーカーを持っている。


白雪パイシェンっていいま~す☆ 日本語読みなら『シラユキ』、もう、あなたの好きなように呼んで! 前世? 知らない♪】


 くねくねしながら、ホワイトボードに書いた文字を掲げ、喋る。

 この声、どうやら魔力の強弱で音を出しているみたいで、私たち転生組にしか聞こえていない。

 ちょっぴり影のあるスーに対して、底抜けに明るい白雪。バランスはとれているかもしれないけど、この声は聞こえなくていいかもしれない、耳がキンキンするから。

 そもそも、なんであのぬいぐるみ動いてんの? 試しに突っついてみたが、本当に綿の入ったぬいぐるみなんだな、これが。


 そんな中、咳払いをし自己紹介を始めるのは、私のおじいちゃん。


「わしは、『鞘野さやの哲夫てつお』、詩の祖父ですじゃ。好きに呼んでくれたらいいわい。武器担当ってことになるのかの」


「えーと、じゃあ次は私ね。黒田くろだ尚美なおみZゼットビジョンTVの、報道広場って番組に出ているアナウンサーやってます。

 今は病欠中ってことで、ちょっとお休み中。

 呼び方は尚美の方が呼ばれ慣れてるんで、そっちでお願いします。じゃあ次君!」


 おじいちゃんの後に間髪入れず、尚美さんが自己紹介を始め、宮西くんを指差し指名する。


「え、僕、名前、宮西みやにし雅明まさあきです。呼び方は宮西でお願いします。よろしくお願いします」


 無難にまとめた宮西くんに続き、坂口さんが前にズイッと出る。


「最後は俺か、坂口さかぐち貴行たかゆき。坂口と呼んでくれ。宇宙防衛省で働いている」


 ここにいる全員の自己紹介が、終わったのを受け、美心は宣言する。


「えぇ~、哲夫おじいちゃんに尚美さんと、坂口さん、宮西と私。直接戦う力はありませんが、詩たちのサポートを全力でしていこうかなと、話合いの結果そうなりましたので、お伝えします」


 少し恥ずかしそうに宣言する美心。


 いけない、ちょっと泣きそうだ。前世でも助けてくれた人は沢山いた。

 ただ今世においては、魔物なんていない世界、そんな中でも強力してくれる人たちがいるってこと。これがどんなにありがたいことか。


 ジーンとしているのは私だけではなく、残りの3人も同じだと思う。

 そんな感動を持って、今後の具体的な話し合いが始まるのだった。


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