第103話:作戦会議

 黒田さんが言うには下水道から通じる場所があってその先に街を見た人がいるらしい。


「一ヶ月くらい前かな? 街っていっても板やら何かで家を作ったような跡があったって話なんだけどね。住人とかはいないし生活をしたような痕跡もない。家を作ってみようって感じの場所があったって噂」


 家のない人が住もうとしたなんてことも考えたがあんなに臭う下水道に住むことはあまり考えにくい。住むとすれば犯罪者的な人か人間外の方が確率は高いだろう。


 集団で動くウージャスの群れ。今までの傾向から分裂するタイプ。これは本体を叩けば分裂した個体も死んでしまう。どんな仕組みかは知らないけど。

 今のウージャスはノーマルタイプ。これは普通にゴッキーを巨大化させた個体。それと鎧タイプ。外骨格が固く変化したものと思われ茶色の鎧を装備しており、武器を持っていたり腕が人間みたいなタイプで格闘向きなやつなど個性がある。


 これらが進化の模索だと仮定してウージャスは元は個体であるが分裂し役割を与えているうちに宇宙人としての個体でなくウージャスという新たなしゅを産み出しつつあるのかもしれない。


「黒田さんの情報が今一番役立つかもしれないからこれにかける。いい?」


 全員を見ると反論する人はいないので話を続ける。


「あくまで仮説だけどその街がウージャスが住むために作ろうとした跡なら、私たちが初めてウージャスに出会った時期を考えて何らかの住みかを作っていると推測出来る。

 でこういった下水道みたいに道が枝分かれするとこに大将が隠れるっていったらどうするよシュナイダー?」


「オレか? ああそうだな。盗賊とか逃亡中の国賊が逃げた場合ってのは何ヵ所かに住みかを分け時間や日にちをずらしながら移動して悟られないようにするんじゃないか? あくまでもオレの経験からだとな」


 さすが変態でも元王国騎士団に所属し冒険者になった男だ。こういったドブさらいみたいな仕事はエーヴァより私たちの方が詳しい。

 思月はだれか分かんないから聞かないしウサギは存在そのものが分かんないからもっと聞かない。


「そっ、つまりこいつらは複数の根城を持っていてどこかに大将がいる可能性が高いってこと。後は場所の目星がつけばいいんだけど」


 悩む私におじいちゃんが話を繋いでくれる。


「さっきわしが見た感じなんじゃが、やつらそんなに加工技術とかはないと思うんじゃ。鉄の棒を石やら地面で荒く削った武器。それにこの棒も人間が作ったものを拾って来ただけじゃ。

 おそらく根城を作るといっても穴を掘ってその空間が崩れないように補強する技術なんて持ち合わせておらんじゃろうから元々ある大きな空間に作るはずじゃ。この下水道の地理が把握できれば目星がつくやもしれん」


 ここで眼鏡の右目が割れた宮西くんが嬉しそうにポケットから紙を取り出してくる。ごめん宮西くんさっき投げたとき眼鏡割れた?

 でもすごく興奮しているので後で謝ろう。片目が割れた眼鏡で笑う人ってなんかちょっと怖いし。


「前に下水道での戦闘したときに今後のことを考えて地図の情報を更新したんだ」


 そう言って取り出す小さいながらも大量の紙。いったいどこから取り出した?


「おいこれ個人が持っていいレベルの地下の地図じゃないだろ。送電の位置や公共の施設、こっちなんて領事館の、っていたっ!」


「うるさい、今そんなことどうでもいいでしょ。この子達に協力しなさいよ。ごめんね話続けよっか」


 宮西くんの紙を見て不満そうな坂口さんの背中を黒田さんが叩いて遮ると宮西くんに話を促してくれる。なかなか理解力のある大人で助かる。


「これ地下の下水道と送電線やインフラ関係の配管の通り道。こっちは地下街や地下鉄とか地下道。推測だけど人間にまだ姿を見せていないことから目立たない場所である程度の広さが確保出来るってあんまりないと思うし、最近電波障害って確認されていないんだよね、それらを考慮すると──」


 宮西くんがこれまたどこから取り出したか分からない赤ペンで地図の街や地下街から外れた山と街の間に丸をつける。よく見ると点線が薄く見える。


「へえ~これってあれじゃない。昭和に地下街を作ったときにあっちの山にある神社までの参道を地下に作って雨に濡れずにお参りしようって計画があって頓挫したところでしょ。

 さらに隣の街まで繋げようって計画もあって穴も途中までしか掘っていないけど枝分かれしてるはずだし封鎖もされている。隠れるにはうってつけかも」


 黒田さんの補足でこの丸の場所にいる確率が高くなった。


「よしっ、じゃあここへ向かおう。えっと思月ちゃんとそこの白雪も行く?」


「はいなのです。ただスーと白雪は一緒じゃないと戦えませんから実質4人で考えてほしいのです」


「そうなの? まあいいや。この地下に向かうもの3人と地上に待機が1人でいこうか。地下は私とシュナイダー、さっきの戦闘スタイルから判断して思月と白雪でいこうか。エーヴァは外をお願い」


「ああ、あたしの能力だと地下崩壊させる可能性があるし獲物も大きいから外の方がいいだろ」


 エーヴァも了承してくれ思月ちゃんもコクリと頷いてくれる。後は出発するだけだ!


「あ、あの……」


 ここで坂口さんがおもむろに手をあげみんなの注目を集める。


「えっと、喉乾いてないかな? ジュース買おうって思うんだけど何か飲まないかなあと」


 なんだろ、坂口さんすごく気を使ってくれているのが分かる。この作戦会議で発言できなかった分ちょっとでも役立とうという尊い精神。所謂社畜精神を感じる。


 意見がなければ「ない」で良いのにね。


「私、コーヒー微糖!」

「あたしは紅茶」

「スーはお茶でいいのです」

【白雪は湿気るからパスっ☆】

「女性のなみ、きゃん!! 水です」

「わしもお茶」

「え、あのぼくコーラ」

「私ねブラックのコーヒー」


 同情はするが遠慮はしないぞ坂口さん。

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