第102話:噂に詳しい人

 宮西くんをおぶってエーヴァの魔力を感じた方へ向かう。その道すがら安全な場所があればそこで降ろせばいいし最悪なくてもシュナイダーに乗せて縛り付けておけば問題はないだろうと考えてのことだ。


 シュナイダー燃えたりするけどその辺は考慮してくれるはずだ。あいつは変態だけどバカではないはず……はずだよね?


 さっきから背中に顔を埋めて必死にしがみつき静かな宮西くんを早く降ろしてあげようと急ぐ。小刻みに震えているのは怖いからだろうか?


「あれ? 車の音がする。ウージャスに追われているとか?」


 私から少し離れたところで聞こえる車の走る音が気になりそっちへ進路を変更する。


「そういえばさっきから車の音とか聞かないよね。もっと逃げる車とかで渋滞とかありそうなものだよね」


 私の素朴な疑問を聞いていた宮西くんが勢いよく顔をあげなんか赤い顔で話し始める。説明したくて興奮状態なのだろうか。


「宇宙人が出現すると電子機器に不具合が起きるって仮説があるよね。あれを基に考えると今の車ってエンジンをスタートさせるときから気温やエンジンの温度を考慮した上でのプラグの点火、車内の温度の管理によるエアコンの温度調整から電子制御の塊といっても過言じゃないんだ。走行中もスピードや路面状況の把握によるサスペンションの自動調整における乗り心地の維持、それに燃費効率を考えたギアー比からエンジンの回転数をおおおおっ!!」


「ごめん、ちょっとそこにいて」


 暗闇を切り裂くようにライトを照らし走っていたピックアップトラックを見つけた私は縁石を蹴り大きく跳躍するとすれ違いざまにトラックの荷台に宮西くんを投げる。荷台に転がる宮西くんだがトラックの荷台には男の人がいたのが見えて転がった宮西くんを起こしてくれているから大丈夫なはず。


 トラックを追いかけていた1匹のウージャスの頭を後ろから朧で思いっきり殴り前方に転がすと宙に『火』を描きその魔方陣に朧を通し炎を纏わせ倒れるウージャスの背中に刃のない先端を無理矢理突き立て燃やす。

 そのまま宙に『剣』を描き引き抜いた朧を分割し魔方陣に通すと2本の刀を作り出す。


 ぐっと屈んでバネが弾けるように飛びあがると上から襲ってきていたウージャスの胸元に刀を突き刺し地面で燃えるウージャスへ向け叩きつける。

 見た目テカテカしているからかは知らないけど2匹ともバチバチとよく燃える。臭いは最悪だけど。


 気配が消えたのを確認してトラックの方へ向かうわけだがこのトラック見たことあるんだよね。それに私が今手に持つ武器『朧』と思月とウサギが言っていた「おじいちゃんに頼まれた」ってことを考えれば答えはもう出ている。


 停車しているトラックの運転席に向かうと割れたフロントと運転席のガラスの隙間から見慣れた人が顔を覗かせる。


「おじいちゃん、こんなとこ来たら危ないでしょ」


「まあそう怒るな。可愛い孫が戦っているんじゃ。助けたいって思うのはじじい心ってヤツじゃ」


「まあ助かったのは事実だけどさ。あれ? そちらさんは?」


 助手席にいる見慣れない顔の女性を見つけ訪ねるとおじいちゃんが紹介しようとするより先に荷台に乗っていた男の人が飛び降りてきて私を掴もうとするので思わず蹴ってしまう。


「うごぉっ!?」


「あ、ごめんなさい。なんか反応しちゃった」


 苦しそうに座り込んでお腹を押さえる男の人に助手席に乗っていた女の人が近付くと頭をパシッと叩く。


「いきなり女の子に飛びかかるとか変態ですか? まずは挨拶からですよ。えっとごめんね私は黒田尚美くろだなおみっていうの。ほらっ」


 男の人がお腹を押さえ苦しそうに立ち上がる。かなり手加減したんだけど鳩尾みぞおちに入ったしまあ痛いだろう。


「うっ、坂口さかぐち貴行たかゆきです……あのきみは今まで天狗だったり猫だったするっ──」


「そうそれ! 私も聞きたいの! あなたこの猟奇殺人の現場で現れる噂の女の子なの? なんでも仮面を被った女の子が颯爽と現れて化け物を倒し、しかも仮面はいつも違うって話で100の仮面をもつ者とか言われているの!

 この事件ってなんでか画像や音声なんてものが一切ないから目撃情報だけが頼りなのよ。

 で? で? どうなの?」


 なんじゃ『100の仮面を持つ者』って、噂とは適当なものだと改めて実感する。それにしても坂口さんって確か家に来て名刺置いていった人じゃないっけ? それに黒田さんもなんか見たことあるぞ。


 じーーっと見つめる


 髪は明るい茶色で短くカジュアルショートと言ったところか。なにか物足りなさを感じイメージで頭にヘルメット被せてみる。


「あぁ!? 黒田直美ってZゼットビジョンTVの報道広場に出るアナウンサーの人だ! この間公園の近くで起きたガス爆発事故のレポートしてた人で合ってます?」


「公園? ああ、あれでしょ。ジャングルジムの棒が飛んできて車を突き抜け家の壁に刺さったやつでしょ。レポートしたした。あんなの絶対ガス爆発じゃないじゃんって思いながらレポートしたから覚えてる」


 世間は狭いものである。まさか私がイタチを倒すために投げたジャングルジムの棒がこんな共通の話題を与えてくれるとは。いや正直には言わないけど。


「ちょ、ちょっと、俺を置いていかないでくれると助かるんだがうおっ!?」


 ここで坂口さんが参戦しようとするが突然足を引っ張られ転けそうになる。ズボンの裾を引っ張るシュナイダーの仕業である。


「そちらの女性を守りとっと逃げろと言っただろう! 少しは骨のあるやつだと思って任せたらとんだ期待はずれだ。おっと麗しきお方ご無事でしたか? 怪我がないかお調べいたしましょう。服をぬいっ!?」


「おい、イヌコロ話がめんどくさくなる、黙れ」


「はい、イヌコロ黙ります」


 シュナイダーの頭蓋骨がギリギリ音を立てるほど握るエーヴァの一言でイヌコロさん沈黙。そしてエーヴァさん肩に担ぐ大鎌がよく似合ってらっしゃる。


 音も立てず歩いてくる思月ちゃんとペタペタ歩いてくる白雪。って普通に歩いてきて【久しぶりっ~】と手を振ってくるウサギのぬいぐるみは普通に怖い。


 なんだか一気に賑やかになった。そんなことを思っていると。死神エーヴァさんが一言。


「おい、詩。お前が仕切れ」


「なんで私よ」


 エーヴァの提案に驚く私にエーヴァは続ける。


「この中でお前が一番顔見知りが多いからお前が適任だろ」


「ちぇ~今だけだよ。仕切るのとかあんま好きじゃないし」


 文句を言いながらもこの状況を打破するために時間をとっていられないから渋々了承する。後で知るのだがこのときの知り合いの数、実はエーヴァの方が多いのである。


「色々お互いのこと知りたいとこだけど今はその時じゃない。このウージャス、えっとゴキブリ型宇宙人の本体を見付ける方法を探したいの。

 このまま地味に探していては時間がかかりすぎる。なにか良い案とかない?」


 シュナイダーの鼻はウージャスの臭いが強すぎて使えないこと、転生組みの察知能力も戦闘向きで索敵には向いていないことを考え宮西くんやおじいちゃんに期待したいとこである。

宇宙防衛相の坂口さんも肩書きだけならなんか知ってそうだし。


「はい、噂ではあるんだけど手がかりになるかも」


 手をあげたのは黒田さん。予想していなかった人物にビックリだ。みんなが注目するなか黒田さんが話してくれる。


「下水道の奥にね。街があるって噂なんだけど──」

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