第98話:ウサギのお届け物
外に置いてきた宮西くんがちゃんと逃げたか心配になった私はビルから出たとき飛んでくる物体を感じ避けると地面に石や包丁がぶつかり転がる。
出処を探すと向かいのビルの上から投げてくるヤツがいるのが確認出きる。ここまで見つけ易い位置に陣取るということは、私を誘っているか逃げる自信があるか、もう一つ!
上からくる茶色の物体の攻撃を避けると蹴りを腹部に入れ地面に転がすと別のヤツの攻撃を避け顔面にドロップキックを入れ後ろに飛ばしながらその反動を利用し私は間合いを離す。
「たくぅ何でゴキブリってヤツは涌いて出てくるかな」
目の前に転がったウージャスを見てうんざりな私の気持ちなんて関係ないといったように向かってくる2匹のウージャスの攻撃を避けるため移動しようとしたとき、上から投げつけられる物体を蹴って弾いたせいで間合いの取り方が浅くなって2匹の攻撃を防ぐだけで精一杯になってしまう。
1匹の蹴りをしゃがんで足払いで転けさせると上向きに描く『刃』の漢字に触れ風の刃をもう1体に放つ。胸元から茶色い体液を噴き出しながらよろけるそいつに向かおうとしたとき後ろからの空気の揺れを感じ真横に跳ねるようにして逃げるとさっきまで私がいた場所に太い鉄の棒を4本の腕に持つ鎧を着たウージャスがいた。
鎧を着ているのも他との明確な違いだが4本の腕は虫の腕を太くし人間の腕を模した形をしている。3本の指みたいな先端にあるのがとても気持ち悪い。
「へえ~ウージャスにもなんか種類だか階級があるんだ。嬉しくない情報だけどさ」
4本腕のウージャスが4本の腕を振り上げ向かってくる。その横から2匹のウージャスが襲いかかってくる。
手早く描く『剛』により自身を強化しウージャスたちの攻撃を受け流し1匹を蹴って逃げ道を作ってそっちへ踏み込もうとしたき上から投げられ物体。
それで動きがワンテンポ遅れる。追撃してくる4本腕のウージャスの攻撃を防ぐことになってしまう。
「なかなか連携とれてんじゃん。今度からゴキブリ見たら全力で潰すことにする」
皮肉を言いながら攻撃を避け4本腕のウージャスに放つ私の拳を横から出てきた手負いのウージャスが顔面で受ける。
「なっ!?」
一瞬驚く私の隙を狙い4本腕の鉄の棒が襲ってくるそれを手と足で体を守り受け止めるがよろめいてしまう私の腹部にもう別のウージャスの蹴りが入り飛ばされる。
地面を受け身を取りながら転がり倒れる私に向かって上からキラキラしたものが上から降り注がれる。
慌てて起き上がってダッシュで逃げると割れたガラスが次々と落ちて地面で弾ける。上を見上げるとビルの側面に張り付いたウージャスが移動しながらガラスを割り落としてくるのが見える。
一枚のガラスを割ると尖った破片を投げつけてくる。
「これは地味にきついねぇ。まっ全員倒すけど」
日も落ちて暗くなった街で目の前に対峙する3匹のウージャスと上をチラッと見るとビルの側面に張り付くウージャスが確認できる。
「ん?」
ウージャスの張り付くビルの屋上に人影が見える。よく目を凝らすと小さな女の子がビルのギリギリに立っている。
空に浮かぶ月は満月から欠け始め
その予感通り、女の子はふらっとバランスを崩すようにビルの端から落ちてしまう。それを見て焦る私はウージャスの攻撃を避けそっちへ向かって全力で走しる。
助けれるかは分からないけど魔法を使えばどうにかなるかもしれない、と思った瞬間女の子はビルの側面に足をつけると走り始める。
唖然とする私の目の前でビルの側面を駆ける女の子は同じくビルの側面にいるウージャスに向かっていく。側面のウージャスも上からくる女の子に気がつき避けようと移動するが、女の子は少し跳ねて壁を蹴ると更に加速しジグザクに移動しながら逃げるウージャスを捉える。
ビルの側面を滑りウージャスの腹に足を入れるとそのまま腹に足をのせ一緒に落下していく。
落ちる瞬間に青白く光る鋭い魔力が立ち上る。一瞬の強い魔力は外に拡散することなく内へ内へ向かって放たれ直ぐに消える。
駆け寄ると腹を地面にめり込ませ真っ二つに折れるウージャスの上に立っている女の子は黒い髪を夜風になびかせ満月のような金色の光を放つ丸い目で私を見てくる。
「あなたが鞘野詩であってるのですか?」
「え? あ、うん」
「スーは
【はいはーい! 可愛い私を呼んだかな?】
ビルの影からウサギのぬいぐるみが顔を出すと荷物を抱え何にかを引きずってこっちへ歩いてくる。
「ぬ、ぬいぐるみ!? しかもなんか軽い感じで喋ってるし」
【んん!? あなた白雪の声聞こえるの??】
いきなりズイッと寄ってくるウサギのぬいぐるみ。思月と名乗った女の子と同じ大きさのぬいぐるみは表情が全く変わらないので不気味である。
なんでぬいぐるみが動いているのか今は追求しない方がいいのだろうか。困惑しながら頷く私の手を取って喜んでいる? 白雪とやら。
【わ~マジでヤバイわ~!? スー以外に声が聞こえる人がいるなんて白雪マジ感激☆】
「白雪、折角助けた人を落としてどうするのです。それに鞘野詩に早く荷物を渡してあげるのです」
下を見ると白雪が引きずってきたものが転がっている。よく見ると宮西くんだ。
目を回して気絶しているであろう宮西くんは放置したままで白雪が肩にかけていた鞄を渡してくれる。
【おじいちゃんから詩ウタっちにって☆】
「ウタっちねぇ……軽いねなんか」
肩をすくめウインクをした感じを出す白雪の軽いノリに更に困惑しながら受け取った鞄を開けると出てくる2本の鉄で出来た木刀のような形をした物。刀よりは分厚く見た目は鉄製の木刀なので鉄刀とでも呼ぼうかな。因みに刃はないので切ることは出来ない。
鉄刀の持ち手は大小があり、大きい持ち手の方は中が空洞になっていて小さい持ち手の方がスッポリ収まるようになっている。
持ち手と持ち手を合わせ差し込むとカチッと音がしてロックがかかり1本の棒になる。
鉄刀の背を見るとくり貫いてあり薄い鉄の板が3重になって収納されている。その板を引っ張り出す為のピンが確認出きる。
この間見せてくれた設計図通りの武器。
「流石おじいちゃんいい仕事するね」
武器を構える私に思月が出てきたことで警戒して様子を見ていたウージャスが更に警戒を強め構える。
「スーはもう一人に荷物を届けないといけないのでこれで行くのです。また後で」
【ウタっちまたねぇ~】
それだけ言って去っていく思月と白雪。
「うん、ありがと! また後でね!」
振り返らずお礼を言って私はウージャスに突っ込むのだった。
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