第97話:大技を出したくても条件厳しめなんだよね
睨み合いお互いの出方をうかがう私とオケラ。カナブンと戦ったときも思ったけど前世における虫の魔物って本当に虫を巨大化させたような感じで生きる意思はあるけど本能的な動きをする生き物だった。
だがコイツは意思を感じる。しかも相手を倒そうってだけでなくこの戦いを楽しんでいるような何かを。
オケラが口の中で石を砕き飛び散る石礫を私は風を起こし受け流していく。そして風弾を撃ちながら横を駆け抜け逃げる。
廊下を全力で走り角を曲がると2階へと階段をかけ上がる。こういった場合私に有利になる物や場所を求め逃げるか、シュナイダーやエーヴァを見つけ手伝ってもらうのが最善策であると判断した上での逃げの選択。
「おぉ! これはいけそうじゃん」
逃げながら見つけた『調理室』と表示してある部屋のドアを蹴り破ると中へ入る。
電気がついていないから薄暗いけど中は調理実習室みたいに調理実習台が複数設置してあり各台に流しと調理場があるのが確認できる。
取り敢えずあちこちに漢字を描きながら引き出しやら戸棚を開けて武器になりそうな物を見繕う。
そうこうしているうちにすぐにオケラも部屋に入ってくる。人間が通るドアを強引に壁を破りながら入ってくるオケラに『鋭』を描いた数本の包丁を投げていく。
硬い外骨格にほんの僅かに刺さる包丁の1本がポロリと下へ落ちるとオケラの足元で光る『火』 燃え上がる炎に包まれるオケラに向かって『鋭』を宿した包丁に『刃』を通し『
より鋭くそして速く飛んでいく包丁はドスッ! と鈍い音立て炎の塊をのけ反らせる。だがオケラは羽を勢いよく広げ風圧で炎を舞い上げ掻き消してしまう。
中から現れる額に包丁が刺さり少し焦げたオケラ。
ダメージはあったみたいだが刺さった包丁から血とか出ていないところを見ると外骨格の外側にしか刺さっていないってことだろう。車も突き破る『鋭刃』なのにどんだけ硬いんだあの頭。
口を開け石の弾を発射してくるオケラの攻撃を調理実習台の合間を縫って避けていきながら台の下にある開き扉を開け物色する。
「これはいいじゃん! 使えるっ!」
私は大きな中華鍋を手にすると鍋底に『剛』を描きそれを持ってスライディングしてオケラの真横に出ると相手も私が近づくのを待っていたのだろう口の中で石を噛み砕き散弾の石を撃ってくる。
それを『剛』で強化した中華鍋で弾くとそのまま真横に振って殴るとバァン!! といい音を立てオケラの頭が振れる。中華鍋を投げつけて次に両手に持つのは同じく『剛』で強化した大きなフライパン。
「斬撃に強いなら打撃! これ基本!!」
フライパンで息つく間も与えず頭を上下左右殴りながら額に刺さる包丁の柄を叩き刃を押し込んでいく。その包丁を中心にヒビが入る外骨格を見て更に攻撃を加えていく。爪で応戦してくるがフライパンで弾きながら一方的に私が殴る。
左から殴って右に反れる顔を包丁の柄に向かって振り下ろしたフライパンによって刃がはグッと奥に入り薄茶色い液体が溢れ始める。それに合わせ頭の外骨格にヒビが入り始める。
もう少し攻めたいところだが強化しているとはいえフライパンもガタガタに変形しているし、持ち手の継ぎ目が外れかかって使い物にならないのでオケラに向かって投げる。
そのまま近くの調理実習台の影の滑り込み戸棚を開け別のフライパンを取り出す。
フライパンに『剛』を素早く描くとオケラに向かうが相手もバカではない。カサカサと動きながら間合いを取り始める。
ヒビの入った口を大きく開け石の弾丸を飛ばすそれを避け踏み込みフライパンを振るうが空を切り逃げられる。
逃がすまいと私も間合いを取りながら引っ張り出していた鍋を真上に蹴りあげるとサッカーボールのようにしてオケラに向かって蹴る。
何も強化していないので威力はないがオケラに強化しているものとしていないものの違いは分からないので避けてくれる。
連続で蹴り飛ばす鍋に混ぜ包丁やフライ返し、お玉なんかも混ぜ投げていく。
頭に結構なダメージを与えたつもりだったが相手も必死なのだろう素早く避けていき私との間合いを広げていくがそれで良し。
大きく『風』の漢字を宙に描き膝で魔方陣を蹴りながら調理実習台に飛んで上ると魔方陣を中心に円を描き広がる風の刃は各台の上部を輪切りにしながら部屋全体に広がって壁にぶつかり線を刻む。
風の刃が通った後にシンクにある根元の切れた水道の蛇口から勢いよく吹き上がる水。その水は床にみるみる溜まっていく。
両腕に小さなナイフの刃をあて交差しながら切ると勢いよく流れ出す血は腕をつたい床に溜まった水に落ちていく。
両手に持った新たなフライパンを構え振るが寸前で避けられる。水も得意なだけあってなかなかいい動きをする。
フライパンで水を掬い水飛沫をあげ攻撃を放つがことごとく避けられる。
攻撃は避けられたが私が撒いた水飛沫と動いたことによって水をかぶったことで体から水をポタポタと滴らせるオケラ。
「頃合いかな、じゃあいくよ! 水が流れず大量にあるとこしか使えない大技! 多分いけるはずだから覚悟しなさいよ!」
先ほどオケラに攻撃しながらフライパンの先端で床に描いた『氷』の漢字を踏むと文字を中心に凍り始めオケラも全身に
凍ることに抵抗しようと力を入れているようだがガクガクと体を震わせるだけだ。
それを見ながらフライパンの裏に『華』を描く。この漢字だと分かりにくいけど鏡文字で描く。
「あんたは私の血が混ざった水を浴び、おそらく口や傷口から体内にも取り込んじゃったわけだ。
これの意味することはサヨナラってこと」
フライパンの裏側で思いっきりオケラの頭を叩くと裏に描いた漢字『華』が頭に
「『
オケラの表面の氷が形を変化させ外骨格のヒビを割り外皮を切り裂きながら外側に氷の花弁を伸ばし、内部にあった血の混ざった水分も反応し内側から鋭い氷の花弁が体の柔らかい部分を突き破り伸びて大きな一輪の氷の華を咲かせる。
中心に体が引き裂かれボロボロのオケラがいなければ綺麗な氷の華である。
「ふぅ~こっちの世界でも自然現象は同じだから助かったぁ~。現象の名前と漢字を勉強したあの日の私に感謝だね」
氷の華を後にして私は外へ向かう。
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