第96話:たまにいるんだよね、こういう人

 オケラのタックルで吹き飛ばされた私はビルの大きな窓ガラスをぶち破り中にあった机や椅子を巻き込んで派手に散らす。

 転がる勢いを利用して起き上がり両足を踏ん張ってブレーキをかけると同時に気配を探ると私の方に向かってくるのを感じる。

 これで宮西くんの方へ向かうと急がなくてはならなかったが私の方なら好都合。


 机を蹴っ飛ばし向かってくるオケラにぶつけつつ右に回り込むと『火』『弾』を描き『火弾びだん』を撃ち込む。

 それを突進してきたオケラは身を低くしながら急ブレーキをかけ横滑りしながら旋回し火弾を避けるとカサカサと大きな音をたてながら足をバタバタさせ爪を開いて向かってくる。


 とっさに宙に『剣』を描き風の剣を作り出すと私から見て左の爪を弾きそちらに転がって避ける。

 風で作る剣は5秒も持たずに霧散する。これは私の使う『艶麗繊巧えんれいせんこう血判けっぱん』の物質の形成を固定する力の差によるもので風(空気)は1番低いので突発的にしか使えない。

 ただどこにでもあるのでいざってときに使いやすい。


 と解説している場合ではない! 避けられたオケラは羽を広げ強引に停止すると向きを変え大きく口を開ける。

 羽を広げ足を踏ん張り体に力を入れ大きく開いた口から高速の何かが発射され飛んでくる。


 ギリギリ反応できた私が避けるとビルの壁に直径20センチほどの穴が空いているのが見える。何が飛んできたかを確認する間もなく次々と口から発射される大きな塊。

 私は走って避けながら散乱したテーブルやら椅子の影に隠れる。


「なによあれ? オケラってあんな攻撃してくんの? 宮西くん言ってなかったじゃん」


 影に隠れ文句を言う私はオケラの様子を窺うと大きな爪をビルの床に振り下ろし粉砕すると口を大きく開きバリバリと食べ始める。


「石を体内に取り込んで弾丸として射出してるってところかな。タネが分かったところで対処方は思い付かないけど。あっ!?」


 弾の補充が終わったのか私の隠れている方へ向かって口を開けるオケラ。どうやら場所はバレていたらしく弾補充のためにわざと気付かない振りをしていたということか。


 机や椅子を貫き、さっきまでいた場所に大きな穴ができその中心に丸い石が見える。コンクリートの床に穴を開ける弾丸を食らったら流石にひとたまりもない。


 周囲にある棚やら机やらを蹴り飛ばし距離を保ちつつ部屋から逃げ廊下を走る。


「あ~無理無理、なんなのあの飛び道具はまったくもぉ~」


 激しい衝撃音がしてドアを壁ごと突き破りオケラも廊下に飛び出てきて私の方へ向かって走ってくる。

 さっきの石の弾が飛んでくるかと思ったけどそれがないところを見るにあれは止まっているときにしか撃てないものかもしれない。まだ結論付けるには早いけど。


 廊下の角を滑るように曲がると近くにあった消火器を拾い『弾』『速』を描き追ってきたオケラに投げつける。弾丸と化した消火器は加速しオケラの頭にぶつかるとオケラはのけ反って壁に激突する。

 ちょっとはダメージがあるみたいだ。さらに走って逃げ距離を離した私は床に大きく『水』を描き水を発生させ素早く『流』を描く。

 ガサガサと廊下を音を立て向かってくるオケラの足音がバシャッバシャッに変わったと同時に私は『流』を踏み壁に向かって跳ぶと壁を駆け上がり天井を蹴ると流れる水に足をとられるオケラの背中に飛び乗る。


「おとなしくしなさいよ!!」


 羽をバタつかせ体をねじり暴れるオケラの背中に直に描く『火』の漢字を叩いて吹き飛ばされる。


「いたぁあ!!」


 壁にぶつかりながら頭を擦る私の前で体を火に包まれ燃え暴れるオケラ。間髪いれず『風弾かぜだま』を撃ちダメージと火の勢いを上げる。燃え盛る炎消そうと下にある私が出した水に転がり始めるオケラ。


「だよね、そうきちゃうよね!」


 水を踏みつけると発動する『糸』の漢字が光り無数の水の糸となり周囲に張り巡らされ体の一部が燃えるオケラが吊るしあげる。

 素早く『弓』『矢』を描き水の矢をつがえ矢を放つ。


 オケラは強引に水の糸を引っ張り引きちぎっていくと矢を避けながら空中で口から石の弾を吐き出してくる。

 避けながらもう一本矢を放つ。左肩ギリギリをカスる石の弾によって血が散る。


 その血に手を突っ込み手を真っ赤に染めると素早く宙に『雷』を描く。


 未だ残る水に雷撃を通すつもりで鋭く走る雷をイメージしながら魔方陣に触れようしたときオケラの口からガリッ! っと音が響く。


 前世の分含めて今まで生きてきた経験からくる勘。雷のイメージを変え細かく広範囲に走らせる。


 オケラの口から砕かれ散弾のように散る石礫いしつぶてと網のように走る雷がぶつかり互いが弾ける。


「ぐっ!」


 細かい石が手足に刺さり痛みが走るがオケラも多少は雷を受けのけ反っている。後ろに飛ばされそうなのを耐えながら拳に『剛』を描いて前に足を踏み込みその拳を振るう。

 羽を広げるオケラに再び感じる嫌な予感に手を引き後ろに倒れながら下がりながら転がって素早く立つと目の前にオケラの背中で交差する羽。

 その羽の交差した部分は刃のように鋭尖っている。


「さっき背中に乗ったときは無かったよね。お得意の進化を静かにやるタイプなんだ」


 ジーージーーッと鳴き始めるオケラ。


「なに言ってんのか分かんないけど感覚的に分かる。あんた戦いが好きなタイプでしょ。自分を高めて喜びを感じるタイプ」


 オケラが鳴くのを止め前足の爪を大きく開き構える。


「図星か……いやになっちゃうね」


 愚痴りながらも構える私は次の一手を思考する。


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