潜る!潜る!
第88話:告白
私は今激しく困惑している。なにがって目の前にいる男の子と言っても私より先輩なので年上であるその人を目の前に困っているわけである。
ことの発端を説明しよう。いつもの朝私は美心と学校へ行った。校門の前でエーヴァと出会って下駄箱から上履きを取ろうとしたとき日頃ないものがあった訳である。
「なんだろ?」
手に取る長方形の便箋。後ろは四つ葉のクローバーのシールで閉じてあり右下に小さく『鞘野 詩さまへ』の宛名が書いてある。
「そ、それって!?」
口を押さえ顔を赤くして興奮する美心。その横で冷めた目で見るエーヴァ。
「それが日本で有名な果たし状かしら? わたくしも何度か送ったものですわ……全部無視されたけどな」
「ああ、あったねそんなこと。渡されて速攻投げ捨てたもの。ってことはこれって果たし状!? 最悪!」
「んなわけあるか! どこに学校で果たし状を寄越すヤツがいるっていうのよ!」
指で果たし状を摘まむ私の額にチョップを食らわせる美心が怒鳴る。
「いい? これはラブレター! もしくは恋文! または
はあはあと荒い息で肩を上下に揺らし怒ってらっしゃる。なんか取り繕わないといけないと思い便箋を掲げ驚いた顔をする。
「へえ~これがラブレターってやつなんだ初めて見たよ」
「ですわね」
私とエーヴァが興味深く見ていると美心が私たちの肩を押して割り込んでくる。
「あぁ~もー早く開けてよ! 気になるじゃん!」
貰った私より興奮している美心に急かされ開封してみると
『放課後校舎裏庭で待っています 山岳誠』
と書いてあった。
「へえ~ へえ~。今時ラブレターってのも古風な感じだけど逆に良いかもね。さんがく? やまがく?……ってだれだろ?」
なんか浮き足だって楽しそうな美心を置いて私とエーヴァは手紙の文面を改めて見る。
「なあ、やっぱ果たし状じゃね? 日本の風習で学んだんだけどよ、気に入らないヤツは裏に呼び出すんだろ? で正面から勝負したいときは表に出すんだってさ」
「あんた何を学んできてんのよ。でもまあ、校舎裏にこいって果たし状っぽいよね」
校舎裏を思い出してみると木と草しかなくて日当たりもあんまりよくなくてじめっとした場所だった気がする。
あんなところに呼び出すってどうなんだろ? 前世だと治安の問題からよっぽど信用した男じゃないと女1人で路地裏についていくなんてことしないんだけどな。それを手紙1つで呼び出されてそこにいくのは女性にとってはかなり難易度が高いものだ。
こっちの世界の男は魔法とか使ってこないだろうけど用心に越したことはない。チラッとエーヴァを見ると私の意図を読んだのかゆっくりと頷いてくれる。
(その男が変な動きしたら砕いてやる)とでも言ってそうな目が頼もしい。
私たちが相手の男を倒す算段を思い描いていると下駄箱に寄りかかり腕を組んだ女子がニヤリと笑いビシッと指を差し声を掛けてくる。
「詩さんよ、情報がほしいんじゃないかい?」
「
彼女の名は
「ほしい! いくらいるの?」
なぜか食い付く美心。
「そうだね、今日の英語の宿題写させてくれたら考えてもいいよ」
「くっ、仕方ない。詩のを写させてあげる。ついでに私も写すから」
「ただ宿題写したいだけじゃん。まあいいけどさ」
「契約成立っ!」
「さすが詩! 頼りになるぅ♪」
美心と春香に手を握られ感謝される。これって私は全く得していない気がするんだけど、そして美心は得しかしていない気がする。
そんな不満を持ちつつ春香の情報を聞く。
「
「はあ、春香はどこからそんな情報を仕入れるわけ?」
人差し指を立て横に振りながらチッチッとニヒルに笑う。
「それを教えたら私の飯のタネがなくなっちゃうじゃん」
女子高生が情報に飯のタネを求めているってなんなんだと突っ込みたいところだが手にいれた情報を元に校舎裏に向かえるというもの。
「さ、鞘野さんお、おはよう」
「うん、おはよう」
下駄箱に未だ滞在していた私たちに宮西くんが挨拶してくる。すぐさま美心が近づき何やら耳打ちすると膝から崩れていく。
真っ白になった宮西くんの肩をポンポンと叩き「頑張れ」と声をかけて美心に私は背中を押され教室へ向かう。
いつもより集中できていない授業を受けあっという間に放課後になる。
* * *
校舎裏に途中まで美心とエーヴァの3人で向かう。
「ここからは私1人で行く。人数が多いと警戒されるかもしれないから」
「そうですわね。詩、対処は任せてほしいですわ」
「うん、頼りにしている」
「え? え? 2人ともなんの話?」
ここに来て混乱する美心を置いて私は決戦の地へ向かう。
探さなくても分かる。校舎裏に存在感を放つ男は春香の情報通り身長180センチほど。
体が大きいというのは戦いの場に置いて有利に働くのとが多い。太い腕と太い足、それに首の筋肉も発達している。それでいて引き締まった筋肉はパワーだけでなく素早さも併せ持っているようで攻防共に優れていそうだ。
「突然呼び出して申し訳ないです。僕は山岳誠っていうんですけど、覚えていますか?」
覚えている? はてなんのことやら? ここ最近の記憶を引っ張り出すがこの人の記憶はない。
「ごめんなさい。覚えてません」
私がそう告げると凄いショックを受けたようだったが制服の襟をただし気を取り直して私を正面から見つめる。
「あの、売店であなたと出会い、その華奢な体からは想像も出来ない力に屈服したときにこの人しかいない! そう思いました。付き合って下さい!!」
そう言って頭を下げる山岳先輩。
ヤバい全然思い出せない……だれだこの人? 私は激しく困惑する。
最近色々ありすぎて日常のことあんまり覚えてないんだよね。でもこういうときの対処方法を美心から教えてもらっている。
「ごめんなさい。お友達でお願いします」
ペコリとお辞儀をする。完璧だ。
膝から崩れる山岳先輩。あれ? 一番無難で傷つけないセリフだって聞いたけど……
──!?
少し離れたところで僅かにシュナイダーの魔力を感じる。私が後ろを振り返るとエーヴァが校舎の影から顔を出し親指を立てくいくいっとして「行くぞ」と訴えてくる。
ちょうどそのとき私の方へ必死に走って来る宮西くん。流石である!
「分かってる。あっちは任せて。宮西くんは彼をお願い」
「え? あっち? な、なんのこと? 彼? え、えーーーー!?」
山岳先輩のことは宮西くんに任せて私は走ってエーヴァと合流し学校から出てシュナイダーの元へと急ぐのだ。
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